魔女の宅急便

　両親と暮らすキキ、魔女は十三才になると修業の為によその町に行かないといけない。母は薬が作れる。キキは空を飛ぶしか取り柄がない。晴れた満月の晩を選んで家を出るキキ、黒猫のジジがお供をする。友達に見守られる中で箒に股がるキキ、樹の梢に二回ぶつかり、風を受けて、でんぐり返って夜空に消える。
　裳裾を翻す風が美しい。途中、同業者と出会う。彼女は占いが出来る。
　海猫が舞い遊ぶ中、時計塔にも魅せられ、海辺の町に降りるキキ。町の人は好意的だが、構ってもいられない。警察、ホテル、どこも冷たい。夕方、縁あってパン屋さんの家に居候させて貰う事になる。ついでに宅配の仕事をすると決める。
　隣のデザイナー、甥の家に猫の人形を届けてくれと頼む。籠の中のそれはジジと瓜ふたつ。送り先は岬の青い屋根の家、途中で雁の群と並ぶ。まっすぐ飛びながら変に思う様子がおかしい。雁が騒いで風の到来を知らせる。端から気流に乗る雁、キキは風に飛ばされてしまう。気が付けば樹の枝に引っ掛かっている。そこは鴉の巣の近く。鴉が騒ぐ。上空で人形を落とした事に気が付く。鴉が攻撃して来るので森には近付けない。ジジに頼んで人形の振りをして貰う。遅れた事を謝る。ジジはやんちゃな男の子の手に。さらにその部屋にはバーナード犬が。森の中で人形を探すキキ。山小屋の窓にそれを見付ける。そこは若い女流画家のアトリエ。人形は鴉に突つかれて首が折れている。掃除と引き換えに繕って貰う。深夜、岬の家に向かうと老いたバーナード犬、気配を察してジジを外に運んでくれる。馴れない初仕事、緊張と骨折りがよく出ている。
　暇を持て余す。町で知り合ったトンボという男の子からパーティに招待される。同時にふたつの仕事が舞い込む。ひとつは荷が重い。それを片付けると四時半に婆さんの家へ。女主人と召し使い、ともに二人のお婆さん。レンジの故障で孫に贈るパイがまだ焼けてないと言う。金は払うから引き取ってくれと言われるが、近くの旧式のオーブンに眼を留めたキキはそれを使って焼きましょうと申し出る。三人で焼いたパイを預かるキキ。途中で雨に見舞われる。パイが冷めるからと雨宿りもせずに無理をするキキ。届けた先では、孫娘は余り歓迎してくれない。パン屋の軒先でトンボが待っていたが、帰ってしまう。ずぶ濡れのキキ。
　風邪を引いて寝込むキキ。

　翌朝は快調、パン屋の奥さんから仕事を頼まれる。紙袋の届け先は何とトンボの家。プロペラを付けた自転車を見せて貰う。よそに飛行機の機体があり、それを付けて足踏み式のグライダーにすると言う。海辺に不時着した飛行船を見に行こうと申し出る。プロペラを付けた自転車で海沿いの道路を走る。それなりに爽快感がある。対向車を避けた拍子に自転車が空に浮いてしまう。プロペラが着いているので、それなりに説得力がある。自転車は斜面を転がり、大破して二人は砂浜に投げ出される。遠くの飛行船を見るふたり。乗務員に三人の女の子を乗せたクルマが停まる。飛行船の中を見せてくれるとトンボを誘う。反発してひとりで家に帰るキキ。
　ジジが隣の猫と良い仲になる。言葉が交わせないのはその為かと思う。だが、箒にも乗れなくなったキキ。魔力が弱くなった。宅配屋は廃業。いつかの画家が町に来る。気分転換にと山に誘う。バスやハイクでの二人旅は楽しい。シャガール風の絵。絵も魔法も同じという話をする。翌朝、家に帰るキキ。トンボは飛行船のテスト飛行に乗せて貰う。
　いつかの婆さんから仕事の依頼が。調子が悪くて飛べないと断ると、それでも良いとの事。行って見ると、キキの誕生日ケーキ。お互いの誕生日を教え合うキキと婆さん。テレビでは飛行船事故のニュース。離陸し損ねた飛行船が頭を下にロープ一本でつながれている様がテレビを通して伝えられる。ヒンデンブルグのドキュメントのような迫力。そのロープに最後まで掴まり、一緒に空に持って行かれてしまうのはトンボ。驚いて現場に走るキキ。ロープはトンボの下にさらにクルマ一台を引っ掛けて町の上空を流される。群衆の中でお爺さんのデッキ・ブラシを借りるキキ。魔力が甦る、人々の見守る中を上昇。しかし病み上がりだ、おまけに手にしているのは箒ではなくブラシだ。三度もあちこちの屋根にぶつけ、後ろ向きに飛んで行くキキ。急降下して、商店街の中を突き抜けるのはアメリカ映画並のサービス。クルマを落とした後、飛行船は時計塔に向かう。ぶつかった後、時計塔と住宅群との間を橋渡しする飛行船、トンボは相変わらずロープ一本にぶら下がっている。何度も宙返りを打ち、急落下しながら、トンボを助けるキキ。

寸評
　初仕事、婆さん宅、ふたつのエピソードが生きている。他人の家に入って行く話が多くて面白い。若さゆえ。飛行船でクライマックスも用意。

　ラストの盛り上がりは何だろうか。婆さん宅で作られたケーキを口も付けずに、しかし互いの誕生日を聞いて別れる。その日常からクライマックスに入る。不調とブラシという二つのハンデ、後ろ向きに飛ぶのはここが始めて。逆さまの飛行船はバケットパンにも似ている。無口で筋肉質のパン屋が男らしさ剥き出しで焼いていたパンだ。その先にぶら下がるのはトンボ少年。これはフェミニズム映画、働く女性を扱った映画に見えて、実は男を助ける映画だ。あれが赤ん坊や女の子なら、ラストの盛り上がりは無かっただろう。