英雄ガリバルディの生涯

イタリアか、死か
　英雄ガリバルディの生涯

　　マックス・ガロ、米川良夫、樋口裕一、中央公論新社、2001。

序　オペラ的人生

　この男の顔だちと眼差しにごまかしはない。
　1807.7/4、ジュゼッペ・ガリバルディ、ニースに産まれる。
　歴史的な人物の中には、その肉体をなおざりにしても構わない者がある。宮殿の奥に身を隠している君主、引き篭ったままの独裁者。しかし、ガリバルディは、肉体と容貌があってのものだ。デュマは友人となり、二冊の本を捧げ、ユゴーは賛辞を贈る。
　ジョルジュ・サンド談、「ガリバルディは誰にも似ていない。彼には神秘がある。この孤立無縁の男が、奇跡の人となる。彼は諸国の王座を震えさせ、新時代の巾職となる。全ヨーロッパが注目して、今どこにいるのか、昨日は何をしたのか問いかける。それというのも、彼が英雄時代の信仰を体現しているからであり、騎士道の驚異がこの十九世紀に再現されている為である」
　オペラさながらの生涯。民衆はオペラを好む。生彩に富む音楽の中に、心と声の躍動の中に、台本のあからさまな非論理性の中に、極端な感情と情況の中に、詩と音楽に昇華された自分達の夢と恐怖とを見い出すのだ。
　作家アルフォンス・カール　「私がガリバルディと握手する栄誉に恵まれたのは、地元の労働者の宴会の席でだった。彼は穏やかで、控え目で気さくだった。気さくさは、彼のあらゆる物腰に現れていた。彼は後も、海辺の界隈で、船乗り達とペタンク遊びに興じていた」
　ニースにガリバルディ広場がある。東は旧市街、労働者の町。1891.10/4、広場の真ん中にガリバルディ像が建立される。そこは、建築労働者の溜まり場となる。それら石工、大工、職人らは北イタリアからの出稼ぎ人。

第一幕　原初に船乗りありき

第一景　母なる都市

　母ローザ・マリア・ニコレッタ・ガリバルディ。小柄、黒髪、大きな眼、信仰篤く、慈悲深い。自分の命にまして子供を愛するイタリア女の例に漏れず、また息子らは、この慎ましい女性を世の誰にも勝る素晴らしい母親と思い込む。
　こういう母親は、南国の息子たちに、愛されているという確信、自分は希有な者だという信念を与えてくれる。だが、母親から与えられたこの激情、この自信を持って世に出るや、世界は自分達に対して母親の優しさも寛大さも持ち合わせていない事に気付く。そこで彼らを襲うのは、失意とためらいと子供時代の追憶である。
　このイタリア気質は分裂している。行動し、突進し、母親の為の英雄ごっこはいつまでも終わらず、ありったけの栄光を彼女へのお土産に、受け取った愛情へのお返しとして、持ち帰ろうとするのだ。しかし、彼らは不意に身をかがめ、立ち止まり、泣き出す。
　彼らには二重の顔がある。ガリバルディもその例に漏れない。大胆さと勇気とがあるが、その生涯には何度かの停滞がある。
　優しさと自己満足は、母親譲り。母親は自分を映す鏡だ。行動している時でも、ガリバルディは自分を見つめている。彼は回想録を書き、書き直す。いつまでも息子の話を聞き飽きない母親に語るように。
　母親を一番の、絶対的な観客として、英雄行為が成り立つ。ガリバルディは虫を死なせては泣き、人を救う為に海に飛び込む。その行為や感情には、素朴さと爽やかさとがある。すべては、母性愛の打算を知らぬ率直さに起源がある。人が世界と最初に結ぶ関係が母親の献身であるとすれば、どうして世界や人間を疑う事があるだろう？　彼の心の底には、人間は善良であり、最後には真実と正義が勝利を治めるに違いないという信念が消しがたく残されている。正義や真実は、子供の頃に知ったからこそ、存在するのだ。

　ほかの兄弟はどうか。
　長男アンジェロ、渡米して商売で成功。晩年は、在フィラデルティア・サルデイニア領事。
　三男ミケーレは普通の人、園芸好き。四男フェリーチェは、貿易会社の代理人で、女好き。娘テレーザは三才で死亡。
　長男に対してローザは、たいていの母親が最初の息子に対してそうであるように、彼女がその子を産んだ事にただ驚いているうち、たちまち横柄になり、独立していった。次男ジュゼッペに対しては、思いのままに優しくし、可愛いがった。三男、四男は、馴れた愛情で迎えられた。ジュゼッペだけが、真の愛情を注がれた。
　しかし、ローザも息子の安全を願う母である。この母は息子を司祭にしたがった。しかし息子は、行動の人であった。勉強より遊びに夢中だった。近くに、海があった。

　ガリバルディ家は十八世紀にまで遡れる。1707or08、リヴィエラ生まれの船乗りステファノ・ガリバルディが祖先。
　その息子アンジェロも船乗り、やがて港湾長となり、ジェノヴァ、やがてニースに住む。
　その息子ドメニコ・ガリバルディこそ英雄の父。十人乗りの小帆船の親方、沿岸運輸が仕事。ジブラルタルもメッシーナ海峡も越えず、慎ましく、信心深く、寡黙な働き者。
　一家が住まうのは港に面したアパルトマンの三階、祖父母、兄弟、従兄弟とともに暮らす。家に家庭教師を置く事のできる中流家庭。
　史上初の徴兵者「人喰い鬼」ナポレオンの時代、両親は子供を守る事を考えた。　1811-12、飢饉、ドンナ・ローザの奉仕。

　ドンナ・ローザ、神学校への入学を希望。しかし、皇帝といい、兵士といい、この時代の歴史は男の子のものだ。
　ガリバルディ、十二才、家出事件。仲間とともに小舟を奪取、ジェノヴァへ行き、そこからアメリカに渡る計画。数時間後、モナコ沖、父の差し向けた船が一行に追い付く。叱責と、帰宅。
　ドンナ・ローザの理解、息子は自分と手を切った。自分の手で未来を開き、母親の夢である司祭、危険を免れている者、法衣をまとい女のような清潔さで職に着く男にはならないのだと理解した。

　ガリバルディ、十五才、見習い水夫となる。二本マストのラ・コスタンツァ号にて、オデッサ就航。

第二景　世界の発見

　美しいコスタンツァ号、舳先にあるのは、木彫りの豊満な女性の胸像。
　雑魚寝、麦わら帽子、いきいきと眼を輝かせた金髪の見習い水夫は、やがて筋骨逞しい日焼けした船乗りとなる。港々で、苦もなく女達から愛される。たとえ上品でなく、永続性がないとしても。小麦を積んでニースに帰ると、いっぱしの男として迎えられる。話題もあり、話術も心得た大人。
　父の船サンタ・レパラータ号、また二本マスト船エネーア号にも乗る。
　気まぐれな地中海の海、南西の突風。目前で沈没する船を助ける事も出来ない。突然、正面から襲いかかる海の暴威、間髪を入れずに見い出すべき対策。帆を上げたり、畳んだり、風の下手に回ったり、波のままに運ばせたり。これを数年で学ぶ。
　逃げ場のない海で風と戦う事は、退却せずに攻撃に耐える事に等しい。未来の指揮官にとって、この上ない教師。
　1825、父とともにローマ就航。心を奪う記念碑とともに、貧しさや教会の腐敗が目に付く。乞食の群と、教皇たちの豪華さの矛盾。民衆の悲惨さに無関心な僧侶。
　コロマンデル号に乗務、ジブラルタル、カナリア諸島。
　1821、ギリシア解放戦争。
　バイロン、ギリシア解放の為にミソロンギで戦死。
　1827、露、英、仏の海軍、ナヴァリーノ湾に集結。
　1828、ロシア・トルコ戦争。フランス軍、ペロポネソス半島に上陸。
　ギリシアの戦いを見て、イタリアに思いを馳せざるを得ないガリバルディ。
　1828、サレルノ、フィラデルフィの蜂起、鎮圧。28名の処刑、故郷に首を晒す。これが、秩序と信仰を重んじる政府のやり方。
　1829.9/、アドリアノープル条約、ギリシア独立。
　警察、密偵が、庶民の生活を嗅ぎ回り、つけ回す毎日。
　1831.5/、画家エクトール・ベルリオーズ、ニースで逮捕。写生している所を、地図を作っていると誤解されたもの。将校と交際さえある身分なのに。
　1820、炭焼き党員シルヴィオ・ペッリコ、オーストリア軍により逮捕。獄中で綴った「我が牢獄」は全ヨーロッパのベストセラーとなる。
　郷党意識の強いイタリア人。祖国を離れて初めて、ニース人、ローマ人、トリノ人である以上にイタリア人であると気付く。
　コンスタンチノープル抑留、戦争の巻き添え。とある家庭で家庭教師となる。
　1832、ノストラ・シニョーラ・デッレ・グラーチィエ号の船長となる。地中海を中心に就航。
　モデナ、パロマ、ボローニャの蜂起。モデナ蜂起のチーロ・メノッティ、ミズレイは処刑。メッテルニヒ発言「イタリアは地理的表現に過ぎない」

　ジュゼッペ・マッツィーニの活動。（1805生まれ）
　マルセイユに本拠を置き、王に公開書簡を送り、青年イタリアを組織し、蜂起を計画する。オーストリア官憲、フランス警察、サルディニア政府の連携による捜査。

　タガンログ寄港。青年イタリア党員ジョヴァンニ・バチスタ・クーネオと接触。
　1833、ガリバルディ、クロリンダ号の一等航海士として就航。
　3/、エミール・バロー率いるサン・シモン主義者の乗船。民族から、さらに世界へ眼を開く。
　ガリバルディ、マルセイユ上陸。マッツィーニとの出会い。28才と26才、静かな出会い。

第三景　陰謀

　初任務はジェノヴァ蜂起。マッツィーニ、青年イタリアの大金をガリバルディに託す。ガリバルディ、ジェノヴァにて徴兵義務に服する。軍隊で仲間を増やすガリバルディ、密偵を恐れない率直さ。非合法、地下活動に向かない性格、愛国心ある水兵さえ、囮ではないかと疑うほどの用心のなさ。当局はガリバルディを泳がせる。
　1834.2/1、スイス警察とサルディニア軍の合同摘発。各地から集結する青年イタリア隊を包囲、逮捕。マッツィーニ、自殺寸前、錯乱、ロンドン亡命。
　ガリバルディ、1/31予定の蜂起が2/4に延期されたと聞いただけ。聾桟敷状態。蜂起失敗と聞いて、フランスに逃亡。ニースでは、同姓の者、実の弟が逮捕されている。
　フランスは安全だと思っているガリバルディ、憲兵に出頭して逮捕。脱走するも、またも旅篭屋で身分を打ち明けるガリバルディ。通報したがる主人、共和主義者の多いプロヴァンス地方で、民謡を歌って難を逃れるガリバルディ。マルセイユに到着。
　1834.6/3、ガリバルディ、故郷で死刑宣告。これにより、一介の船乗りは高貴な存在となった。
　ルイ・フィリップ王政は反動の時代。1830、革命を利用。1831、リヨンの織物工を虐殺。1834、パリ蜂起、虐殺。政治的野心を持たず、ただ金持ちになれと謳われる時代。
　1835、コレラ患者の為に献身するガリバルディ。
　7/28、コルシカ人フィエスキ、王の爆殺未遂事件。亡命者に対する弾圧、抑圧の強化。
　9/、ガリバルディ、ノートニエ号に乗船。行き先は、リオ・デ・ジャネイロ。

第二幕　地球の裏側の戦士

第四景　共和国の海賊

　鬱蒼たる樹木に包まれた砂糖菓子さながらのリオ・デ・ジャネイロ。イタリア移民、青年イタリアの歓迎。ルイージ・ロセッティとの友情。
　ここの在イタリア人は、勝手に統一イタリアを象徴する緑白赤の旗を掲げている。大使が警告するも聞かない。
　資産家ルイージ・ダレカージ、ガリバルディに20ｔ船マッツィーニ号を贈与。そのサロンでのガリバルディ評、「彼はがっしりとした金髪の男、知性と深慮で、ほとんどのイタリア人から突出。議論が沸騰すると、不意に物思いに耽ったり、そしらぬ風をする。聖人のような優しい眼で、子供達と寛いで、同類のように遊ぶ」
　ガリバルディ、フリーメーソンに入る。経済界での人脈を得るには有利。
　ガリバルディ、ロセッティ、沿岸貿易の仕事に乗り出す。騙されやすいガリバルディ、商売には不向き。難品、不渡りを掴まされ、値切る事を知らない。
　1836.3/26、駐在外交官の報告、「エウロパ号とマッツィーニ号、共和国旗を掲げたこの二隻の船が、サルディニア籍船舶の脇を、侮辱の声を上げ、軽蔑の仕草を繰り返しながら通過し続ける。ブラジル政府に抗議しても無駄、これらの船は武装さえしている」
　リオの人口は十四万、白人は四万で大半がポルトガル系、数万が洗礼を受けたインディオ、残りが黒人奴隷。

　ブラジル小史
　1822、ポルトガル王子ドン・ペドロ、本国に対して独立を宣言。
　1831、国内富裕層の圧力に屈して譲位、ドン・ペドロ二世即位。地主や資本家を代表する政府。対して内部には、ガウチョ等、独立心旺盛な武装農民を抱える。
　1835、南部リオ・グランデが共和国として独立。
　その将軍ベント・ゴンサルヴェスの素描、「丈高く、勇敢で寛大なる戦士、才に恵まれながら一介の兵卒と同じアサド（ロースト肉）を食べる非凡な人物」
　モデナ・パルマ蜂起を計画した罪で1831に追放されたティート・リヴィオ・ザンベッカーリ侯爵が将軍の助言者となる。水素気球の発明者フランチェスコ・ザンベッカーリの息子にして、メノッティの盟友。コスモポリタン。
　1836、ゴンサルヴェス将軍、ザンベッカーリ侯爵、捕虜となり、リオに移送。
　ガリバルディ、獄中のザンベッカーリを訪問。私掠船マッツィーニ号によるリオ・グランデ共和国への奉仕を申し出る。
　1837.4/22、マッツィーニ号、リオ・グランデ共和国の認可を受ける。「ブラジル政府の軍艦、商船の航行するすべての海、川を遊弋する権利」　さらに、武力によってそれらの船を奪取、拿捕する権利が与えられる。
　5/8、マッツィーニ号、八人の仲間を載せてリオを出港。
　イリャ・グランデ湾にて、ブラジル籍船ルチーア号に接舷、無抵抗。ガリバルディ配下は、「顔付きからしていかつい上、ひどく獰猛な様相に見せかけていた」
　ルチーア号の奪取、乗組員のうち五人の黒人には自由を与えて仲間にする。乗客を安心させ、身の回りの物、食糧を残して解放。ルチーア号は以降、ファロピリャ号と名乗る。（ぼろを着た娘の意味、南部反乱軍への蔑称）
　さらに、ルチーア号は何と、オーストリア人船主の所有と判明。メッテルニヒのイタリア支配に南米で意赴返し。
　食糧を求めて上陸。大農場エスタンシアの、贅沢で教養溢れる女達が迎える。ダンテやペトラルカを語る夫人、主人は牛一頭をほふって御馳走してくれる。
　リオ・グランデの大統領ベント・ゴンサルヴェスの姉妹、ドナ・アントニアとドナ・アンナと実懇になるガリバルディ。「そのひとり、マヌエラは私の魂を支配した。彼女は大統領の息子の婚約者だったが、私は慕い続けた。この愛情は神聖で、俗なところはなかった。私が戦死したとの誤報で、この天使のごとき女性が胸を傷めたと聞いた。そう知るだけで、私は慰められた」
　野生馬を狩って騎兵隊を編成、部下は数十人に達する。勇敢だが、ならず者。
　サンタ・カタリーナ州イマルイ村の襲撃。ガリバルディの証言、「略奪のない事を願った」「私は、これほど悔恨と嫌悪に満たされた一日を経験した事がない」
　部下に対して剣を抜き、脅したり、時には殺したりもするガリバルディ。しかし、この野蛮人は、船倉で死んだ戦友の腹の上でサイコロを転がし、盗んだ物を賭けているのだ。
　「人間というものは、教化されていても邪悪に向かう。教化されてない場合は、それどころではない」
　数週間戦い、次の数ケ月は平和に暮らす。大平原とエスタンシアを交互に往復するガリバルディ。
　ゆったりしたズボンとポンチョに馴れる。その後になって、どうして堅苦しい軍服なぞ受け入れる事ができようか。
　理論家マッツィーニや、サルディニア政府の役人や大臣の、事務室に閉じ篭ったまま、こせこせした作業に没頭する毎日とは、大海原ほどの開きがある。
　1836、ブラジルvsリオ・グランデ、十年戦争。
　ガリバルディ、船団を率いてラ・プラタ川周辺を就航。
　ウルグアイとアルゼンチンとの確執。ウルグアイ、共和国としてアルゼンチンから独立。首都はモンテビデオ、対する首都はブエノスアイレス。
　1831、ホアン・マヌエル・デ・ロサス、アルゼンチンを独裁。人口十万の美しいモンテビデオは、共和制とヨーロッパ趣味の象徴として敵視。
　ロサスの同盟者マヌエル・オリベ、ウルグアイで内乱を起こす。
　ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンは、リオ・グランデに対しては敵対して同盟を結んでいる。
　1837、ガリバルディ、ウルグアイ船の追跡を受ける。銃撃戦、首に被弾。アルゼンチン領グアレグアイに逃亡。知事兼豪商ドン・ハリント・アンドレウスの庇護、一年の治療と休養。
　ガリバルディ、逃亡して逮捕。グアレグアイの警察長官による拷問。この試練は、ガリバルディを今世紀の革命家に近付け、将軍や国家元首、思想家や官僚から遠ざける。ただ、拷問の後遺症は生涯つづく。
　1838、ガリバルディ、モンテビデオに居住。政府よりもイタリア人共同体が援助。リオ・グランデ共和国の為の船団を再組織。
　ガリバルディ、リオ・パルド号を指揮。米ジョン・グリッグス、レプブリカーノ号を指揮。
　滝のような雨の中、長い森林行軍の後、ゴンサルヴェスと初会見。
　敵150人の包囲、味方は14、敵中にオーストリア歩兵がいて、ヨーロッパでの戦いを新大陸で再現する。河口は帝国軍に押さえられているので、200頭の家畜に引っ張らせて潟を船で横切る。荒天での帆走、難破、全員溺死。
　ガリバルディ、32才、家庭を求める気持ち。

第五景　女、戦争、子供

　船尾上甲板を歩くガリバルディ、退屈して望遠鏡でラグーナの町を覗く。ひとりの女性に眼を止めて、寄港。その場所を探すが、居ない。かねてより知り合いの家を訪ねると、そこに居るのが当の女性アニータ。
　アニーニャス・リベイロ・ダ・シルヴァ、1821生まれ。アーモンドのように大きい眼、肌は浅黒く、筋肉質、胸は豊か、敏捷で毅然とした若き女傑。
　漁師の娘。しつこく言い寄る男の眼差しが気に入らず、その男の吸う葉巻をその顔に押し付けたエピソードあり。十四才、未亡人となった母から結婚をせかされ、普通の人マヌエル・ドゥアルテ・デ・アギアルと結婚するも、不満足。
　1839.7/22、サンタ・カタリナ州ラグーナ、リオ・グランデ軍に占拠される。ガリバルディ、イタパリカ号にて奮戦、帝国軍の敗走。住民四千は併合を歓迎、ガリバルディは英雄、解放者となる。
　甲板や町を所在なく散歩するガリバルディ。アニータ、その夫は長く不在、軍務について消息不明。船乗り、兵隊、放浪者の常として、女に手間暇かける習慣のないガリバルディ。だが、アニータがそれを一変させる。
　1839、末、イタパリカ号に乗船するアニータ。
　南アメリカ大陸の女は、物腰が誇り高い。ここでは、男達が乱暴であたり構わぬ性分である分だけ、女達は必要とあらば、ひとりで身を守る術を心得ている。その為、彼女らは頭をしっかりともたげ、貴族ﾋﾀﾞﾙｺﾞの風格を持っている。その代わり、女に言い寄る男達も、それにふさわしく在らねばならない。
　ラグーナ沖での海戦。帝国艦隊に対して、砲撃を指揮するアニータ。ガリバルディ談、「私達は、戦いで死ぬ覚悟をしていた。この決意は、アニータのアマゾネスらしい堂々たる外観で強められていた。彼女は船から降りる事を好まず、激しい戦闘で栄光ある役割りを果たそうとした」
　帝国艦隊の逆襲、乗組員を勇気づけるアニータ。
　船の炎上、60人の逃避行。五ケ月の行軍の後、ゴンサルヴェス本隊と合流。ただし、この五ケ月は非連続で、馬を追ったり、牛を屠ったりしながらの、ガウチョさながらの行軍。振り返っても郷愁を誘う、良き時代。
　「私は愛する妻をつれて馬に乗った。誰からも感嘆されるに値する妻だった。自分の身を包むだけの服しか持ってなくても、そんな事にかまいはしない。１スーさえ人に与えられない貧しい共和国の任務に就いていても平気。剣と小銃は鞍にさした。わがアニータは宝だった。彼女は、民衆の神聖なる大義や、冒険生活に対して、私に劣らぬほど熱心だった」
　戦士ガリバルディの現代的意味。反逆から生まれたマルクス主義は官僚化され、人間味を失っている。それを気付かせてくれる。
　ゴンサルヴェスへの失望、決断力の欠如。「攻撃を開始する時には冷静沈着に熟考しなければならないが、いったん決断を下したら、持てる力を尽くして、最後の貯えまで注ぎ込まねばならない」
　勇敢な兵はほんのひと握り、多くの兵は臆病で、規律違反をする。統率の取れない部隊、命令する事の難しさ。幻滅と逆境の中での戦闘。
　1840.7/、理想を失うガリバルディ、リオ・グランデは民衆のものではなく、ガウチョの富裕層の為のものだ。
　9/16、長男メノッティの誕生。その身を包むのにスカーフ一枚しかない。ガリバルディ、服と食べ物を求めて戦場を出る。帰って見れば、出産後12日のアニータは子供とともに敵から逃げていた。再会しての、再びの退却。
　ロセッティの死、亡命者アンザーニとの出会い。イタリアへの郷愁。
　ゴンサルヴェスとの別離。功績に対して、九百頭の家畜の贈与。増水、経験不足、傭兵の不実で、モンテビデオに到着した時には、何枚かの牛革を残すのみ。

第六景　モンテビデオの赤シャツ

　ガリバルディが腰を落ち着けたのは、モンテビデオ、ポルトン街十四。二つの小部屋、低い天井と、身に迫る台所。ガリバルディの貧しさ、かつ、その品行の正しさを語る慎ましい住まい。質素と粗野には、平気。贅沢を求めない。
　南米でのニュースは、ヨーロッパでは増幅されて伝わる。
　1841.4/3、父ドメニコ死亡の報せ。
　1842.3/26、妻の前夫ドゥアルテ死亡の確認、入籍。アニータは家庭に専念。長女ロジータ、次男リッチョッティの誕生。
　布、小麦、チーズの行商に失敗。亡命司祭ポール・セミデーイの勧めで、数学と歴史の家庭教師になる。
　ウルグアイ、アルゼンチンの緊張に列強の利害が加わる。フランス、ブエノスアイレスを封鎖。イギリス、アルゼンチン支援に派兵。米ジョン・コー、ウルグアイ艦隊を指揮。対ナポレオン戦争の生き残り、英ウィリアム・ブラウン、アルゼンチン艦隊を指揮。世界の注目、またも大袈裟に伝えられる戦況。新聞は英雄を必要としている。
　1842、ウルグアイ海軍、アルゼンチン海軍に敗北、リベラ将軍、ガリバルディを大佐として招聘。
　その任務、アルゼンチン内で蜂起したコリエンテス市民を援護する為、ラ・プラタ川を遡る艦隊の指揮。
　1842.8/、ブラウン艦隊との対戦。砲弾が尽きると、錨の鎖を使う。それも尽きると、船を燃やして逃げる。
　アロヨ・グランデ、ウルグアイ陸軍の大敗。1500人の死者。ガリバルディ、首都防衛に向かう。
　1843.2/16～1851.10/、モンテビデオ包囲戦。首都防衛軍はたった4236、対するオリベ軍は12000。さらに、ロサス＆オリベの勧誘で相次ぐ脱走。デュマはこれを「新しきトロイア」と評する。
　モンテビデオ、大衆動員。自由の砦、革命的雰囲気。パス将軍、パチェコ将軍の到着。女子供も働く、制服を縫う。街道沿いで柵になっていたスペイン時代の古い大砲まで引っ張り出される。この雰囲気の中、故郷に帰ったように寛ぐガリバルディ。
　食糧輸送、おとり突撃、ブラウン艦隊との小競り合いが任務。ガリバルディの名は伝説になる。
　1843.6/2、イタリア人部隊の敗走。ガリバルディ、綱紀粛正。ヴェスヴィオ火山の旗、赤シャツ、赤マフラーの制服。その赤シャツは、食肉工場の制服を転用したもの。
　1850、デュマ、「モンテビデオ、または新しきトロイア」を出版。面識のないガリバルディがヨーロッパに売り出される。
　ラ・プラタ貿易を守る為、イギリス、フランスに歩み寄る。
　全住民の戦い、飢え、伝染病、そして不安。
　マトレロを賛美するガリバルディ。マトレロとは、ガウチョ、牧童、猟師の総称。彼らは自由と独立の為、ウルグアイの為に働いた。盟友、ホアン・ド・ラ・クルス、ホセ・ムンデル。
　1846.2/8、ガリバルディ＆ムンデル率いる180、1500の包囲を受けて退却せず進軍。死者30で、目的地サントに到達。世界的な武勲。
　戦争大臣パチェコ、ガリバルディ宅を訪問。蝋燭さえない質素な家、百枚の金貨を渡すが、ガリバルディはそれを隣人と分ける。
　ウルグアイ政府、イタリア人部隊に対して土地の贈与を検討。ガリバルディの答え、「我々は、我々を歓待してくれた住民と危険をともにするという栄誉のみを報酬として願い、共和国に協力してきました。このような行動は、ただ自らの良心に従ったまでです。我々は、包囲という困難な状況によって求められる限り、ただ為すべき義務と信じる事をなし、勇敢なるモンテビデオ人と労働と危険を分けあう所存であり、その労苦の代価としていかなる報酬も求めません」
　すべての証言が、ガリバルディの清廉潔白さを語る。
　フランス提督レネ、「貴兄の素朴と質実を称えます。将軍閣下、わが心からの尊敬の念をお受け取り下さい」
　イギリス提督ハウデン、「野心家に囲まれているだけに、いっそう希少な無私のゆえ、我々も喜んで敬意を表する」
　イギリス外交官オーズリ、「試練を受けては名誉が輝き、実証しては炯眼が示される」　蝋燭ひとつ買う金さえ持たないばかりか「自分の服の惨めな状態を隠そうとして、ポンチョを閉じたままにしておいた。しかるべき服を手に入れる方策を持たなかったのだ」

　イタリア本国の政策転換。
　カルロ・アルベルト、1831、1834とマッツィーニ派を弾圧しながら、王冠を失うのを恐れて、民族運動の取り込みを模索する。軍隊、教育、通信、裁判、商業の近代化。オーストリアへの対抗意識。
　1843、ジョベルティ神父著「イタリア国民の文化的道徳的優越性」　イタリア統一の為に教皇と国王が手を組む事を提案。
　バルボ伯爵著「イタリアの希望」　オーストリアからの解放をサルディニアに期待。
　1844、カラブリアのバンディエーラ兄弟蜂起の失敗。ニコラ・リッチョッティを含む18名の処刑。
　1846.6/、教皇ピウス九世の選出、政治犯の釈放、亡命者の帰国を匂わせる。8 /24、教化改善計画の回状。「ビバ・ピオ・ノーノ」との民衆の叫び。
　1847、マッシモ・ダゼーリオ著「世論プログラム」
　1847.12/、トリノ貴族カヴール、新聞「イル・リソルジメント」発行。
　カフェや劇場で、遠く南米のガリバルディ将軍の活躍を報せるチラシが撒かれる。サン・アントニオでの退却行が、新聞では輝かしい武勲として紹介。ロジエ大佐、「赤シャツ隊」の叙事詩を語る。
　ヴァルミー、アウステルリッツ、ライプツィヒ、ワーテルローの反響がまだ残る中で、自国が統一された大国であってほしいと願うイタリア民衆は、ガリバルディの中に自らの姿を認めた。
　1847.10/12、ガリバルディ＆アンザーニ、ピウス九世宛の書簡。「すでに五年、包囲された中で、我々は勇気と忍耐を示して来ました。イタリア古代からの精神のお陰で、われら部隊は他に抜きん出て活躍しました」　追放されたイタリア人こそ、本当のイタリア人です。「いま、武器に馴れた手を教皇の下に受け入れて頂けるのであれば、祖国と教会の為に多くをなさってこられた方の下で、今まで以上に腕を振るう事は言うまでもありません」　返事はなし。
　イタリア独立統一の機運、ガリバルディ、帰国を決意。ただし、死刑宣告を受けた自分はどういう扱いを受けるか判らないから、妻子は腹心のメディチに預けて先にジェノヴァへ帰す。
　ジェノヴァ市民、アニタを歓迎する。その後も、船が寄港する度に、ガリバルディかと期待する市民。
　1848.4/15、ラ・スペランツァ号、ガリバルディを含む63名を乗せてモンテビデオを出港。

第三幕　国民の英雄

第七景　民衆と王の間

　1845-46、飢饉、物価高騰。民衆、食糧のオーストリア向け輸出を非難。メッテルニヒ、クロアチア軍を送ってラデツキー元帥軍を補強。
　１８４８年、奇跡と反動の年。
　1848.1/、パレルモ、シチリア人による権力奪取。
　2/10、シチリアを治めるナポリ王政府、憲法の承認。
　2/17、トスカナ大公、自由主義の圧力に屈して憲法発布。
　2/24、仏ルイ・フィリップ、パリを追われる。
　3/15、ウィーン暴動、メッテルニヒ追放。
　同日、ピウス九世、憲法を承認。
　ミラノ蜂起、軍事評議会の承認、農民の合流、五日間の戦闘で都市を解放。ただし、ラデツキは自軍を温存。
　3/22、サン・マルコの蜂起。工員、船乗りがオーストリア軍を追放。共和国を宣言。
　3/、末、カルロ・アルベルト、四万のピエモンテ軍を率いてオーストリア駐留軍へ進撃。トスカナ、ナポリ、教皇軍の合流。
　ラデツキ元帥、主力をヴェロナ、マントヴァ、レニャーゴ、ペスキエーラに撤退。
　カルロ・アルベルト、マントヴァ近郊ゴーイト、ペスキエーラを奪取。ただし、そこで踏み停まる。敵はオーストリアだけでない、背後の民衆も信用できない。
　4/、ピウス九世、諸国全民衆の司たる自分は、オーストリア攻撃軍を率いる事はできないと宣言。
　5/15、ナポリ、フェルディナンド二世、革命勢力を鎮圧。
　6/、プラハ、ウィーン、パリ、民主主義の後退。
　6/11、ラデツキ元帥の反撃、ヴィチェンツァ奪取。
　6/21、スペランツァ号、ニース沖アンジュ湾に停泊。
　ふた月遅れのニュースに接しているガリバルディ、船上で抱き合い、感涙した仲間。それを迎えるのは反動下のニース。あらゆる情報を手にしている者、パリの市街で銃声を耳にし、バリケードが打ち破られるのを目にした者にとっては、ガリバルディ一行の喜びと熱狂、それを迎える騒ぎほど悲壮なものはない。
　6/25、オテル・ディヨルクでの歓迎会。ホテルの向かい、サン・ドミニク兵舎に63人が駐留。
　ガリバルディ、フランス語での演説。「私はサルディニア王の下に参じて、王の為にわが血のすべてを注ぎ込もうとしております。全イタリア人が私のように考える事を確信しております」
　6/28、一行、ジェノヴァに到着。新たに67名の合流。
　ピエモンテ・サルディニア王国には、トリノの霧、冬の厳しさのせいで、陰険さと打算とがある。フランス、オーストリアの二大国に挟まれて、顔色を伺い、いつ不満を爆発させるか知れない。
　7/4、ガリバルディ、カルロ・アルベルト、正規軍本営で対面。軽蔑と猜疑で迎える王、その優柔不断さに、祖国の未来は芳しくないと嘆くガリバルディ。
　トリノ宮廷、ガリバルディをたらい回し。
　ガリバルディ配下の志願兵は二百に満たない。しかし、カルロ・アルベルトは、その二百に満たない志願兵が民衆蜂起の引き金になりかねないと警戒する。うまく使えばオーストリアへの戦力となるが、ひとつ間違えば自分に刃を向けかねない。ガリバルディは飼い殺し。
　7/、ミラノ臨時政府、ガリバルディを将軍として招聘。
　7/25、ラデツキの攻撃、サルディニア軍、クストーザでの敗退。
　8/9、カルロ・アルベルト、停戦に合意。
　マッツィーニの宣言、「王の戦争は終わった。これから、民衆の戦争が始まるのだ」
　ガリバルディ、マッツィーニに合流。
　ガリバルディ、北イタリアで手勢を率い、ゲリラ戦、パルチザン戦で対オーストリア戦線を継続しようと試みる。
　コモ湖周辺で転戦するガリバルディ。しかし、スイス国境が近くなると、マッツィーニまでが亡命してしまう。頼りとする地元民は、逃げ出すばかりか、敵に密告さえする。農民や山岳民にまで国家という意識はなく、あるのは郷党意識のみ。
　辺境出身のガリバルディは、トスカナ、ヴェネツィア、トリノ、ジェノヴァ、どこにでも受け入れられる。しかし、その出身地、長い亡命生活の故に、イタリアの郷党意識を知らない。それを、ここで思い切り知らされる。
　9/26、ガリバルディ、ジェノヴァ入り。熱狂的な歓迎。
　シチリアからの招聘、ガリバルディと配下72名、出港。
　リヴォルノの寄港、長居して予定変更。気の向くまま、ナポリ、フィレンツェ、ボローニャ、ラヴェンナへ赴く。百名以下の軍勢だが、それが蜂起の導火線となるかも知れない。演説、家畜の捕獲。
　11/16、ピウス九世配下ペレグリーノ・ロッシ、暗殺。
　11/24、ピウス九世、ガエータへ逃亡。トスカナ大公と合流。
　ローマへ向かうガリバルディ。

第八景　最後の力まで

　アペニン越え、山賊そのものの軍隊。民衆の警戒。
　ローマもまた優柔不断、何世紀ものあいだ服従に耐えたローマ。教皇庁政府の小うるさい監視、新聞は検閲、会話は盗聴、典礼出席の義務。文盲率は90％。
　ローマ議員選挙。マッツィーニ、ガリバルディ、オルシーニ伯爵が当選。
　1849.2/、カピトリウム丘に集合、しかる後にカンチェレリーエ宮殿にて初議会。
　2/9、議会、ローマ共和国を宣言。教皇の世俗権力の奪取、教会財産の凍結、新聞・教育の自由、市民の平等。
　3/6、マッツィーニ、ローマに到着。教会財産を分割、貧農に配布する計画。
　3/29、マッツィーニ、アルメッリーニ、サッフィ、ローマ三執政官となる。
　農民の非協力を教会のせいにするガリバルディ、若干の偶像破壊。ガリバルディ、教会支持者にとって反教会闘争の象徴となる。
　イタリア農民とは何か。文盲で、借金苦に押し潰されている。ガリバルディはそれを理解できず、軽蔑する。農民の用心深さ、頑固さ、慎ましさが理解できない。そのすべてを、「坊主ども」のせいにするガリバルディ。富と貧困、搾取については一切語らないガリバルディ。「ただひとつの市民、貴族から庶民まで、金持ちから貧乏人まで、誰もが解放された祖国を見たいと願う時、統治形態など瞬時も気にせず、ひとつになれる」
　1848.10/、ブダペストの反乱。オーストリア皇帝、オルミュッツに逃亡。イタリア、つかの間の自由。
　1849.1/5、オーストリア軍、反乱を鎮圧。
　3/12、ピエモンテ軍、停戦破棄。
　3/23、ノヴァーラにて、オーストリア軍、ピエモンテ軍を撃破。
　カルロ・アルベルト譲位。息子のヴィットリオ・エマヌエレ二世、29才で即位。
　5/11、オーストリア軍、フィレンツェ入城。
　8/、パルマ、モデナ両公国を復活。
　ナポリ王、シチリア征服。イタリア中の監獄は満杯。
　ガリバルディはローマに在住。このままでは、オーストリア軍と、ブルボン王家ナポリ軍に挟撃されてしまう。

　ローマ包囲戦の流れ。
　4/20、ピウス九世の声明。カトリック諸国よ、野蛮人から助けてくれ、街と領土を返してくれ。
　4/、パリ国民議会、ウディノー指揮下の軍をローマ北西チヴィタヴェッキアに派遣、駐屯。
　4/23、ローマ議会、ガリバルディを指揮官に任命。1200名の軍、マッジョーレ門を通り、サン・ピエトロ広場に野営。
　ガリバルディを快く思わぬ軍事委員会指導者カルロ・ピサカーネ、その上に陸軍大臣アヴェッツァーナ、司令長官ロゼッリを据える。ロゼッリとガリバルディの不仲。
　マッツィーニ、共和国としてのフランスへの信頼。「この衝突は痛恨の念に耐えない。我らはフランスを愛し、フランスの統一を尊重している」　対するガリバルディ、「私も戦争には少しばかり詳しいのだ」
　4/28、ほとんど形式と心得るウディノーの進軍、ローマ郊外で何人かの羊飼いと会っただけ。対するガリバルディ、待ち伏せ作戦。
　4/30、ヴェッラ・コルシーニでの迎撃、フランス軍の敗走。死者、自軍200、敵軍300、捕虜375、しかもその何人かは投げ縄で捕えられた。
　戦場の男ガリバルディ、その的確な判断。追撃を希望するが、執政官＆軍事委員会はそれを許さず。後に語るガリバルディ、「もし、マッツィーニに、実際的な資質、戦争の実務があったなら、あれほど間違いは犯さなかっただろうし、私が語っているあの状況の際に、たとえイタリアを救う事はできなくても、ローマの敗北を際限なく遅らせる事はできただろう」
　パリ議会、328vs214で調停案を可決。レセップス領事を派遣。しかし、これは単なる時間稼ぎ。派遣部隊の増援、三千から三万に。
　共和国大統領ルイ・ナポレオン「わが軍の名誉が掛かっている」
　5/13、フランス選挙、右翼・秩序党の躍進。
　ガリバルディの抗議、追撃すべきだったのに。おまけにローマ政府は、捕虜まで解放してしまった。
　ローマ政府、厄介払いにガリバルディをナポリ迎撃に派遣。
　パレストリーナ、ヴェレトリ、両地での勝利。ガリバルディ、ナポリ軍を撃退。黒人アンドレア・アギヤールとともに、馴れぬ兵を率いて、体を張って戦うガリバルディ。事故で、騎馬隊の下敷きになるも、どこも傷めていないと言い聞かして立ち上がる。
　地図の上でしか作戦を立てられない士官よりは、指導者としてどれほど優れているか。たちまち戦場に適応、食糧が不足すると、領内の牛を殺して食べる。この「悪魔のような人間」を前に、ナボリ王は軍を撤収。
　6/1、ウディノー将軍、ローマ執政官に対して宣戦布告。
　6/2-3、仏軍、ジャニコロ丘の要衝コルシーニ邸とパンフィリ邸を占拠。
　ガリバルディの失策、失地回復の為の無駄なあがき。モンテビデオ人を含む最上等の兵500を失う。
　6/13、パリ。左翼モンタニャール派、フランス介入に抗議デモ。政府、これを鎮圧。
　6/26、病身のアニータ、戦線をくぐって、ローマのガリバルディに合流。
　7/1、ウディノー、総攻撃。正午、24時間の休戦。死者、仏1024、伊2000。
　7/2、ガリバルディ、サン・ピエトロ広場での集合。歩兵3000、騎兵400を前に、これからローマを出て転戦する決意を語る。アニータを含む部隊の出発。
　アメリカ領事、ガリバルディに亡命を勧めるが断られる。
　7/3、フランス軍、ローマ入城。オーストリアの反動政策、かつての諸侯、大公を復位。パルマ、パレルモ、フィレンツェ、ナポリ、イタリア全土で愛国者の弾圧。ナポリとパレルモの監獄では、15000の囚人が獄死。大英帝国議会、パーマストンの抗議。
　7/、ガリバルディ、唯一抵抗を続けるヴィネツィアへ向かう。フランス軍の追跡、さらに、オーストリア軍の追跡。
　隊員の脱落、農民の非協力と裏切り。
　7/31、中立を守るサン・マリーノ共和国、1500名のガリバルディ部隊到着。摂政はオーストリア政府を憚って入城を拒否。城外の教会にて、解散命令。なおも 250名が残る。
　8/1、チェゼナティコにて、オーストリア軍の衛兵所を制圧。船を奪い、ヴェネツィア目指して出港。深夜、オーストリア艦隊の待ち伏せ。
　8/3、ポー川河口ピアラッツァに接岸。
　8/4、15:45、ガリバルディ、医師ナンニ、ラヴァリア兄弟、士官ボネ、近所の農民の見守る中、妻アニータ死亡。
　十九世紀、二十世紀を通して、政治指導者として、自らの命を危険に晒し、つき従う伴侶をおのれの手で大地に返さねばならない男とは、いかなる存在か。近代の英雄、現代のゲリラの誰もが、ガリバルディのこの重みに達する事はなかった。
　従軍司祭ウーゴ・バッシ、逮捕、拷問ののち銃殺。
　九人、逮捕、農民の前で銃殺。
　ローマの馬子チチェルアッキオと二人の息子、銃殺。
　モンテビデオ以来の勇士レッジェーロとレブレーオ、逮捕、銃殺。
　処分の厳しさには、反動政権の恐怖心が隠されている。
　8/26、ヴェネツィアの敗北、指導者ダニエル・マニンは亡命。
　ガリバルディ、単独での逃走。ラヴェンナの松林、アペニン山脈、ロマーニャ国境、トスカナ大公国を横切って、ステルリーノ湾。
　9/2、リグリアから出帆。
　9/6、ピエモンテ領内ジェノヴァに上陸。アメリカ亡命か、拘禁かの選択を迫られる。ラ・マルモラ将軍、ガリバルディの希望を入れてニース入り。再び、ジェノヴァへ。
　9/15、ガリバルディ、トリノ議会にチュニス行きを希望。
　チュニス総督、フランスの圧力で上陸を拒否。
　ガリバルディ、マッダレーナ島に隠棲。ピエモンテ政府、逮捕の意志。
　1850.6/、ジブラルタルへ出港、さらにリヴァプール、ニューヨークへと向かう。

第九景　私生活

　1850.7/30、ニューヨーク・タイムズ紙、「モンテビデオの英雄にして、ローマの防衛者ガリバルディの到着」を伝える。
　多くの亡命者を抱えるニューヨーク。
　フェリーチェ・フォレスティ、炭焼き党員、死刑判決、投獄、恩赦の後に亡命。現コロンビア大イタリア語教授。
　アントニオ・メウッチ、フィレンツェ出身、グラハム・ベルよりも先に電話を開発するも資金不足で断念。蝋燭製造業で成功。
　メウッチの蝋燭工場で、働きたい時に働く、気ままな立場で職を得るガリバルディ。雇い主である以上に友人であるメウッチ、ともに釣りや狩りを楽しむ。
　ジェノヴァ商船船長の証言、「シャツをまくり上げ、店の片隅にへばり付いて、懸命になって、短い竿にそって伸ばした灯芯を煮えたぎる油脂の桶にもぐり込ませてはまた突っ込んでいる」姿を見た。
　工場仕事に向かないガリバルディ、貿易船の荷降ろし作業の手伝いを申し出るが、市民権がないので断られる。
　1851-54、遠洋航海商船の船長に就職。太平洋、中国インドシナ沿岸、ホーン岬越え、大西洋、ヨーロッパ就航。
　将軍としての栄光の陰に追いやられているが、船長としても優秀なガリバルディ。満載の商船での太平洋越え、嵐のホーン岬越えは、船乗りの誰もができる事ではない。
　1852.1/10、400tのカルメン号で、リマから中国まで海鳥糞ｸﾞｱﾉを運ぶ。
　3/19、航海中、母の葬儀を夢に見るガリバルディ。同日、母の死亡。
　コモンウェルス号の指揮を取り、ヨーロッパへ向かう。

　1852、マントヴァ、マッツィーニ派の九人を処刑。
　1853.2/6、マッツィーニ、ミラノ蜂起を画策して失敗。
　1857、カルロ・ピサカーネ、ナポリ蜂起の失敗、自殺。
　ガリバルディはイタリア愛国者の中で「冒険好き」のように見られながらも、マッツィーニやピサカーネに比べると、より慎重で、理性的に見える。革命家たちの捨て身の行動をよそに、ガリバルディは私生活を築きながら、もっとうまく政治の空気を感じとり、臆病でも打算でもなく、巧みに快楽と休息を織り交ぜた生活を送る。マッツィーニが不平を言明するのをよそに、ガリバルディは生活が与えてくれるものを快活に味わう。太平洋の心地よい風、友人や女、半分に分け合って食べるトマトやチーズ。賢者というべきか。生まれや職業のせいで、現実との接触を絶やさずにいられる人間だ。

　ロンドン到着、米領事サンダース邸での会食。マッツィーニ、ゲルツェン、ハンガリーのコッシュート、後の米大統領ブキャナン大使が列席。マッツィーニの計画をはねつけるガリバルディ、「自分は彼らの中で暮らした事があるから、イタリアの大衆をよく知っている。マッツィーニにはそんな経験はない」

　トリノの民族独立政策。
　ヴィットリオ・エマヌエレ二世、即位は29才、小柄、醜男だが、勇敢で、兵士たらんと欲する。伸ばした口髭、怒気を含んだ眼。ことさら、ぶっきらぼうな態度を装う。狩りが好きで、女たちを元気一杯に犯しまくる。貴婦人よりは、召使や百姓女を好む。
　反動の時代の中、トリノのみは憲法を護持。ピエモンテ・サルディニア王国では、書き、考え、出版する事ができた。全イタリアからの愛国者の避難場所となる。ヴェネツィア、ロンバルディア、シチリア、トスカナ、ダルマチアの人までが、トリノをイタリアの精神的首都と見なす。
　側近マッシモ・ダゼーリオは愛国者。教会の牽制を提案。
　カミッロ・ベンソ・ディ・カヴール伯爵、外交重視、ピエモンテをイタリア統一の磁場にする計画。1810生まれ。茶目っけと知性を眼鏡の奥に隠した小柄な男。危険や命令が好きで、費えには物惜しみせず、寛大な愛情を持つ点では貴族であり、利益に対する貪欲、仕事への情熱、経済や財政への知識ではブルジョワ。ピエモンテにおける、ブルジョワと貴族の融和を一身に体現。ピエモンテが近代化すると、南イタリアの労働者が入って来る。
　1847、カヴール、トリノ銀行を設立。
　1852、宰相に就任。修道会の廃止、その財産没収。
　1854、クリミア戦争、英仏vs露。カヴールは対外政策として英仏に協力、セバストポリに15000を派兵。死者39、コレラ死者2000ながら奮戦。
　1856、カヴール、パリ会議にイタリア問題を提議。
　1859、鉄道敷設、港湾の整備、軍隊の近代化。

　1854、ロンドンでのガリバルディ、社交界での人気者。
　英未亡人エンマ・ロバーツ、伊伯爵令嬢マリア・マルティーニ・デッラ・トッレ、ガリバルディの寵を争う。22才の女性記者ジェシー・ホワイトとの友情。
　五十路に近付いて、今までとはまったく違うタイプの女性に取り囲まれたガリバルディ。固苦しい晩餐からは逃げ出したものの、この境遇は満更でもなかった。
　1854.5/10、ガリバルディ、ニースに帰郷。メノッティ、十四。テレジータ、十。リッチョッティ、七。父親として親身に子供の世話をする。作家アルフォンス・カールの証言、日曜日になるとラザレ地区で船乗り達とペタンク遊びをするガリバルディ。その素朴さと控え目さ。
　エンマ・ロバーツ、ジェシー・ホワイトとともにニース訪問。

　トリノ政府にいじめられるニース。
　1851、かつての自由港ニース、その特権を失う。
　ジェノヴァの発展、ジェノヴァと首都トリノを結ぶ鉄道完成。見捨てられたニース。
　トリノ、軍事貯蔵庫をジェノヴァからラ・スペーツィアへ移転。なぜ、ニース近郊のヴィルフランシュではないのか。
　対するフランスは、ニースの海産物を買ってくれる。マルセイユやトゥーロンから観光客も来る。ニース・クーネオ間の鉄道計画よりも、ニース・マルセイユの海岸鉄道に夢中になる住民。

　1855.12/29、弟フェリーチェ、死亡。35000リラの遺産。加えて船長報酬、250 00リラ。サルディニア近くのカプーレラ島を購入。
　荒波、強風、短い草と野性ヤギ。住んでいるのは、英コリンズ夫妻、盗賊ピエトロ・フェラーチョロ一家。天気の良い日には、エルベ島やモンテ・クリスト島が見える。
　1856、ガリバルディ、またもイギリス滞在。エンマ・ロバーツとの婚約、カッター船の贈与。カプレーラに住宅建設。
　1857、カプレーラ島に在住する。十八才の娘バッティスティナ・ラヴェッロの寄島。数日後には愛人にされ、妊娠。
　銀行家の未亡人にして作家マリア・エスペランス・フォン・ジュヴァルツの訪問。純愛を捧げるガリバルディ。
　この孤島暮らしは何か。これも、ひとつのポーズだ。彼ほどのスケールを持つ英雄は、戦いの第一線や名声を離れれば、もう一方の極端に走って、静寂に満ちた孤島の偉大さの中に生きるしかない。
　カヴール発言、「ガリバルディに出し抜かれない為には、彼と大胆さを競い合って、統一思想を彼の専売としない事だ」
　ガリバルディの答え、「昔も今も、私は共和主義者だ。しかし、ピエモンテ王朝の軍隊の手でイタリア半島を統一するチャンスがあれば、私は計画に同意する」
　両者の歩み寄り。
　1857.8/1、ピエモンテ、国民協会の設立。
　マニンの声明、「共和主義者は、民族の大義の為に新たな行為を行う。何よりもまずイタリアを作る事、これが最優先される。我々はサヴォイア家に告げる。まずイタリアを作りなさい、私はあなた方とともにいる」
　シュピールベルクの囚人であったパラヴィチーノ侯爵、国民協会の主宰となる。亡命シチリア人ラ・ファリーナの応援。
　1858.7/5、ガリバルディ、国民協会に加入。

　カヴールの対外戦略。
　1858.1/14、フェリーチェ・オルシーニ伯、パリにて、ナポレオン三世の暗殺未遂。逮捕、処刑。しかし、イタリア解放を訴えるオルシーニ書簡は、好意をもってフランスの新聞に発表される。
　ナポレオン三世のイタリアへの関心。さらに、カヴールが送り込んだカスティリオーネ伯爵夫人ヴィルジニア・オルドイーニの影響。
　7/21、ナポレオン三世、カヴール、プロンビエールでの会談。フランス、ピエモンテとの同盟。対オーストリア戦では、フランスが介入する。その代わり、ニース、サヴォイア割譲の密約。四十才の道楽者ジェローム・ボナパルトと十五才の王女マリーア・クロティルデの婚約。
　8/、10/、カヴール、ガリバルディを訪問。ニース、サヴィイアの割譲については、伏せたまま。

第十景　イタリア万歳、さらばニースよ

　1859.1/1、ナポレオン三世、オーストリア大使ヒューブナーに対し、「残念な事に、両国の関係は良好ではない」
　1/10、トリノ議会、ヴィットリオ・エマヌエレ二世の発言、「我々はイタリア各地から届く苦痛の叫びに無感覚ではいられない」
　1/30、ジェローム・ボナパルト、マリー・クロチルド・ド・サヴォワの結婚。
　3/3、ナポレオン三世、イタリア解放宣言。フランス軍、アルプス越え、ジェノヴァ、サヴォーナの両港に上陸。
　3/17、カヴール、志願兵の指揮をガリバルディに委任。
　ガリバルディ、ヴィットリオ・エマヌエレ三世と謁見。サルディニア軍幕僚長に就任、志願兵からなるアルプス猟兵隊の指揮官となり三個連隊を率いる。メディチ、コゼンツ、ニーノ・ビクシオを各隊長にする。
　イギリスの仲介、遠のくかに見えた戦局。
　4/25、オーストリア皇帝フランツ・ヨゼフ、ガリバルディ部隊の解散を要求。カヴール、狂喜してこれを拒否。
　4/29、オーストリア軍ジュライ将軍、ティチーノ川を越える。
　5/8、ガリバルディ、トリノ防衛任務。フランス軍は未だ、到着せず。十九才のメノッティ、初陣。
　モンテベッロにて、フランス軍、サルディニア軍、合流。
　6/4、連合軍、マジェンタにて勝利。
　6/8、ヴィットリオ・エマヌエレ二世、ナポレオン三世、ミラノ入城。
　6/24、ソルフェリーノの激戦。死者、四万。
　主力とは離れるものの、向かうところ敵なしのガリバルディの行軍。ロンバルディア地方を解放。ヴァレーゼ、コーモ、住民の熱狂と歓喜。部隊の全員が、見知らぬ女性達から姉妹や母親のように抱擁されるのだ。
　7/11、ヴィッラ・フランカにて休戦協定。解放は半ば、カヴールは辞任。
　パルマ、モデナ、トスカナ、ボローニャ、その領主を追い出す。
　7/23、ガリバルディ、部隊を解散。ただひとり、中途で終わった戦争に不平を言わないガリバルディ。「家に帰りたまえ。家族が迎えてくれる時、ナポレオンとフランス国民に我らが負う感謝の念を忘れないように。彼らの勇敢な息子達が、イタリアの大義の為に負傷し、手足を失い、今もなお苦しみの床に横たわっているのだ」
　イタリア各地で将軍職に要請されながら、それを固辞するガリバルディ。君主は居ないとは言え、政治は貴族やお偉方の手に握られている。それを、狐の政策、お偉方の政治と嫌うガリバルディ。アニータや、銃殺された者の墓に詣でる。
　1860、カヴール、公職に復帰。
　1859.10/27、11/16、ガリバルディ、国王に謁見。
　1859、末、ニース、サヴォイア割譲の密約が明らかになる。ガリバルディ、無力感に打ちのめされる。
　1860.1/、ガリバルディ、コーモにて、十八才のジュゼッピーナ・ライモンディ侯爵令嬢と出会う。侯爵の後押し、リューマチの再発、娘の看病。
　1/24、結婚。その式場にひとりの男、手紙。ジュゼッピーナには二人の愛人がいる。ひとりはガリバルディ配下の中尉ルイージ・カローリ、もうひとりは従兄のロヴェッリ侯爵。式の前日にもロヴェッリに抱かれていた、おまけに妊娠。
　国王、その道の達人としてこの災難をからかう。
　カプレーラへ帰るガリバルディ。
　3/24、ニース、サヴォイア割譲、正式発表。
　ヴィットリオ・エマヌエレ二世、自分も先祖の地サヴィイアを手放したとガリバルディを宥める。
　4/15、ニース、住民投票。賛成6810、反対11。

第十一景　千八十九人の男たち

　イタリア南部とシチリア島は、両シチリア王国と言われる。領主はブルボン家ナポリ王。スペイン王朝ブルボン家は、ルイ十四世の孫フェリペ五世を始祖とする。ナポリ王はそのまた傍系、現当主はフランチェスコ二世。
　貴族たちが未だに数千ヘクタールの土地を所有し、町人、名士、管理人が隙あらばおこぼれに預かろうとしている。多くの貧民、腐敗した役人を、迷信、暴力、復讐、強盗が彩る。
　シチリア蜂起の歴史、1820-21、1837、1848。
　1860.4/4、パレルモ蜂起。都市は鎮圧されるが、農村のそれは続く。
　シチリア人フランチェスコ・クリスピ、ロゾリーノ・ピーロ、コッラーオら、カプレーラ島を訪問。
　ガリバルディ、ジェノヴァ近郊クワルトのスピーノラ宮殿に居住。愛国者の待ち合わせ場所となる。
　武器を求めるガリバルディ。ピエモンテ政府は、これを拒否するか、ひどいものを渡す。
　5/5、ロンバルド号、ピエモンテ号、1170人を乗せてジェノヴァを出港。配下はニーノ・ビクシオ、ダニエーレ・マニンの息子。兵士はナポレオン一世軍の旧兵士、学生、インテリ、元アルプス猟兵隊ら。
　出征に先立つ書簡、「シチリアからの叫びが、私と、かつての部下数百人の心を動かしたのです。私は蜂起を勧めはしませんでしたが、彼らが近代のもっとも恥ずべき圧政に対して、陛下の唱えられるイタリア統一の為に立ち上がってからは、私は遠征隊の先頭に立つ事をためらいませんでした。我らの雄叫びは常に、イタリア統一万歳、ヴィットリオ・エマヌエレ二世万歳です。我らが勝利者となった暁には、もっとも壮麗な花飾りで王冠を飾るでしょう」
　牽制の為に60名は教皇領ローマへ潜入。
　アレクサンドル・デュマ、地中海をヨット旅行中にニュースを聞くや、シチリアへ向かう。「世紀」紙に「ガリバルディ回想記」を連載。
　ヴィクトル・ユゴー、亡命先からナポリ政府を非難。
「注意して頂きたい、これは生きた歴史なのであります。血なまぐさいとさえ言える歴史なのであります。
　ナポリ王国、目下、我々の関心の的となっている王国には、ただひとつの制度、警察しかありません。郡にはそれぞれ″棒打ち刑委員会″なるものがあります。王の下で国を治めるのは、二人の警吏アジョッサとマニスカルコであります。アジョッサがナポリを殴りつけ、マニスカルコがシチリア島を棒打ちにする。しかし、棒はまだ粗野な手段に過ぎません。この政府には、さらになお、異端審問のやり口があります。拷問です。そう、拷問です。お聴き下さい。警吏のひとり、ポンティッロが彼らを椅子の上に座らせ、下から火で焼く。これは″焦がれ椅子 ″と呼ばれています。
　長官の縁者の、もうひとりの警吏ルイージ・マニスカルコはひとつの道具を考案しました。受刑者の腕か脚をこれに通して、ナットを締めると、その手足が砕かれる。これは″天使の機械″と名付けられています。もうひとりの者は、二つの輪で男の腕を壁に、脚をもう一方の正面の壁に吊るす。こうしておいて、男に飛びかかって、関節をばらばらにするのです。手の指を砕く指鎖もあります。ボルトで締め付ける鉄の輪で、眼球を飛び出させてしまう、ほとんど噴き飛ばさせるほどの、頭締めウィンチもあります。時には、脱走者も出ます。カジミーロ・オルシマーノという男が逃げ出しました。すると、彼の妻と息子たち、娘たちが捕えられ、彼の代わりに例の″焦がれ椅子″に座らされたのでした。ザッフェラーノ岬は人気のない浜辺と隣接しています。この浜辺に、警吏たちは袋を運んでゆきます。袋には人間が入っているのです。袋を水の中に沈め、足宛かなくなるまでそうしておく。それから、袋を引き上げ、中にいる者に言う、″白状しろ″ と。拒んだらまた浸ける。メッシーナのジョヴァンニ・ヴィエンナはこうして息を引き取りました。モンレアーレでは、ある老人と妊娠中のその娘が丸裸にされ、鞭に打たれて死にました。
　諸君、このような事をしている二十歳の若者がいるのです。この若者は名をフランチェスコ二世という。これがティベリウスの国で起こっている事なのであります。
　神聖な権利の相続人が王杖を手にしたその瞬間に、ふたりの吸血鬼アジョッサとマニスカルコがやって来るのを彼は目にするのです。このような鬼どもは、これまでにも歴史上、何度か存在し、ある場合にはナルシスとパラス、あるいはヴィルロワとカケリエーリと呼ばれていました。この幽霊どもは王冠を被った悲しげな子供を独り占めにするのです。拷問の執行者たちが、自分たちこそ政府なのだと彼に思い込ませるのです。棒打ちが、その棒打ちこそが権威だと彼に宣言しているのです。警察は彼に、俺はお前のご先祖様から伝わってきたのだ、と言います。彼は自分の出自を知らされる。曾祖父フェルディナンド一世の事を思い出させられる。世界は三つのＦ、すなわちＦesta、Ｆarina、Ｆorca（祭り、小麦粉、さす又）によって支配されていると言った人物なのです。彼の祖父のフランチェスコ一世は待ち伏せが得意であり、父のフェルディナンド二世は一斉砲撃の名手でした。彼が自分の祖先を否認しようと思うでしょうか？
　こうして、親孝行の為にも無慈悲であるべきだと証明されるのです。彼は従います。絶対権力の痴呆作用にただ呆然とさせられているのです。こんなふうにして、時として怪物じみた子供が育つのです。こうして、宿命的に、若い王が古い圧政を続けてゆくのです。
　このような民衆を解放しなければならなかったのです。いや、ほとんどこう言いたいくらいです。この王を解放しなければならなかったのだ、と。そしてガリバルディがその役割を引き受けたのでした。
　ガリバルディ、ガリバルディとは何か。それは人ｵﾑであり、それ以上のなにものでもありません。ただしそれは、語の至上の、完全な意味における人ｵﾑであります。自由の人、人間性の人。彼の同国人ウェルギリウスならば、そう言うでしょう。
　彼は軍隊を持っているのでしょうか？　否です。ひと握りの志願兵を持っているに過ぎません。武器弾薬は？　ない。火薬は？　かろうじて幾樽かあるに過ぎない。大砲は？　敵のがあるばかりです。彼の力は？　何が彼を勝たせるのか？
　何が彼とともにあるのか？　民衆の魂です。彼は行き、走る。彼の行進は炎の跡であり、彼が率いるそのひと握りの男たちは正規兵の軍勢を呆然と佇立させ、その弱体な武器は魔力をふるい、カービン銃の弾丸が砲弾に立ち向かうのです。彼は革命とともにいます。そして戦闘の混沌の中、硝煙の中、閃光の中に時おり、あたかもホメロスの英雄であるかのように、彼の背後に女神の姿が見かけられるのです」
　ガリバルディの人気の程を示す演説。帝政下で決して屈服している訳でないバリケードのパリで反響が高い。また、記事の前半は、現代のチリやウルグアイの状況を連想させる。
　5/10、シチリア島マルサーラに接岸、総勢1089名。たまたま守備隊はおらず、ナポリ海軍も巡回中。
　英タイムズ紙、オレンジ公ウィリアムのイギリス上陸に比肩。
　5/11、マルサーラ上陸。港に停泊するイギリス船二隻は静観。
　5/12、進軍、シチリア住民は戸を閉ざしたまま。
　5/15、カラタフィーミの激戦。副将軍スフォルツァ率いるブルボン軍は、数からも装備からも優勢。「イタリアか、死か」との檄。
　死者32名を出して勝利。ガリバルディ、シチリア独裁執政官となる。
　のろしが上がり、羊飼いが走る。味わわされた屈辱と、窒息させられていた希望が、話を大きくする。ナポリ軍の駐屯地は襲撃され、兵は虐殺される。若衆隊ピッチョッティの参加。歓迎され、勝利し、増幅しながらの行軍。
　首都パレルモはランツァ将軍が二万の兵で守っている。こちらは、増えたとはいえ数千。ガリバルディの戦略、隊を二分し、小さな囮部隊で敵本隊をパレルモから誘いだす。主力の行軍は、地形や雨、霧を利用してカモフラージュする。やがてパレルモ近郊に到着。囮部隊は、敵主力を内陸のコルレオーネ村に誘致。
　5/26、ガリバルディ、3000を率いて大通りからパレルモ侵攻。市民の喝采。ランツァ、カステランマーレ要塞からの砲撃、さらに港から、ナポリ海軍の砲撃。
　市民はバリケードを築く。女達は、窓から椅子やマットレスを投げ降ろす。
　5/27、ランツァ将軍、警察長官マニスカルコ、市街への砲撃。ガリバルディ部隊、昼夜兼行で薬莢造りに励む。
　ナポリ軍、24時間の休戦協定。火薬も弾薬も底を尽きていたガリバルディ軍。
　イギリス船ハンニバル号上での会談。戦意喪失のランツァ、将軍、閣下と持ち上げられるガリバルディ。
　ランツァ、撤退を条件に降伏。
　6/19、ナポリ軍2000、ナポリ船まで移動。道中、ナポリ軍を赤シャツ隊が保護。それほど、パレルモ市民の憎悪が深い。
　7/、シチリア全土を掌握。
　ハンガリー人、ポーランド人、共和主義者など、外国人の千人隊への参入。
　ヴィクトル・ユゴーの礼賛。アレクサンドル・デュマ、マクシム・デュ・カンと十六才の愛人を伴ってパレルモ訪問。
　アルフィエーリ侯爵夫人の招待を断ったデュマ。
「そこに行くと、彼女の叔父様であるカヴール氏と顔を合わせる事になる。何が何でも、彼と顔を合わせたくないのです。
　それというのも、三日後にはガリバルディの所に行くつもりだからです。彼は気違いじみていますし、世間知らずと言っても良い。しかし、英雄的な世間知らずです。私達は理解し合えるでしょう。この私がカヴールをどうできるでしょう。カヴールは偉大な要人であり、完璧なる政治家です。天才なのです。彼はガリバルディよりも強いのです。私にだって判りますよ。しかし、彼は赤シャツを着ていない。黒服と白ネクタイです。代訴人か外交官みたいじゃありませんか。彼に会って、喋べって、他の人達みたいに、彼の姿勢と良識に魅惑される事でしょう。そうなると、わが旅よ、さらばという事になってしまう。わがガリバルディもかたなしになってしまいましょう。私は芸術家であり、ガリバルディだけが私を引き付けるのです」
　フランチェスコ二世、南イタリアを守るべく、パリとロンドンに協力要請。ナポレオン三世、不介入を明言。

　悲惨なシチリア農民。
　シチリア農民は地主、管理人、税金によって多重に支配・搾取されている。その上に立つ旗が、ブルボン王家であろうとピエモンテ王家であろうと同じ事。彼らがガリバルディに期待したのは、解放者として。地主や政府からの解放者として期待を寄せたのだ。しかし、祖国統一を悲願とするガリバルディは、階級闘争は理解の外である。
　8/4、ブロンテ公爵領での農民一揆。急進弁護士ニコラ・ロンバルドの率いる農民部隊、領地を占領、管理人を殺害。ガリバルディ、ビクシオを派遣して鎮圧。ロンバルドを含む四名の処刑。
　志願兵の数、激減。
　9/、ナポリ東方イルピニアでの農民一揆。ガリバルディ、ハンガリー人テュッルを派遣して鎮圧。
　8/19、メッシーナ海峡の渡航。南寄り航路を進む。おんぼろ船だが、ガリバルディは熟練者。堆肥と藁で水漏れを防ぎ、船を導く。
　カラブリア地方の行軍、砦は戦わずして降伏、住民の歓迎。
　8/23、デュマ、ナポリ政府の内務大臣リベリオ・ロマーノと接触。政府を捨ててガリバルディ入城を助けるよう説得。
　9/5、フランチェスコ二世、ガエータへ避難。
　9/7、ガリバルディ、ナポリ無血入城。ブルボン軍、降伏。
　ガリバルディ、サン・ジェンナーロを礼拝。
　義務教育、貧民救済、デュマを国立博物館長と遺跡発掘管理長官に任命。
　フランチェスコ二世、兵五万を率いてガエータ篭城。
　イゼルニアの戦い、最後の戦闘。味方死者、300。
　ローマ解放を目指すガリバルディ。しかし、ローマにはフランスの駐屯軍がある。何とか、それを阻止したいカヴール。
　8/28、カヴール、ナポレオン三世の会談。ガリバルディを牽制する為の筋書き付きの戦争を演出する。
　サルディニア軍、ナポリへ進軍。
　9/18、仏ラ・モルシエール率いるローマ教皇軍、カステルフィダルドで敗北。サルディニア軍、アンコーナ、ペルージャを奪取。そして、ナポリに到着。
　サルディニア軍、カプア入城。
　10/15、ガリバルディ、権限委譲の署名。
　10/26、カプア近郊テアーノの街道で、ガリバルディ、ヴィットリオ・エマヌエレ二世と対面する。
　政府からの贈与、将軍職も断るガリバルディ。
　11/9、ガリバルディ、カプレーラ島へ出港。同乗するのは息子メノッティ、コーヒーと砂糖の袋、野菜、穀物の袋、マカロニの箱、干し鱈の包み、それと、いくばくかのリラを持っているに過ぎない。最後の言葉は、「また、ローマで会おう！」
　この孤独さを誇示する姿には、当然、何らかのポーズがある。

第四幕　柔順なる兵士ガリバルディ

第十二景　アスプロモンテ、王宮の禿鷹ども

　カプレーラ島でのガリバルディ、五十四才。海を眺め、樹を飢え、釣りをし、狩りをする。隠棲者の役割りを勤勉に演じる。
　秘書バッソ、娘テレジータと婚約している将校カンツィオ、ほか二、三の支持者のみ。
　デュマを始め、ヨーロッパ中の観光客がカプレーラを訪れる。

　1861.3/14、ヴィットリオ・エマヌエレ二世、統一イタリア王を宣言。
　シチリア、カラブリアでの南部暴動。数年続く。
　両シチリア王国の亡命貴族ｴﾐｸﾞﾚ、イタリア、スペイン傭兵を雇い、今度は農民の先頭に立ってピエモンテ政府を攻撃する。
　執拗に続く南部イタリアの抵抗。ボルヘス、カプドヴィル、ド・ラングロワ、ル・ガンテらを先頭に、かつての「ふくろう党員」らの活躍。
　ピネッリ将軍率いるピエモンテ正規軍、数年で1038名を処刑、戦闘中に2413名を殺害。一説には、18000名とも。リソルジメントの全戦闘を上回る、南部暴動の損害。
　オーギュスト・ブランキ、ガリバルディの王政への無条件な帰属を非難。
　ガリバルディ、相変わらずのカプレーラ暮らし。来客とともに質素な食事を食べ、その話に耳を傾け、葉巻を進める。ろばには敵の名前（ナポレオン三世、ウディノー、ピウス九世、フランツ・ヨゼフ）を付け、馬には武勲を立てた土地の名前（カラタフィーミ、マルサーラ）を付ける。
　1861.4/18、ガリバルディ、赤シャツを着てトリノ議会に出席。
　原稿を捨て、即興に身を任せたガリバルディ。カヴール非難、「わが祖国を外国に売り渡した男と、握手など出来るものか」　カヴール、蒼白、震え。
　傍聴席の喝采と騒ぎ、二十分もの中断。元将軍ラタッツィ議長、議場を去る。ビクシオの執り成し、カヴールの寛容、カヴールとの和解が期待される情況での、再びの発言。徴兵制を提案するガリバルディ、「イギリスには軍隊がある。オーストリア、フランス、我々は敵に囲まれている」
　これほどの石頭から何が期待できよう。なおも語るガリバルディ、自分の仲間であるナポリとシチリアの英雄だけが祖国の名に価する。

　ガリバルディ、カプレーラの寄港。まわりの者は、ダルマチア、クロアチア、ハンガリー、ポーランドの解放を期待する。
　6/6、カヴール、議会での興奮がたたって死亡。五十一才。死の前日にも、ガリバルディを称えるカヴール。「彼は高貴な人間だ」
　8/、米リンカーン大統領、北軍の指揮を依頼。
　ラッタッツィ、首相に就任。ガリバルディを招聘。正規軍と募集兵の混成部隊の将軍としてイタリア各地を巡回。ミラノ、クレモナ、ブレッシャ、ピアチェンツァでの熱狂と歓迎。
　ガリバルディを飼い馴らしたつもりの未熟者ラッタッツィ、観客を与えて行動を唆してしまった。チロル国境に近いトレスコッレ邸に停まるガリバルディ、全国から殺到する志願兵。ヌッロ大佐アンビヴェーリ大尉の指揮の下、ヴェネツィア解放を計画。オーストリアの抗議。
　政府、ガリバルディを逮捕。
　1862.5/14、要塞のあるブレッシャの住民、抗議。死者、三。
　ガリバルディ、釈放、カプレーラ寄港。
　7/8、ガリバルディ、パレルモ訪問。知事は元千人隊員ジョルジョ・パッラヴィチーノ侯爵。メディチ指揮の下、国民軍の閲兵。
　7/15、ガリバルディ、ローマ解放を訴える演説。応える群衆、「ローマか、死か！」
　三千人近い志願兵の集合。パッラヴィチーノ知事、辞任。後任知事デ・フェラーリも無力。
　8/1、にわか部隊、ローマへ向けて行進。これはかつての千人隊の戯画のようなものだ。
　兵2000、メッシーナ海峡を渡る。遭遇した正規軍、これを停めず。
　8/26、ナポレオン三世、ローマ防衛を宣言。
　ピエモンテ海軍、義勇兵に砲撃。カターニアにて、ピエモンテ正規軍の前に分隊800、降伏。敵はイタリア国王ではない、正規軍にはこれっぽちの戦意も持たない義勇兵。
　アスプロモンテ山での包囲。パッラヴィチーニ中佐の率いる二千の狙撃兵、志願兵部隊を包囲。一部志願兵の発砲で、全面銃撃戦が開始。多くは逃げるも、前線に踏み停まるガリバルディ。二発の銃弾を受ける。左腿と右踵、双方死者十二名。
　8/29、ガリバルディ、ラ・スペーツィアのヴァリニャーノ要塞に収容。仏ネラトン、英パートリッジ等、世界的な名医の訪問。
　ガリバルディ、アスプロモンテの殉教者となる。英ハイド・パーク、十万人の集会。
　弾丸は取れても、痛みは残る。
　10/、王女マリア・ピア、ポルトガル王と成婚。ガリバルディ、恩赦。

第十三景　無為無用の生活？

　1862～1866.4/、ガリバルディ、無為の生活。
　1863、ガリバルディ、文書によってポーランド支持を表明。
　ユゴー、レ・ミゼラブルを出版、名声の頂点。ガリバルディ、「友よ、私には銃が必要です」　ユゴー、「私が最初の声を上げましょう」
　1/、まだ車椅子でしか動けない。
　6/、やっと松葉杖で歩けるようになる。
　ピエモンテ政府、アスプロモンテの義勇兵を逮捕、中には処刑も。憤激するガリバルディ。
　愛人バッティスティナはすでに生家に帰っている。スペランツァ・フォン・シュヴァルツの短い滞在。
　1864.3/、ガリバルディ、メノッティ、リッチョッティ、医師、秘書グェルゾーニを連れて、出港。4/3、英サザンプトンに到着。
　ガリバルディは、イギリスの友。労働者にとっては、民衆の英雄。女性にとっては、奇妙な服を着た、素晴らしい野性児。
　蔵相グラッドストン、露アレクサンドル・ゲルツェン、独カール・ブリント、詩人テニソンらの歓迎、賛辞。
　4/11、ロンドン訪問、数万の観衆。
　ロンドン駅からサザーランド公爵邸まで六時間かかる。五十万人の喝采。労働者、共和主義者、後のエドワード七世までが賛辞。ガリバルディ、エドワード七世は、ともにフリーメーソン。特にガリバルディは、1863以来、イタリアでの三十三階位をへてグランドマスターとなる。
　ゲルツェンの仲介でマッツィーニとの面会。「かつて若い頃、私は助言者、導き手を探していた。その人を私は見つけた。その人だけが神聖な火を持っていた。その人は友であり続け、祖国愛に溢れ、大義への献身に満たされていた。その人こそ、マッツィーニなのです」
　ヴィクトリア女王、ナポレオン三世、ならびに、ロンドン亡命中のマルクス、エンゲルスの苛立ち。時代を代表する人物の象徴的価値を、彼らはその党派的な立場の為に評価できないのだ。
　カプレーラ島に帰るガリバルディ、悪賢い、政治屋どもには与しない、曲がった事の嫌いな純な性格。グランヴィル卿の意見、「彼は慎ましい家柄の出であります。習慣も素行も素朴です。愚かではありますが、その無邪気さは、彼の場合には外交的な二枚舌がない証とみなす事ができるのです」
　名声の絶頂にありながら、彼はどこにも分類されないはみ出し者。それゆえ、たくさんの情愛と熱狂を集められる。彼は誰に対しても、変わり者に見られてかまわないという勇気を示している。彼の服装は奇妙だが、自己の独立と非順応的でありたいという願望を表している。社会の上から下まで、公爵たちの広間から工場の作業場まで誰もが心の奥で必要を感じている義務や束縛の拒否を表明している。ガリバルディが身を捧げるのは、自らが信じる大義だけだと、誰もが理解する。いかなる打算もない。彼の過ちすら、その証なのだ。それが人々を引きつけ、誘惑する。
　そうであれば、彼の威光を使いたがらない人はいない。打算と駆け引きの、悪辣な政府が、どうして彼を恐れずにいられるだろう。
　6/1、ガリバルディ、再び出港。ガリツィア、バルカンの蜂起を計画。
　7/18、ガリバルディ、カプレーラに帰港。
　三十人の牧童が働く農場、カプレーラは小さな南アメリカのよう。

　1864.9/15、ローマを巡るフランス・イタリア二国間協定。一、イタリアはローマ教皇領を攻撃せず、むしろ守る。二、フランスは撤退する。三、教皇軍の組織。
　12/、ピウス九世、近代の過ち八十箇条を発表。
　1865、イタリアの首都、トリノからフィレンツェに移される。
　9/22、トリノ暴動、死者三十名。
　1865、ピアリッツにて、ナポレオン三世、ビスマルク会談。プロイセンとウィーンが戦争を始めた時は、フランスは中立を保つという密約。ナポレオンは、プロイセンがウィーン以上に大きな敵になるとは思ってもみなかった。また、これで漁夫の利を得るのはイタリア。
　1866.2/、イタリア、プロイセン、通商条約。
　4/8、イタリア、プロイセン、三ケ月同盟。プロイセンがウィーンに勝てば、ヴェネツィアはイタリアに併合。もし負けても、フランスが中立と引き換えにヴェネツィアを併合し、贈与する。
　6/10、友人ファブリーツィ、ガリバルディに対して、イタリア軍義勇兵団の指揮を要請。

第十四景　「服従する」

　ガリバルディ、五十九才。孫の乳母としてカプレーラ島に来たフランチェスカ・アルモジーノと恋愛。容姿は醜く、ずんぐりした、未婚の母。
　知的な女性や公爵夫人たちの誘惑を、ゆるぎない愛情に変える事のできないガリバルディ。女は献身するか、単なる観客である事しかできない。

　ガリバルディに与えられた任務、南チロル攻略。ここなら、ヴェネツィアに一番乗りされる危険はない。しかも、幾つかの村はイタリア人だが、幾つかの村はドイツ語を話す。蜂起、熱狂はあり得ない。ガリバルディ談、「大砲はない、武器はおんぼろばかり、正規軍にはある良質のカービン銃はひとつもない」
　志願兵は予想を上回る一万。しかし、かつての配下、メディチ、コゼンツ、テュッルは正規軍に属している。
　オーストリア軍11万5000に対して、イタリア軍22万、それを率いるのはラ・マルモラ将軍、チャルディーニ将軍。ガリバルディ談、「軍服を着た偽善者、イタリア軍は屈辱の巣に引き込まれるだろう」
　6/24、クストーザ、イタリア軍の敗北。しかも、死者はオーストリアの方が上回っている。予備隊、武器は残ったまま、35kmもの退却。問題は、指揮官の弱さと不和が原因。
　ガリバルディ談、「ラ・マルモラへの意趣返しのように思われたくはない。しかし、よく認識すべきは、敵の二倍の人数がいて、世界一の砲兵隊を備え、おびただしい手段を持ち、熱狂も勇気も欠けていない大軍の輝かしい成果を皆が待っていたと言うのに、私は、この混乱した軍隊が、三十マイルも離れた敵に追い掛けられている訳でもないのに、ほとんどロンバルディア全土を無防備にして退却するのを見て、たちまち失望した。それこそが打撃であった事を認識すべきなのだ」
　この度の、予定された軍事的成功は、イタリアがまとまりのある民衆的美徳を示す機会と誰もが捕えていた。
　7/3、サドワにて、プロイセン、オーストリア軍に勝利。
　ウィーン政府、ナポレオン三世の提案を容れて、イタリアへのヴェネツィア割譲に合意。しかし、戦勝を望むイタリアは、これを拒否。大国である事の証明がほしいイタリア。
　ガリバルディ軍、トレンティーノ方面へ前進。ラ・マルモラ、チャルディーニ敗北の後、装備の不充分な、軽蔑された志願兵こそが、イタリア最後の切り札。
　7/3、ガリバルディ、モンテ・スエッロ攻撃。負傷を押して、前線に立つ。怪我をしても、馬車に乗って戦場を移動するガリバルディ。
　7/16、戦線、苦境。
　数日後、戦線、有利。ヴァル・アンポラの要塞を占領。キューン将軍の反撃。ベッツェッカ村を占拠。
　7/21、自らを狙う射撃にもかまわず、ベッツェッカ高台の奪還を命令。配下はメノッティ、リッチョッティ、婿のカンツィオ。ガリバルディにとっては、戦争も家族的な仕事。そして、前進。
　装備不充分、経験不足の兵を率いながら、ガリバルディ部隊は1866戦役で唯一の負け知らずの軍隊。
　7/20、アドリア海リッサにて、ペルサーノ提督率いる十二の艦隊、あまり強力でないテーゲトホフ提督率いるオーストリア艦隊に敗北。
　7/22、プロイセン、オーストリア休戦協定。
　7/25、イタリア軍にも停戦命令。
　参謀本部からのチロル撤退命令、では、今まで死んだ兵は無駄死にだったのか。義勇兵士ジェシー・ホワイトの証言、「私は剣と銃剣を折り、男たちが地面にうち伏して、まだ同胞の血で汚れている畝の中を転げまわるのを見た」
　ガリバルディの返事、「至急報受領、服従する」
　ここで、ガリバルディがバルカン半島の起爆剤になるというシナリオもあり得た。
　ヴェネツィア、フランスに委譲。
　10/3、オーストリア、イタリア、和平条約。
　仏ルブッフ将軍、ヴェネツィアをイタリアに贈与。
　10/21、22、ヴェネツィア国民投票、イタリア併合に賛成。

　9/24、ガリバルディ、フィレンツェ訪問。ローマ解放を発言。
　11/7、ヴィットリオ・エマヌエレ二世、ヴェネツィア訪問。民衆から、ローマ、ローマの叫び。「今やイタリアはなった、しかし完全ではない」と発言。

第五幕　老戦士

第十五景　「骸は地に倒れんとも、理想は立ちて」

　1866.12/11、フランス軍、ローマから撤退。
　ただし、実質は駐留。ピウス九世、カンツラー将軍率いる教皇庁軍を、外人志願兵師団アンティーブ軍団で補強。これはフランスで組織されたもの。仏内アンティーブに結集し、隊長のダルジ大佐はフランス陸軍大臣から剣を賜る。これは、イタリアを侮辱するもの。

　1867.2/16、フランチェスカ・アルモジーナ、娘クレリアを出産。ガリバルディの狂喜。フランチェスカ、徐々に支配を強める。夫を将軍と呼び、身繕いをし、両親や兄弟をカプレーラ島に呼び寄せる。
　2/、ガリバルディ、ローマ解放を訴えて、フェレンツェ、ボローニャ、フェラーラを遊説。
　ヴェネツィアでの演説。「神の否定たる教皇」「蝮の巣である教皇の座」
　春から夏にかけて、トレヴィーゾ、ウーディネ、フェルトレ、ヴィチェンツァ、ヴェロナにて遊説。疲れながらも、喝采によって若返るガリバルディ。すでに老いた男、自分が勝てると確信する為に掛け金を倍にするようなもの。
　フランスの警戒、イタリア政府は放任。愛国者マゼッティ伯爵邸に住み、多くの訪問者を迎えるガリバルディ。
　9/、ジュネーヴ国際平和会議に出席。キネ、アラゴ、バクーニン、ピエール・ルルー、ゲルツェン、ドストエフスキーらが出席。最大の呼び物は、ガリバルディ自身。
　そこでの演説、教皇批判。ローマ教皇は「恥であり、災いである」「悪臭を放つ制度」「あらゆる宗派の中でもっとも有害なもの」　カトリックの多いジュネーヴでは反響は今いち。
　オーギュスト・ブランキ、ガリバルディを大きな子供と批判。しかし、この批判には、教義や立場の対立が隠されている。ガリバルディは理論家ではない。間違ってようと正しかろうと、自分の本能を信じる。ブランキは政治思想を練り上げるが、社会を動かすには到らない。ガリバルディは手探りで天真爛漫ながら、 1860にはイタリアの歴史を動かした。
　9/18、ガリバルディ、新聞にてローマ蜂起を提案。
　9/21、政府の警告。
　9/24、ガリバルディ、友人宅にて逮捕される。アレッサンドリア要塞に拘束、要塞に勤務する兵士らのデモ。「ローマ、ローマ」の合唱。
　困惑する政府、カプレーラ島に隔離。
　10/14、ガリバルディ、カプレーラ島から脱走。
　10/19、フランス政府の督促、イタリア政府、義勇兵の武装解除を布告。
　ガリバルディ、フェレンツェに上陸。義勇兵を組織。
　10/26、ガリバルディ、兵7000を率いてローマへ。国境守備隊はこれを黙認。
　ローマの手前、サンタ・コロンバに待機。蜂起を待つ。しかし、ローマ市民は意外と消極的。
　ド・ファイイ将軍率いるフランス軍、チヴィタヴェッキアに上陸。射程の長い、速射可能な新式のシャスポ銃を試したい軍。
　ガリバルディ軍、3000の脱落。
　11/3、谷の多い丘陵地帯モンテロトンドにて、ガリバルディ隊とカンツァー率いる教皇軍との戦い。
　ド・ファイイ軍の登場、四散する義勇兵。ガリバルディ、「叫んだり叱責したりする声も出なかった」　英雄的な死を望み、シャスポ銃の前に赴くガリバルディ。それを押し停める崇拝者。
　義勇兵の証言、「弾丸が、強風に飛ばされて来る蛇の森というように、私たちの間でうなっていた。兵たちは、盛り土を崩され、小枝を遠くになぎ飛ばされて、震え上がっていた」
　11/4、ガリバルディ、撤退。死者150、負傷者200、捕虜1000を残す。
　ド・ファイイ、ナポレオン三世に向けての報告。「シャスポ銃は見事な効果を発揮した」　この冷酷な言葉は、イタリアの反フランス感情を掻き立てる。また、この将軍達が、1871パリ・コミューンで市民を殺害するのである。
　ガリバルディ、ヴァリニャーノ要塞に監禁。抗議、デモ、政府のためらい。
　11/25、釈放、再びカプレーラ島に軟禁。
　フランスの共和主義者、「イタリア万歳、ガリバルディ万歳」を叫んで連帯を表明。

　第十六景　「私はフランスに私の残りを与えに来た」

　六十過ぎのガリバルディ、リューマチで指が曲がる。
　吝嗇なガリバルディに加えて、フランチェスカの農家風の吝嗇。食事は野菜のみ、無駄なテーブルクロスも使わない。
　友人の援助も当てにせず、年金を得ようともしないガリバルディ、生活の為に小説を執筆する。
　第一作「クレリア、あるいは司祭たちの政府」　彫刻家の娘クレリア、ハレムを作る好色な枢機卿プロコーポロの手に落ちる。何とか魔手を逃れた娘は、老賢人である「孤独者」の島に逃れる。
　第二作「義勇兵カントーニ」
　だいたいが、無邪気で真面目な小説。感情を強調し、憤りを素直に表明すれば真実に達すると考えている。しかし、民衆は英雄が分野を変えるのを好まない。ガリバルディは将軍であって、作家ではないのだ。

　1870、スベランツァ・フォン・シュヴァルツの訪問。バッティスティナの娘アニタを引き取りたいとの申し出。幼女は抵抗するが、父も母も同意。スイスの最上層の教師を付けて、数年後には見違える娘。
　イタリア、60％の財政赤字。製粉税の復活。はたしてガリバルディが戦ったのは、増税、新札流通、煙草公社の為だったのか。イタリア新国家は、「民衆の血で太る、略奪者や猛禽で溢れ返っている」　そう語りながら、現実的な政治をどう変えようともしないガリバルディ。

　1869.12/8、ピウス九世の公会議。自由主義批判、教会の世俗財産の必要性、教皇無謬説の宣言。
　フランス国内での、教皇に対する抗議。
　1870.7/18、教皇無謬説の承認。
　7/19、フランス、プロイセンと戦争。
　セダンにて、フランス敗北。ナポレオン三世、捕虜となる。
　9/4、フランス、共和制を宣言。イタリア軍のローマ入城に反対する者はいない。
　9/20、カドルナ将軍率いるイタリア正規軍、ポルタ・ピアの城壁に砲撃。サン・ピエトロ、降伏。
　10/2、ローマ住民投票、賛成133681、反対1507にて、イタリア併合。
　かつてローマの城壁で劇的に戦ったガリバルディ、その妻を退路で失ったガリバルディは、ここにはいない。しかし、この勝利には、何ら栄光らしいものがない。力関係を追認するだけの戦闘。イタリア側49、ローマ側19の死者を出し、血を流した事で辛うじて現実味を勝ち得る。

　帝国瓦解後のフランス、共和主義者は各地で公安委員会を組織、国民防衛、祖国救済の任務に就く。かつてのナポレオンの役割が求められる。英雄、救世主というと、彼らはガリバルディの方を向いてしまう。
　9/15、かつての千人隊員・現フランス士官ボルドーヌ、ならびにリヨン公安委員会、ガリバルディを最高指揮官として招聘、プロイセン防衛を依頼。
　すでに、従軍を申し出ているガリバルディ。共和国の旗を掲げ、その向こうにフランスの民衆がいる。おまけに、ナポレオン三世の失墜がある。
　10/7、ガリバルディ、ボルドーヌ将軍とともにマルセイユ着。ボルドーヌは1859、 1860の戦士。彼はクリスピがそうであったように、ガリバルディが花道を歩けるよう手を差し延べる男。さらに、ガリバルディ配下の参謀本部長に就任する。
　共和主義者にして県知事エスキロスに対するガリバルディの言葉。「私は、私の残りをフランスに与えに来たのです。フランスは私の好きな国です。私はこれまで、共和主義者が私抜きで戦っていると考えると、あまりにも不幸に感じられてなりませんでした。人生の最後に、共和国の神聖な大義に仕える事を私は誇りに思います」
　プルードン主義者モレル、「ガリバルディはイタリアのものではない、全世界のものだ。つねに理想を求め、弾圧された民衆の救出に駆け付け、国民防衛軍に従軍を申し出るのだ」
　歴史家ミシュレ、「私はヨーロッパで一人の英雄を知っている。ただ一人だけ。二人とは知らない。その全生涯が一箇の伝説である。彼はフランスを恨む充分の理由を持っており、ニースを取り上げられ、アスプロモンテでもメンターナでも撃たれたというのに、何とこの男は、フランスの為に身を捧げたいと願っているのである。それに、彼は慎ましい。ほとんど出喋ばらず、もっとも曖昧で、彼にふさわしくない地位を選んだのである」
　マルセイユの歓迎、数千人が港に出迎える。そもそもプロヴァンス地方は、ニース生まれのガリバルディが最も人気のあるところ。
　しかし、フランスはカトリックの国。カトリック教徒にとってガリバルディは反クリスト。また、数ケ月後にはパリ・コミューン弾圧に回る支配層は、ガリバルディを赤い将軍と呼ぶ。国民防衛軍の将軍も冷淡な態度。
　ガンベッタ、気球にてプロイセンを越えて到着。ガリバルディと対面、意外と優柔不断なガンベッタ。ボルドーヌの推薦で、イタリア人義勇兵を率いる任務に着く。
　10/、11/、ドールとブザンソンの間、高台と谷間の多い地帯で、非正規軍および騎馬防衛旅団司令官として就任。配下はコスモポリタン部隊、将校は息子メノッティ、リッチョッティ、ポーランド人バソク、フランス人デルペッシュ。兵士にはスペイン人、ギリシア人も混ざる。プロイセンの制圧下だというのに、大砲もない。銃は「例によって古鉄のきれっぱし」
　ドール到着早々、小競り合いや待ち伏せの訓練を行うガリバルディ。
　プロイセン軍は、ヴェルダー将軍率いる正規軍14000、対するガリバルディ、装備もままならぬ外人部隊5000。
　陸軍大臣フレシネ、ミシェル将軍らの侮り。ミシェル談、「彼に攻撃は不可能、いざとなれば退却するか、本官を頼りにせざるを得ない筈である」
　ならず者の多い外人部隊。略奪者ﾋﾞﾔｰﾙか、女好きﾊﾞｲﾔｰﾙか、というところ。しかし、脱走兵を寛容に操縦するガリバルディ。「なに、逃げ出してゆく？　あいつは勝手に走らせておけ。逃げ出してゆくって？　好きなように出ていって逃げさせておけ。川や山や飢えや渇き、彼を逃げさせたものより切実で大きな恐怖に足を止められるだろう。その時がチャンスだ。人間の姿をした動物どもをできるだけ再集合させ、食べさせ、飲ませ、休息させるのだ。満腹し、休息し、勇気を取り戻すと、彼らは恥ずべき逃走をして義務を怠った事を思い、栄光を思い出すだろう」
　ガリバルディは人間の導き手であり、1870の戦場でもまたそれを見せる事になる。
　リューマチで苦しみ、馬車でないと移動できないガリバルディ。しかし、前線に立ち、模範を示す。彼にとって命令とは、模範を示す事でしかない。
　ガリバルディ、オータンに宿営。
　11/14、23才のリッチョッティ、800名を率いて前衛。
　11/19、リッチョッティ、シャティヨンの歩兵隊を襲撃。夜間、雨中の攻撃は成功。武器、弾薬、士官13名を含む捕虜167の捕獲。
　仏ブルバキ将軍、プロイセンに包囲される。ガリバルディと、予定通りに合流できず。
　11/26、ラントネーで勇敢に戦う部下に誇りを覚えるガリバルディ。
　ディジョン攻撃は失敗。しかし、ガリバルディの采配により、オータン防衛は成功。
　ブルバキ、再び合流できず。
　1/21、ガリバルディ、単独でディジョンを攻撃。町の近く、古参兵は頑張るが、新兵は口実を作って町に息抜きに出る。
　ディジョン郊外バルジ工場・骨炭製作所にて、リッチョッティ部隊、敵ポメラニア第六十一連隊の旗を奪う。間近で撃ち合う肉弾戦。これは、フランスが奪った二つの旗の一つ。
　1/25、陸軍大臣フレシネの打電、「ガリバルディが、またも大成功をもたらした。彼は間違いなく我が軍第一の将軍である。これは、一週間前から足踏みしているブルバキ将軍と痛ましい対象をなす」
　ガリバルディ、プロイセンを撤退させる。ディジョンで数日、寛ぐ。
　フレシネ、ガリバルディに大きな権限を与えればヴォージュ攻略も可能と語る。
　1/29、ヴェルサイユにて、２１日間の休戦協定が結ばれる。
　1/末、ペリシエ将軍率いる騎馬防衛隊15000、ガリバルディに合流。兵40000となる。
　2/2、ガンベッタからの手紙、「親愛で著名なる友よ、我々の国にして下さった事をどれほど感謝しております事か」
　ボルドーヌ、プロイセンとの交渉に立ち会う。休戦は部分的であり、パリには有効だが、他の地域には無効であると知る。よって、ガリバルディに休息はない。
　仏政府交渉委員ジュール・ファーブル将軍、まるでガリバルディのいる東部戦線を見殺しにするかのような一部休戦協定。パリを包囲していたプロイセン部隊、ディジョンへ急行。ボルドーヌ、ガリバルディの抗議。ガンベッタは聞いていないと答え、ファーブルはまずパリを守る事を優先したと答える。
　東部地域コート・ドールの知事、「これはこの戦争で、もっとも大きな恥辱だ」
　1/31、プロイセン、ディジョンを包囲。
　ブルバキ、敗北、捕虜となる。
　ガリバルディ、撤退命令。
　一連の動きの背後には、ビスマルクのガリバルディに対する怒りがある。1866、プロイセンがイタリアに有利に動いた事も忘れて、今また刃を向ける事に対する怒り。ビスマルク談、「ガリバルディを生け捕りにして、ベルリンで晒し者にしたいものだ。イタリア人の恩知らずと立て札を付けて」
　2/1、プロイセン、ディジョンを占領。ガリバルディはすでに撤退。
　ボルドー議会、総選挙。立候補もしていないガリバルディ、コートドール、アルジェ、ニースから選出。パリでは、ルイ・ブラン、ユゴー、ガンベッタに次ぐ四位で当選。
　2/8、ガリバルディ、ボルドーへ赴く。
　馬鹿げた作戦で数多くの兵士を殺戮と隷従に導いた、他の将軍達とは違うという民衆の評価。ガリバルディこそは、全員一致の将軍。ただの一人の兵士も敵前に見捨てたりはしなかった。しかし、略奪や強姦があったとの中傷。右派代議士ロルジュリ子爵の言、「彼は戦わなかったから、負けなかった。彼のやったのは宣伝だけだ」
　各地で民衆の歓迎を受けるガリバルディ、ボルドーにてその様子を語る。「彼らはフランスの南部を救ったバリケードだと、フランスの一農民が赤シャツの切れ端を見せて語ってくれた。その赤シャツはディジョン防衛の死者から取って来たものだった」
　2/12、ガリバルディ、ボルドー着。ただし、辞任表明。
　2/13、ボルドー議会。地方名士、聖職者の多い議会は、最初からガリバルディに反発がある。ガリバルディの登場、共和派の喝采。しかし、すでに辞職しているガリバルディに発言を許さないブノワ・ダジ議長。ガリバルディはただ、ヴォージュ軍兵士とその家族、未亡人、孤児に心遣いをするよう言い残すつもりだった。
　右派議員の野次。ガリバルディ、「私はフランスの敵になる事もあったし、味方になる事もあったが、つねに正義の大義の為に戦った」　共和派議員、「卑怯者め、ガリバルディが話してるんだぞ」「本当の事を聞くのが怖いか」
　あまりの野次と怒号に、退場するガリバルディ。共和派、「待ってくれ、我々を見捨てないでくれ」
　エミール・ゾラ、議会通信での報告。「議長は奇術めいた巧妙さで閉会した。これらの紳士方にとって、フランスの為に戦ってきた老人などどうでも良いのだ。彼らの大半は、ガリバルディが胸をはだけて敵の弾丸を前に前進して行く間、恐怖に冷や汗をかいていた。血を流し、傷だらけのまま、とっとと家に帰ってゆくが良い、英雄行為なんぞでわしらを悩ませんでくれ！　そう思っていたのだ。よろしいですかな、諸君、この自由の兵士に感謝を値切ったとあってはフランスの恥ですぞ。ただ、礼儀正しくだけはしてくれたまえ、あなた方に偉大であって欲しい等と頼みはしないにしても」
　右翼席からの非難、「シャラントンに行け！　ガリバルディ」　フランス人でもないのに、どうして議員になれるのか、とい意味が込められている。
　ユゴーの娘婿ロクロワの叫び、「ガリバルディ将軍は戦場でフランス人になったのだ」
　2/16、ガリバルディ、カプレーラ島に到着。
　3/8、ボルドー議会、ユゴーの発言。亡命帰りで、レ・ミゼラブルを発表し、フランスで最も栄光ある作家がガリバルディの為に発言しようとするや、野次が飛ぶ。ロルジュリル子爵、「ヴィクトル・ユゴー君はフランス語を喋べっとらん」
　ヴィクトル・ユゴーの発言。
「たびたびヨーロッパの大義を引き受けてきたフランスの防衛に立ち上がった王は一人としていなかったし、そのような国家もなかった。たった一人の男が例外だった。それがガリバルディである。
　列強は介入しなかった。だが、一人の男が介入した。その男こそ力なのだ。そして、その男は何を持ったか？　剣だ。そして、その剣は、それ以前にもある国の民衆を解放していたが、さらにまた一つの国の民衆を救う事ができた。彼は来た。彼は戦った。私は誰も傷付けよう等とは思っていない。ただ私は、フランスの為に戦った将軍たちの中で彼だけが一度も負けなかったと、純然たる真実を言うだけなのだ」
　ここでユゴーは、シャンジ、フェデルブ等の功将を忘れている。続く。
「しかり、ガリバルディは一度も負けた事のない唯一の将軍なのだ。
　三週間前、諸君はガリバルディの言葉を聞くのを拒んだ。今日は諸君は私の話を聞くのを拒む。私はもっと先を話そう」
　ユゴー、辞任表明。この赤い縁なし帽を被った男は、赤シャツを着た男と行動を同じくする。
　3/10、ヴォージュ軍の復員。
　3/15、カプレーラのガリバルディから、ヴォージュ軍兵士に当てての手紙。
「ヴォージュの勇敢な者たちよ。私は辛い思いで諸君と別れる。のっぴきならぬ状況によってこの別離を強いられているのだ。家庭に戻って、家族にわれわれが共和国の神聖な大義の為にともに耐え忍んだ仕事や疲労や戦闘について語りたまえ。家族の者に、とりわけ、諸君を息子のように愛し、諸君の勇気を誇りにしていた隊長を持ったと言いたまえ。また会おう、もっと良い状況の中で」
　3/18、パリ・コミューン。ヴェルサイユ臨時政府がこれと対峙。
　コミューン参加者にとって、ガリバルディは最も自分達に近い人物。1867、ガリバルディの為の抗議デモ参加者は、逮捕さえされた。多国籍ヴォージュ軍は、未来のインターナショナルだった。ボルドーの右派議員は、やがてヴェルサイユ政府を作った。
　3/24、コミューン中央委員会の打診。「パリ政府は、ブリュネル、ウード、デュヴァルらを将軍とする。彼らは将軍の長として、全員の喝采により任命されたガリバルディ将軍が到着するまで、協力して行動する」
　3/28、ガリバルディ、健康状態を理由に辞意。
　コミューン政府への助言。「ただ一人の男だけに権力を与えたまえ。肝に命じておきたまえ、ただ一人の誠実な男だけが最高の職務を負い、全権を託されていなければならない」
　かつて、ボルドーヌ一人の誘いに乗ったガリバルディが、なぜ今、コミューン中央委員会の熱狂的な招きを断るのか。ガリバルディはここに、内乱を見てとる。かつての同士アミルカレ・チプリアーニ、アッシ、ヴォージュ軍兵士、イタリア千人隊員らが参加しているにも関わらず。何よりも、コミューンはフランスの国内問題。これを国際問題に仕立てたのは、マルクス。
　4/16、コミューン政府、息子メノッティを委員に選出。メノッティ、不在ゆえ辞意。
　リッチョッティへのガリバルディの助言、「お前はフランスに停まりなさい。コミューン主義者の動きを注意して観察しなさい。プロイセンとの戦いが再開される事になれば、参加を許そう。お前がコミューンに参加するなら、私も追って参加しよう。しかし、これはフランス人とフランス人との問題だ。ゆめゆめ、関わってはならぬ」
　5/、ヴェルサイユ軍、コミューン兵士二万を殺害。パリ郊外はプロイセンが包囲。
　ガリバルディ擁護の記者ガストン・クレミウ、弾圧により死亡。
　ガリバルディ派アミルカレ・チプリアーニ、負傷、さらにニューカレドニアへ流刑。
　10/21、ガリバルディの後悔、「この圧制と嘘と臆病と堕落の時代に、法と正義の神聖なる旗を掲げ、死ぬ時には、その旗で身を包んだ男たちばかりだった」

　新聞に意見を表明し、ユゴーと文通するガリバルディ。しかし、苛立ちは隠せない。フランチェスカ・アルモジーノの世話と不服、庶民的、農民的な雰囲気。

第十七景　島の中の墓

　1873.4/23、フランチェスカ、息子マンリオを出産。
　メノッティの近況、貧しい娘と結婚した後、ローマで建設事業に投資して失敗。借金を背負う。
　リッチョッティ、ロンドンで放蕩暮らし。
　1872.3/10、マッティーニ、死亡。
　1874.10/15、ガリバルディ、ローマ議会に立候補、当選。これより、孤立しながら議員としての活動。
　当時のイタリア有権者は全人口の２％。南部は政治から排除された農民を好きなように搾取し、それを黙認する代わり、政治は北部の好きなようにさせるという体裁が整っていた。
　駆け引きを理解せず、当面の敵を非難する事しかできないガリバルディ。
　テヴェレ川迂回計画、ローマ平野改善計画を提案。
　1875.6/16、ローマ議会、テヴェレ川改修計画を可決。しかし、予算不足で難航。
　議員俸給の上限制を提案、議会、新聞からも黙殺。
　ガリバルディ、議員辞職、カプレーラに引退。
　小説「千人隊」の執筆、成功。一万リラ。しかし、焼け石に水。ヨット売却、八万リラ。古参兵アントニオ・ボーの横領。
　1874.11/19、政府議会、ガリバルディに五万リラの年金支給を可決。元老院は満場一致、ローマ議会は反対25のみ。
　ガリバルディの拒絶、私を誰と取り違えているのか。「国を腐敗させて貧しくするのを使命とする政府は、ほかの場所に共犯者を探すべきだ！」

　変形性リューマチ、動けない。

　1876、左翼政党が政権奪取、元千人隊アビスティーノ・デプレーティスが首相となる。ガリバルディ、年金受領を承諾。
　メノッティ、破産を免れる。現在はオーストラリアに住むリッチョッティも、 5000リラを受け取る。
　バッティスティナの娘アニタ、日射病で死亡。
　窓から海が見えないと嘆くガリバルディに、邪魔な岩を削らせて見せる妻フランチェスカ。
　フランチェスカと正式結婚する為に、ヴィットリオ・エマヌエレ二世に直訴するが、法は公平にと断られる。入籍の為、フランス国籍まで手に入れようとするガリバルディ。判事、法律家に対するイタリア世論の非難。
　1880.1/14、控訴院、前回の結婚を無効とする。
　1/26、フランチェスカ・アルモジーノと正式結婚。

　イタリア失地回復運動。国民のデモ、これに呼応するように檄を飛ばすガリバルディ。トレント、トリエステ、ニース、コルシカ島まで。ガリバルディのお陰で、単なる領土獲得ではなく、貧しい国民の当然の要求と謳う事ができる。
　1882.3/、クリスピ、シチリアの晩鐘600年祝典にガリバルディを招待。1282、シチリア住民蜂起によるルイ九世王弟シャルル・ダンジューの暗殺。
　4/16、パレルモ発、翌、カプレーラ着。呼吸困難。
　5/29、激痩。
　6/1、気管支の麻痺。
　6/2、18:20、死亡。
　二羽のスズロムシクイが部屋に入り、それを見たガリバルディは、ふたりの死んだ子供の魂だとつぶやく。最後に考えたのは、トレントとトリエステの事。臨終に、海と遠ざかる船影を見た。

　6/7、家族会議、葬儀はカプレーラ島で行うが、遺言に反して火葬は取りやめ。
　6/8、葬儀、王、大臣、愛国者など、不便な島に500もの参列者。国中の民衆の集会、泣き、祈る民衆。「ガリバルディが亡くなった、将軍が（エ・モルト・ガリバルディ、イル・ジェネラーレ）」

　世界中の新聞、ガリバルディ死亡のニュースを一面で伝える。
　フランス議会、298対189で服喪して閉会。
　ユゴー、ガリバルディの為に設立された委員会を司る。
　３ｔもの自然石が墓を守る。そこには、千人隊の星とガリバルディの名のみが刻まれている。

フィナーレ　人間の声

　生誕百年、生誕百五十年、没後五十年、没後百年にはイタリア中の名士が集まる。
　メノッティは将軍となって、1903に他界。
　リッチョッティ、バルカンで戦い、ムッソリーニに協力。1924に他界。
　マンリオ、海軍将校として、1900に死亡。
　妻フランチェスカ、1923没。
　クレリア、1959没。
　娘婿カンツィオ、左翼活動、1898革命に参加。
　その息子エツィオ・ガリバルディ将軍、ムッソリーニに協力。

　ガリバルディの末裔は家族だけではない。ボーア戦争、ヴェネズエラ革命、バルカン戦争の参加者も、ガリバルディの名の下に戦ったのだ。
　第一次大戦初期、フランスと連帯して参加した仏アルゴンヌのガリバルディ部隊は勇ましく戦った。ここではガリバルディの実の孫、ブルーノとコスタンツォが戦死した。
　1932、ムッソリーニ政権、アニタ・ガリバルディの遺骨をローマに移送、記念碑を建立。
　ファシストのガリバルディ利用、ムッソリーニの黒シャツ隊は赤シャツ隊の真似。
　しかし、もうひとつの静脈がある。それは赤。反ファシズム、自由主義、共和主義者がガリバルディの名を掲げる。スペイン内戦では、ガリバルディ部隊として参加。ファシズム初期にも、レジスタンス＝第二のリソルジメントとして、若者は首に赤いマフラーを巻いた。
　1946.6/2、イタリア国民投票、1200万対1000万で、君主国を廃止、共和国を選ぶ。

訳者あとがき

　著者マックス・ガロは南仏ニースの生まれ。つまり、フランス人でありながら、ガリバルディを語る資格を持つ。

寸評
　人々は英雄、偉人を求める。なぜなら、尊敬する人物が多いほど、人は無為無名の存在を離れて、不屈の、有意義な人生を獲得できるからです。
　やっと近代に興味を持った私は、国家創設の雄を尋ね歩きました。そして、数ある中でも、ガリバルディは光彩をはなっていたのです。
　ビスマルクはもともと貴族出身で、ドイツ統一も、民衆の為ではありませんでした。
　ナポレオンは、革命後のフランス国民が回りの王国に成敗される、あわやという時に登場した救い主ですが、軍人としての色彩が強すぎます。もしも、ルイ十六世の存命時に登場すれば、国王軍元帥として活躍したかも知れないのです。もとより英仏は近世の始めから君主国家として成立していたので、近代国家創立の立役者はいません。
　日本の場合、産みの苦しみは専ら国民に背負わされました。
　そこへ行くと、ガリバルディはどうでしょうか。国家は四分五裂状態、君主は弱腰。下から這い上がって、国家の統一、近代化に務めねばならなかったのです。この点に関して、イタリアは第三世界のリーダーと見なされるべきなのです。
　シチリア、ナポリの解放、ローマ共和国の設立、すべて、二十世紀世界を先取りしているのです。チェ・ゲバラに比される事の多いガリバルディですが、アルジェ独立、ベトナム戦争、キューバ危機、すべてがイタリアの軌跡を繰り返しているのです。イタリアはヨーロッパであると同時に、第三世界のリーダーなのです。この観点からすれば、ガリバルディはまだまだ再評価されるべき人物なのです。

　謙譲の人・ガリバルディは日本贔屓。なにしろ、自分の、実の息子に、マンリオ（＝万両）という日本的な名前を付けた事からも、それは伺えます。

　ロウソク工場で働くガリバルディ

参考
　ガリバルディ年表
　
　

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