寒椿

　ひとりのモガが揚げ茶屋で芸者を上げて大騒ぎしている。このモガも芸者。そ れを連れ戻すに来る女げんの男。父性的な優しさが滲み出ている。世話役の母さ んに叱られるモガ。
　女げんの夫に愛想を尽かして家を出る妻子。父は子供を連れ戻す。後日、家を 抜け出してバスで母の実家へ向かう息子。父は単車でバスの前をふさぎ、子を連 れ戻す。その時のバスの車掌がヒロイン。
　博打の借金のかたに娘を売る男、応接間で小さくなっているのが、あの時のバ スの車掌。父さんと呼ばれる女げんは、なるべく良い店で働かせてやろうとする。 陽輝楼と他の店では大違いだから。
　二十一才と高齢だが、芸を仕込まれる事になった娘。母さんと呼ばれる人は厳 しそう。ぼたんという名前を貰う。
　陽輝楼で、力士崩れを多く抱えた新興やくざがうるさく騒いでいる。旦那が父 さんを見込んで、出て行ってくれるよう頼む。下手に出る父さん、当時としては 破格の一万円の請求書を渡す。この額を払えるのは、地元の名士、もう一方の親 分さんくらいだと言う。しかし、とても払える額ではなく、二度と来てくれるな と言っている。度胸に免じて引き払ってやる親分。ただし、気に入った女を連れ て行く。身請けに充分な額の金は渡す。
　ぼたんの乗る人力車が溝にはまる。仁王丸という力士崩れが助ける。ひと眼惚 れする仁王丸。
　地元の相撲大会、ぼたんの前で頑張る仁王丸。
　揚げ茶屋にたんすを届ける仁王丸、こんな物で気を引くなと突き返される。ぼ たんの揚げ代は千五百円。眼を丸くする仁王。
　地元で選挙戦がある。二代目の坊の方に旧やくざ、もう一方に新興やくざが着 く。古い時代の事で、人気の女郎をどちらが引かすかという事でも両者は張り合 う。巷では女郎の写真が売られ、ぼたんが人気。
　迷うぼたん、父さんの意見に従うと言い、父子と猟を共にする。
　二代目の坊がぼたんを水揚げする。まだ身請けには至っていない。
　新興やくざの事務所。連れ去られた女が女房に納まっている。仁王丸が頭を下 げて千五百円の借金を申し出る。ぼたんを引かす気。これは相手の足を引っ張る 事にもなると、親分は乗る気。
　舟遊びをするぼたんのそばに舟を漕ぎ寄せ、そのまま女を浚う仁王丸。漁師村 で彼女をかくまい、抱く仁王丸。
　ふたつの組をあげてぼたんの行方を追う。新興やくざの方が先にぼたんを見つ ける。こちらは身内だから、何ともない。選挙で二代目の坊の方が有利と踏んだ 親分が、ぼたんの身柄引き渡しと引き換えに、こちらにも渡りを着ける。ぼたん を迎えに来る父さん。仁王丸は仲間に押さえ付けられる。
　陽輝楼での坊とぼたん、ねちねちいじめられるぼたん。坊は何の未練もない。 世間体で付き合っているだけ。
　親分に千円を貰い、大阪へ行けと言われる仁王丸。最後にぼたんにひと眼合お うと揚げ茶屋を訪れる。ひたすら頭を下げ、下手に出るが、母さんは電話に手を かける。暴れる仁王丸。止める父さん。だんびらを振り回す仁王。力で無理が通 ると思うやくざ者の根性が嫌いだと絶対にひるまない父さん。ぼたんの前で大立 ち回りを演ずる。警察が来て、ふたりともしょっ引く。
　当選した坊とともに東京へ行くぼたん。揚げ茶屋のみんなで見送る。
　人気のない小屋で車を降ろされるぼたん。新興やくざの一家が回りを取り囲ん でいる。ぼたんに未練の無くなった坊が彼女を売り、やくざはそれを満州に転売 する気でここに匿う。やくざに回されるぼたん。
　満州の景気が良い。満州に女を売って儲けている仲間が、ぼたんという人気の ある遊女まで満州に来るという話を父さんにする。議員に女を身請けさせた気で いた父さんは騙された事を知り、ぼたんを助ける決意をする。仲間もそれを助け る。
　新興やくざの妻に納まった女に頭を下げ、ぼたんの消息を探る父さん。ぼたん を迎えに行く父さんに、母さんが千円を渡す。ずっときつい所しか見せていなかっ た彼女が、ここで良い所を見せる。いじめ役が人情味を見せる所。
　仲間の手配でぼたんを連れ戻す父さん。
　上京を前に祝杯を上げる坊と父、賄賂を貰う警察署長に新興やくざの親分が座 を連ねる。そこへ乗り込む父さん。坊を叱りつけ、親分や署長を蹴散らかす。
　ぼたんが消息を断ったと知り、金庫まで空にされた親分は組員総出で揚げ茶屋 を襲う。出所したばかりの仁王丸が駆け付ける。揚げ茶屋は父さん、ぼたん、他 数人を残しても抜けの空。仁王丸、父さん、大立ち回り。指を落とすぼたん。十 人近くを倒し、車で逃げる。銃を手に追う親分。息子が撃たれる。親分を迎え討 つ為、父さんひとり残して車は妻の実家へ。親分、父さん、共倒れ。
　健康を回復したぼたんと仁王丸は東京へ。見送る母と子。竹薮の中から父さん が子を呼ぶ。自分はここに居る資格はないと語る父さん。

寸評