リュクルゴス
プルターク英雄伝、河野与一訳、1952。
リュクルゴス（＝Lykurgos）については、様々な伝承が伝わっている。オリン
ピア祭に際しての休戦協定を設けたのは、この人であるとアリストテレスは伝え
ている。
ヘラクレスから五代目にプロクレスが生まれ、六代目にソオスが生まれ、十一
代目にリュクルゴスが生まれた。
ソオスの頃、スパルタはラコニアの先住民をヘイロタイ（＝奴隷）とし、アル
カディアから多くの領土を奪った。ソオスは、クレイトル人によって水のない土
地に包囲された。唯一残った泉に兵士を集めて、水を辛抱すれば国をやると宣言
した。兵士らはたまらず水を飲んだが、本人は顔を洗うに停めて、その土地を奪っ
た。
七代目のエウリュポンは、王政の独裁的な部分を改めたので、民衆から慕われ、
その家系はエウリュポン家と呼ばれた。しかし、その後、王は民衆に侮蔑され、
スパルタは秩序を失った。リュクルゴスの父エウノモスは、喧嘩の仲裁に入った
際、包丁で切られて死んだ。
兄ポリュデクテスも死んだので、リュクルゴスが王位に就いた。しかし、兄嫁
が孕んでいる事を知るや、王位を退いて、自分は後見人の地位に停まった。
兄嫁はひそかに、自分と再婚してくれるなら腹の子を下そうとリュクルゴスに
持ちかけた。リュクルゴスは、堕胎は良くない、その気なら、出産直後に自分が
手を下そうと言った。しかし、子供が産まれると、リュクルゴスはそれを玉座に
就けて、カリラオスと名付けた。人々は、リュクルゴスの公明と正義に感服した。
リュクルゴスはまだ若かったので、妬みを受けた。特に、母后と関係を持って
いるような点が、身内の反感を招いた。義兄レオニダスは、リュクルゴスに王位
纂奪の意志があると誹謗した。リュクルゴスはあらぬ疑いを避ける為、王が成長
するまで国外を旅して回った。
クレテで政治と法律を学び、賢人タレスと交わった。さらに、タレスをスパル
タに赴任させて、故郷の教化を行った。
アジアでは、キオス島の家系がホメロスの詩を伝えていたので、これを熱心に
収集した。ホメロスの収集は、リュクルゴスが最初である。
エジプトでは軍制を学んだと言われている。しかし、リビュア、イベリア、イ
ンドまで行ったと主張するのはアリストクラテスだけである。
スパルタの民衆は、度々、リュクルゴスに迎えの使者を出した。リュクルゴス
には、天性の統治者たる資質があった。さらに、王族も、民衆の横暴を押さえる
為にリュクルゴスを必要とした。健康な人はそうではないが、病人は医者の言う
ことを素直に聞くように、リュクルゴスは、改革の為に国に帰る好機と思った。
デルフォイの神託を尋ねると、神の友にして神に近き者と呼ばれ、あらゆる国政
を凌ぐ制度を作るだろうと予言された。
帰国したリュクルゴスは貴族を味方に付けて、仲間を増やした。ある朝、三十
人の貴族とともに武装して市場を占拠した。そして、反対派を威圧し、法制化を
迫った。若き王カリラオスはアテネ神殿に逃げたが、身に危険が及ぶものでない
と説得されて復帰した。
リュクルゴスは二十八人の元老を設け、これを王と民衆の間に置いた。王に対
しては民衆の横暴を押さえ、民衆に対しては王の権力をそぐ為である。リュクル
ゴスは、元老に関する神託をレトラと呼んで所持していた。それには、「王を含
めて三十人の元老院を設けて動議を行い、決議は民衆が行う」と記されている。
集会所には、前廊も飾りもなかった。そういう物は、知恵を出すどころか、そ
の妨げになると思われた。集まった人は、彫刻や絵画に心を奪われ、議事堂の天
井画などを眺めているうち、浮薄になって空威張りする為である。
民衆には発言が許されず、採決権だけを行使した。後に民衆が、議案を歪める
ようになると、時の王は、「議案を歪めるなら、元老ならびに王は手を引く」と
脅した。
リュクルゴスの後、百三十年後に、テオポンポス王は、エフォロスという監督
官僚を置いた。王権を減らしたと妻になじられた王は、「いや増やしたのだ、長
続きする」と答えた。これにより、スパルタ王は民衆の嫉妬や羨望を免れ、メッ
セネやアルゴスの王家より長命を保った。
リュクルゴスはさらに、土地の再分配を行った。多数の貧困者は国家の負担と
なり、富は少数の手に握られ、傲慢、遊堕、詐欺、羨望が時代に渦巻いた。その
元凶と言うべき富裕と貧困を解消する為、すべての土地を接収して平等に分配し
た。財産で優劣を競う事ができなくなった人々は、徳性で首位を争い、名誉と恥
辱を重んじるようになった。
スパルタには九千戸、周辺の自由人ペリオイコイには三万戸が振り分けられた。
それぞれ、大麦とぶどうを豊かに産する土地である。
ついで動産の再分配にかかろうとしたが、抵抗が予想されたので、別の手段を
用いた。リュクルゴスは金貨、銀貨を廃止し、鉄の貨幣のみを用いるようにした。
しかも、その鉄の貨幣は重く、大きく作って、僅かな価値しか与えなかったから、
十ムナを運ぶのに馬車が必要になった。このお陰で、スパルタから様々な悪徳が
姿を消した。重い貨幣は、盗む事はできないし、賄賂にもふさわしくない。そも
そも、貯えておく事も難しいし、持っていて嬉しいものでもなくなった。
さらにリュクルゴスは、贅沢や奢侈を追放した。しかし、わざわざ追放しなく
ても、贅沢の為の技術は国外へ逃れて行った。鉄の貨幣はスパルタ国外では通用
しなかったので、贅沢品は買えず、船もスパルタの港には入って来なかった。客
相手の女も、金銀の細工師も、この国には来なかった。贅沢は衰えたので、スパ
ルタでは、寝台、机、椅子などに良い物ができた。
さらに贅沢を追放する為に、リュクルゴスは会食の制度を設けた。市民は広い
食堂でともに食事をした。従来のように、奴隷である料理人によって舌を肥やさ
れ、飽食によって健康を損ねる心配がなくなった。さらに、みんなと一緒の物を
食べないのは意気地なしだと思われるようになって、富裕な者も美味珍味を求め
ないようになった。
富裕層はこの措置に不満を持ち、リュクルゴスを市場で見かけた際、みなで石
を投げた。さらに、短気な青年アルカンドロスが追いかけ、振り向きざまのリュ
クルゴスを棒で殴り、片目を飛び出させた。リュクルゴスはひるまず、市民らに
潰れた眼と血だらけの顔を見せた。群衆は恥じて、アルカンドロスを引き渡し、
リュクルゴスを家まで送った。アルカンドロスは身分は高かったが、リュクルゴ
スの身辺で働き、その人柄に打たれて敬うようになった。
この災難を記念して、リュクルゴスはアテナ神殿を建設し、それを眼（＝オプ
ティロス）にちなんで、オプティルティスと名付けた。さらに、従来、スパルタ
人は棒を持つ習慣があったが、この時よりその習慣が廃れた。
スパルタの会食は、友情（＝フィリア）と倹約（＝フェイド）と生活法（＝ディ
アイタ）と食物（＝エドデ）等から、フィディティアと呼ばれた。
集まりは十五人づつで、参加者は月毎に、麦、ぶどう酒、チーズ、いちじくを
拠出した。この制度は長く保たれて、アナナイに勝利したアギス二世が、戦争か
ら帰って妻と一緒に食事をしたいと思っても、許されなかった程である。
会食では、年長者が年少者に対して、政治や自由について指導する機会が生ま
れた。年少者の好ましからざる態度については、冗談や揶揄で矯正された。青年
も、それくらいでは怒らなかった。からかわれても平気でいる事が、スパルタの
特色とされたくらいである。
会食では、酒をほどよく飲んで、灯りなしで帰る。灯りが許されないのは、闇
夜に馴れる為である。
リュクルゴスは法律を書物にして残さなかった。書物で縛るよりも、時宜に応
じて柔軟に解釈する方が有効と考えた為である。
第二のレトラで、リュクルゴスは家の作りを定めた。どの家も、斧と鋸だけで
作り、かんな等、ほかの道具は使わせなかった。だから、柱も梁も、丸太のまま
である。こういう家に住んでいれば、銀の脚のついた寝台だの、赤く染めた上着
だの、黄金の盃だのを持ち込もうとはしなくなる。対ペルシア戦争で手柄を立て
たレオトゥキデス王がコリントスで食事をした際、その家の梁をつくづく眺めて、
この国では樹が四角い形で成長するのかと尋ねたそうである。
第三のレトラには、同じ敵と度々戦ってはいけないと戒めたと伝えられる。う
ち続く戦争は、敵を鍛えて強くする為である。後にアゲシラオス王はテバイ攻め
を何度も繰り返して、この国を強くしてしまった。王が傷を負うと、アンタルキ
ダス将軍はこう言った。「戦争を欲せず、戦争の仕方も知らなかったテバイの人
にそれを教えて、けっこうな謝礼を貰いましたね」
リュクルゴスは女性教育についても、万全の注意を払った。処女の間は、競争、
相撲、円盤投げ、槍投げで体を鍛え、出産に備えさせた。さらに、娘たちに女ら
しい仕草をさせず、若者たちと並んで裸で行列させた。男女別の祭が行われてい
たこの時代に、若者の前で歌ったり踊ったりさせた。しまいには遠慮がなくなり、
しくじった若者を冷やかしたりからかったりする事まで許した。しかし、立派な
若者には称讃の歌をうたい、名誉や熱意を起こさせた。武勇を称讃された若者は、
乙女らの間でも名を馳せた。娘たちの冷やかしは、王や元老が列席する競技の場
でも遠慮がなかった。
処女が裸になる事は、自制心があれば恥ずべき事ではない。簡素に馴れ、身体
を鍛えさせ、かえって高貴な気位を与えた。外国の女が、レオニダスの妻ゴルゴ
に向かって、「スパルタの女だけが男を支配している」と言ったところ、「わた
したちだけが男を生むからです」と答えた。
処女の行列や、裸体での競技は、結婚をしていない人には観覧が許されなかっ
た。これは、結婚を奨励する手段にもなった。のみならず、未婚者は冬になると、
裸で市場を行列させられた。その時、自分達を嘲笑する為の歌まで歌わされた。
さらに、未婚者には、年少者からの尊敬といたわりも無かった。デルキュリダス
は有能な将軍だったが、独身だった。会食の席で、ある若者は席を譲らず、こう
言った。「いずれ、私に席を譲る人をあなたは生んでいない」
結婚は、略奪によって行われたが、それは、充分に尊敬された略奪である。略
奪された花嫁は、奴隷女が迎えて世話をする。まず髪を剃り、男物の衣装を着せ
て、寝台に寝かせる。花婿は会食から帰った後、花嫁を抱いて、また、若者らと
同じ寝床へ帰る。夫と妻は、子供ができるまでは、昼間は顔を合わさない。これ
は、日常生活では克己と節制を促し、愛情面ではいつまでも新鮮さを失わないよ
うにした。
しかし、リュクルゴスは結婚について、女々しい嫉妬を追放した。スパルタで
は、貴族の血が重宝された。もし夫が、良い生まれの若者を歓迎するならば、そ
れを妻の傍に導き、生まれた子を自分の子とする事が許された。リュクルゴスは、
子供を父親の私物ではなく、国家の共有物と考えた為である。そもそも、犬や馬
は、良い種を付ける為に、その飼い主に謝礼を払ったり、世辞を言ったりしてま
で種付けを行う。人間の妻に限って、閉じ込めたり、番人を付けたりするのは笑
止である。
しかし、これは放縦ではない。当時のスパルタでは、姦通というものは存在し
なかった。
生まれた赤子は長老の検査を受け、健全であれば、国家の一員として土地が与
えられるが、不具であれば、深い淵に捨ててしまう。スパルタの乳母も特別であっ
て、子供にはむつきを使わず、泣かせず、闇を怖がらせないように育てる。よっ
て、外国人もスパルタの乳母を求め、アルキビアデスもスパルタの乳母によって
育てられたという。
子供は七才になると集団で生活をさせ、食事、学習、遊戯を一緒にさせた。読
み書き、労務、戦闘が学ばれ、年が進むにつれて厳しく、髪は剃り、裸足に馴れ
させる。十二才になれば、下着なしで、一年中一枚の着物で過ごさせる。
この年頃になると、年長者は教育者として助言を惜しまないようになる。
子供たちは二才年上の者をエイレーンと呼び、その中でも特に優秀な者を自分
達の長に選ぶ。エイレーンで二十歳を過ぎた者は、戦場で少年達を配下に使い、
家では給仕として使う。食材は不足がちで、少年らは野菜を、よその畑や、よそ
の会食場から盗んでくる。見つかれば容赦なく罰せられ、要領よく盗む事を学ば
せる。
食後、エイレーンは少年達を相手に押し問答をする。立派な男は誰か、不名誉
な男は誰か、その理由などを尋ね、てきぱき答えられないと親指を噛まれる。
兄貴分は弟分と名誉をともにする。ある少年が相撲で締められて、はしたない
声を出したので、その兄貴分が罰金を科せられた事もある。このような愛に嫉妬
は見られず、同じ少年を愛する者同士が、それが縁で友情を結びさえする。
言葉については、簡潔さが尊ばれた。数の少ない言葉に多くの意味を持たせ、
寸言で的を射るような表現をさせた。これは、刀が短いのと同じである。アッティ
カの人がスパルタの刀が短い事を笑うと、アギス王は、「我々は短い刀で敵の近
くに迫る」と答えた。
スパルタ人のものの言い方は辛辣である。アルキダミダスは、会食にソフィス
トが居ながら一言も喋べらない事を非難した人に対して、「言葉を心得ている者
は時機をも心得ている」と庇った。デマラトスは、スパルタでは誰が一番偉いか
との問いに、「あんたに似ていない者だ」と答えた。エリスでのオリュンピアが
うまく開催された事を褒めると、アギスは、「五年に一度だけ正義を行ったに過
ぎない」と答えた。ある外国人が、自分は故郷ではスパルタ贔屓と言われている
と自慢すると、テオポンポスは、「愛国者と言われた方が立派だ」と答えた。ア
テナイの弁論家がスパルタの人は無学だと言うと、プレイストナクスは、「その
通り、ギリシアの中であなた方から悪い事を教わらなかったのは我々だけだ」と
答えた。アルキダミダスはスパルタの人口を尋ねた人に対して、「悪い奴らを追
い払うに充分なだけ」と答えた。ナイチンゲールの鳴き真似の名人を聞きに来い
と誘われた人は、「本物を聞いた事がある」と断った。死ぬまで闘う雄鶏をやろ
うと言われた若者は、「よせ、殺すまで闘うのをくれ」と言った。
歌、詩、弁論の教育も熱心に行われた。祭の際には、老人、壮年、青年に分か
れて、合唱隊が組織された。戦争では行進曲が歌われた。
青年になると、髪を伸ばし、ことに戦場に置いては、髪を二つに分けて櫛を入
れた。リュクルゴスは、長髪について、美しい男は美しさを際立たせ、醜い男は
逆に凄みをますと述べた。ギリシアで、髪を伸ばすのはスパルタだけである。
つね日頃、体を鍛練し、戦争の時は小休止になるので、スパルタ人にとっては、
平和よりも戦争の方が楽なくらいである。
競技の優勝者は、戦場では王のそばについて闘う事が許された。スパルタ人は、
オリュンピアで優勝しても賞金を辞退した。
リュクルゴスは度々戦役に従ったと伝えられ、様々な兵制を定めたと言われる。
リュクルゴスがスパルタ市民に残した最大の恩恵は、余暇である。職工や農耕
はヘイロタイの仕事で、富を追及する必要もなかったから、市民には充分な余暇
があった。戦争がない限りは、合唱、祭、踊り、宴会、狩り、体育、歓談に時間
が費やされた。
男性はみな、市場や生活で時間を潰さず、体育場や集会所に集まって時間を過
ごした。ここでは、愛国心が称揚されたので、誰もが一身の事よりも国家の事を
大事に考えるようになった。
三百人組に選ばれなかったパイダレトスは、自分よりも優れた三百人をスパル
タが持つ事を喜ぶように、晴ればれとした顔で帰った。ペルシヤへの使節と立っ
たポリュクラティダスは、私人か公人かと問われて、「うまく行けば公人、うま
く行かなければ私人」と答えた。戦士の母は、立派に死んだ息子を褒めた人に向
かって、「息子は立派だが、スパルタに立派な人は沢山いる」と答えた。
元老の欠員には、六十才以上で徳の優れた者が選ばれた。民会では候補者が入
場すると歓声が上がる。審査員は家の中に閉じこもって、その歓声だけを記す。
結果、歓声の多い者が元老となる。
ただし、スパルタには秘密政策がある。青年の中で素質のあるそうな者に、役
人が剣と食糧を渡す。若者は、夜陰に紛れて、近隣の有力なヘイロタイを殺す。
ペロポネソス戦争の時、スパルタはヘイロタイを兵力として利用し、自由を与え
ながら、間もなく二千人が姿を消した事がある。それが、どういう手段によるも
のか伺わせるものがある。
スパルタはヘイロタイには無理に酒を飲ませ、酔っ払わせながら、その醜態を
見せつけて、青年達には酒に飲まれるな注意した。
法や制度は確立したが、リュクルゴスは神の意向を伺わねば気が済まぬと、デ
ルフォイへ旅立った。神の啓示はめでたかったが、リュクルゴスは高齢でもあっ
たので、その地で息を引き取った。
アギスにいたるまで、十四人の王は誰ひとり、リュクルゴスの法に手を加えな
かった。アギスの代で始めて金貨、銀貨が入って来て、リュサンドロスが貪欲を
広めた。それまでのスパルタは、国家というよりも知恵のある人間のようで、たっ
た一本のスキュタレと一枚のトリボーンで全ギリシアが快く支配に服し、戦争や
内乱を調停した。
スキュタレ（＝一本の棒に細い紙を巻いて文章を書く。受け取った側は、同じ
太さの棒に紙を巻いて読む）
トリボーン（＝外交使節用の外套、特にスパルタのそれは、質素なのに尊敬さ
れた）
スパルタは支配する事は心得ているが、支配される事は心得ないと諸外国には
取られている。スパルタ王の支配がうまい事を褒めると、テオポンポス王は遮っ
て、「むしろ、市民が服従を心得ている為だ」と答えた。
ギリシア諸国は困った事があると、スパルタの指導者の指示を仰いだ。リュサ
ンドロス、カリクラティダス、アゲシラオスは、そのような要請に応えて活躍し
た。
リュクルゴスは去ったが、その後に、自由で、賞讃される国家を残した。プラ
トン、ゼノン、デイオゲネスは著作や学説を残しただけである。リュクルゴスは
著作や学説ではなく、模倣を許さない国家を残した。
スパルタの若い女性が、どこまで肌を露出したかについては、諸説がある。詩
人イビュコスは腿出し娘と呼び、エウリピデスは男気狂いと呼んでいる。さらに、
エウリピデス「アンドロマケ」では、「あの娘たちは家を外にして若者たちと戯
れ、腿はあらわに裳裾は開き」とある。実際、処女が着た着物の裾は、下の方が
縫い合わせてなく、歩く時にはひらひらして腿をすっかり露わした。ソフォクレ
スはその有り様をこう伝える。「メネラオスの娘ヘルミオネの長衣ならぬ下着は、
外を伺う腿のあたりにひらひら揺れる」
そこで、スパルタの女は大胆で、夫に対しても男のように振る舞い、家を治め
た上に公の事にも口を挟み、堂々と意見を述べた。
婚期について、リュクルゴスは、成熟して、活気に満ちた頃に娘を嫁に出せば、
それは自然の情と等しく、夫婦に愛嬌と友情が生まれ、強制結婚によるような嫌
悪と恐怖の対象にならないとしている。ローマではこれより早く、十二才、もし
くはそれ以前に嫁に出された。これは、純潔を重んじる為である。
寸評
人間は、座って半畳、寝て一畳。腹を計って喰らい、丈を計って着れば、余計
な物はいらない。……と言ったのは、リュクルゴスでしたっけ？
それは、墨子。