ノー・モア・ヴェトナム
リチャード・ニクソン、宮崎緑、宮崎成人、講談社、1986。
第一章 ベトナムの神話
誤った報道、そして誤った記憶
ベトナム戦争は誤って理解されている。これほどひどく誤り、誤解により悲劇
を招いた例はない。ベトナムの悲劇は、マスコミによる誤報から生まれたのだ。
以下の命題はすべて誤りである。
ベトナム戦争は内戦である。
ホー・チ・ミンは民族主義者であり、共産主義者としての顔は二次的なもの。
ゴ・ジェン・ジェムはフランス帝国主義の傀儡。
民族解放戦線は、北ベトナムとは無関係の革命運動。
ヴェトコンは人道的で、村民の心をつかんでいた。
ジェムに対する仏教徒の抗議は、宗教の弾圧が原因であった。
多くのアメリカ兵はドラッグに耽り、罪悪感を払拭するため強いて残虐な行動
を取った。
死傷者のうち、黒人の占める割合は異常に多かった。
アメリカは軍事的に敗北した。
テト攻勢は、アメリカを徹底的に敗北に追いやった。
アメリカによる、1969秘密爆撃と、1970カンボジア領内共産軍基地への攻撃が、
北ベトナムによる1975カンボジア侵攻を招いた。
アメリカ国内の反戦運動が、戦争を短期化した。
アメリカが去って、インドシナの生活水準は向上した。
これらはすべて誤りである。
それは悲劇以外の何物でもなかった
1975.4/、アメリカ軍撤退の後、ベトナムは平和という名の暴力に包まれた。
北ベトナム軍は、ソビエト製の戦車でサイゴンになだれ込んだ。共産軍の侵入の
前に、家財道具を持って我々に頼って来た男、女、子供たちの光景は、アメリカ
の裏切りと失敗を示す事例である。
アメリカの撤退は、ベトナム、ラオス、カンボジアの4000万の人々にとっての
悲劇である。彼らはより良い生活を送るチャンスがあったのに、我々のコミット
メントの失敗の為、今日では、世界でもっとも野蛮な体制の下で苦しんでいる。
反戦運動家は、北ベトナムが勝てば、南ベトナムにも平和な社会主義政府が樹
立されると主張した。しかし現実には、圧政を逃れようとして６０万もの人が海
の藻屑と消えた。今も、何万もの人が再教育キャンプに収容されている。以前は
多少なりとも存在した報道の自由も、今はない。戦場は報道されたが、戦後のベ
トナムを伝える資料はない。野党はなく、自由選挙は拒絶された。一人当たり国
民所得は、500＄から200＄になり、世界最低のレベルである。
さらに、不幸な事にドミノ理論は実証された。1975、カンボジアには700万の
人が住んでいた。1978、ポル・ポト共産主義政権は、200万以上の人を餓死・虐
殺した。
同じ人口規模のオーストリアでこんな大虐殺があれば、文明国の非難は永遠に
続いただろう。反戦運動家、人道主義者らは、ロン・ノル反共政府の腐敗と圧政
が逆に共産主義の勝利を持たらしたと主張する。今日でさえ彼らは、共産軍の侵
攻を防ぐ為に戦っていたアメリカ軍を捕まえて、平和なカンボジア農民を共産軍
の殺人者に手渡したと馬鹿げた主張を続けている。
彼らは鏡を見る事ができない。鏡を見れば、そこに非難すべき殺人者の顔を見
つけてしまう。彼らこそが、アメリカの戦争努力に反対する事によって、ひとた
び権力を握れば大虐殺を始める者どもに手を貸していたのだ。
世界の真空地帯で失われた、一億を越える人々
ソビエトの世界戦略において、ベトナムは決定的に重要な勝利だった。我々は
ベトナムで失敗し、内に引きこもった。アフリカで、中東で、中米で、危機があっ
ても、ベトナムの再現という一言で議論が停止してしまった。我々が苦悩してい
る間に、一億を越える人々が西側から消えてしまった。
これは、ベトナム症候群とも言うべき症状だ。ソビエトの世界戦略の前で、友
邦諸国の不信も見逃せない。彼らは大使館で、シャンパン・グラスを手に微笑み
ながら、アメリカは頼りになるか、いざとなれば支援を打ち切るのではないかと、
値踏みしているのだ。自由も、民主主義も、共産主義の侵略の前では、軍事・経
済援助なしには立ち行かないのだ。
レーガン政権は、友邦諸国への軍事・経済援助につき、議会の承認を得られな
かった。これも、ベトナム症候群のひとつだ。
アメリカはいつでも、自由という大義にコミットし続けている。しかし、戦争
が長引き、空虚に見えるにつれて、反戦派の金切り声により掻き消されていった
のである。1974-1975、ソビエトと同程度の援助を行えば南ベトナムは守れたに
も拘わらず、民主党議会は予算を打ち切ったのである。
レーガン政権の誕生、再選は、アメリカの威信回復を証明している。しかし、
エリート層は未だに、ベトナム戦争の影から抜け出せずにいる。
ベトナムを失った原因として、マスコミと反戦運動とが挙げられる。しかし、
戦争のあるところ反戦運動は存在する。それを圧倒するのは、大義と、正義の説
明と、信念による勝利である。
ベトナム戦争には四つの神話がある。
一、ベトナム戦争は不道徳であった。
二、ベトナム戦争で勝つのは不可能であった。
三、共産主義の”民族解放運動”に対しては、力を用いない外交が最善である。
四、我々は、ベトナムにおいて、味方する側を間違えた。
以上を検証しよう。
神話その一、ベトナム戦争は不道徳であった
ベトナム戦争は不道徳だったという主張が、時を経るに従って増えている。
どんな戦争も、野蛮で、醜悪で、危険で、苦痛に満ち、時には非人道的である。
それがテレビの生々しい報道により、以前のどんな戦争にもまして国民の前に晒
け出された。
戦争を初めて目のあたりにした人は、ショックを受け、あらゆる戦争は恐ろし
いという意味で、この戦争は不道徳だと言ったのだ。彼らは、ベトナム戦に戦う
に値する大義かあるかと問いもせず、ナイーヴに、まったくの善意から、戦争に
対して抗議の声を上げたのだ。
不幸にしてこの戦争反対運動は、共産主義侵攻に抵抗するアメリカの戦争目的
そのものに反対する集団と結び付いてしまった。戦争そのものに対する反対と、
戦争目的に対する反対運動とが、ひとつに結ばれて倍加したのだ。
後者もまた、決して共産主義を支援しようという気持ちから出たのではない。
ホー・チ・ミン独裁を善政と勘違いしていたのだ。
彼らは戦争を間違って捕えている。曰く、「アメリカは南ベトナム国内の革命
勢力と戦っている」「腐敗した南ベトナム政権が崩壊するに任せて置けば、国民
の生活も向上する」「アメリカの戦術のせいで、多くの民間人が犠牲になってい
る」
反戦運動家は、民族解放戦線を南ベトナムの民主化運動と見なし、ゴ・ジェン・
ジェムを抑圧的な軍事政権と見ている。実際には、民族解放戦線は北ベトナムが
南を侵略する為の最前線であり、ハノイの工場で作られた武器のひとつである。
実際には、戦争終結後、民族解放戦線は一掃された。新政権で要職に就くと思わ
れたが、ほかの数十万の農民と一緒に再教育キャンプに放り込まれた。
公平に見れば、ベトナム、カンボジア、ラオスの悲劇を反戦運動家が予測する
事は不可能だっただろう。しかし、ホー・チ・ミンの暴政を見逃したのは咎めら
れてしかるべきだ。共産主義者による平和は、反共の為の戦争よりも多くの人間
を犠牲にする、という事はいまや記録によって明らかである。
民間人を犠牲にしたという主張は、現場の兵士には異様に聞こえるだろう。作
戦は厳しい制限下に置かれ、民間死傷者の比率は朝鮮戦争よりも低く、ｗｗ２と
同程度である。戦闘機パイロットの多くが犠牲になっているのは、飛行ルートが
定められている為、標的になりやすったのである。
1972.12/、この二週間の爆撃で、北ベトナムは停戦合意しか道がないのを悟っ
た。ここでは、ハノイ発表によると、1500人の民間人が死んだとされる。ドレス
デン爆撃では、35000人が死んだのだ。
神話その二、ベトナム戦争で勝つのは不可能であった
これは、合衆国の反政府分子が好む議論である。
ベトナム戦争は、多くの節目で勝つ機会があった。1960年代に、もっと北に標
的を向ければ勝てただろう。1973、パリ和平協定では、我々は勝ったのである。
その後、二年間は、南ベトナムは単独で北の停戦違反を喰い止めていた。ソビエ
トは、和平協定などお構いなしにハノイに軍事援助を与えた。それと同程度の援
助さえあれば、我々は勝てたのだ。
共産主義革命の勝利は不可避である為に、この戦争はそもそも勝ち目がないと
思い込んだ人も多い。彼らは、第三世界における革命運動、民族解放運動は自然
で不可避で、干渉すべきではないと考えた。これは、その背後にある勢力を見な
い態度である。
貧しいヴェトコンの装備に打たれた人もいた。素足、粗衣で戦うヴェトコンに、
我々の近代戦術がかなわない。そこから、彼らの大義が正しいからだと結論づけ
られた。これはほとんど、装備そのもの、巨大な力そのものが悪だと言うような
ものだ。
映画「スター・ウォーズ」の製作者は、悪の巨大戦闘機が、善玉のちっぽけな
弓矢で倒される場面は、ベトナム戦争から思い付いたと語った。
ヴェトコンが、ソビエト製オートマチック・ライフルで武装し、ソビエト製戦
車で国境に殺到した事は、なぜか見逃されている。アメリカ国民が、アメリカの
勝利を願わないのは不思議である。ベトナム症候群の最も激しい症状のひとつは、
アメリカ国民が自らの力を恥じ、強いという事を後ろめたく感じ、自由の大義の
為の力の行使を忘れてしまった事である。
神話その三、共産主義の”民族解放闘争”に対しては、力を用いない外交が最善の策である
重要なのは、この神話を信じていた者と、この神話を利用した者とを区別する
事だ。アメリカ国内にも、共産主義体制の成功を喜ぶ人がいる。そうでなくとも、
第三世界の紛争に介入すべきでないと考えている人がいる。
我々がベトナム後の五年間、対外援助と介入を怠って来た事によって、その間
に、ソビエトは舌なめずりをして、南イエメン、エチオピア、アンゴラ、モザン
ビーク、アフガニスタン、ニカラグアを貪り喰った。また、アヤトラ・ホメイニ
はイランを中世へ投げ込んだ。我々の五年間の沈黙の間に、西側から失われた何
千万もの人々は、平和的外交が不毛である事を示す生きた証人である。
議会やマスコミは、世界の警察官である事をやめて、幼稚園の先生であろうと
する。それは、教室で紙の玉を投げる子は叱りながら、通りで火炎壜を投げる子
は放って置くようなものだ。
神話その四、我々はベトナムに置いて、味方する側を間違えた
イギリスの歴史家ポール・ジョンソンは、地政学では、どちらの悪が受け入れ
難いかを判別するのが要諦だと説いた。
マスコミは、北ベトナムの嘘には何の疑念も抱かず報道しながら、アメリカ政
府、および南ベトナム政府の発表はぜんぶ嘘だと決めてかかっていた。アメリカ
軍による、ミ・ライでの突発的な虐殺事件が明らかになると、政府を追及する騒
ぎが起こった。しかし、共産軍によるユエ（＝フエ）での大虐殺については、民
間の死者はミ・ライの２５倍に昇り、突発的ではない計画的な虐殺であったにも
関わらず、マスコミは目をつぶった。アムネスティ・インターナショナルは寛大
にも、それはヴェトコンの無慈悲さではなく、「戦争というものの昔ながらの無
慈悲な姿」によるものだと報告した。
マスコミ関係者は決して、アメリカという国が嫌いなのではない。結局、彼ら
は、共産側のＰＲ戦術によって掘り崩されてしまったのだ。共産側のＰＲは、
1917以来、知識人の夢を生産し、西側の知識人を欺いて来た。そして、奴隷制を
見てもユートピアのように、侵略を見ても解放のように、ホー・チ・ミンのよう
な残虐な独裁者を見ても慈父のように、思わせてしまうのである。
戦争に反対していた人達は、南ベトナムは共産政権下で幸福になるだろうし、
アメリカはインドシナ情勢には無知なのだと信じてしまった。しかし、実際に無
知だったのは、アメリカが南ベトナムを侵略から守っている事を知らない、記者、
インテリ、論説委員、議員だったのである。
三年前ニューヨークで、左翼連合が、ポーランドの民主化運動に対するソビエ
トの弾圧について、体面を守る為に会議を招集した。中道派のスーザン・ソンタ
グは言った。共産主義はファシズムの一形態であり、保守的な「リーダーズ・ダ
イジェスト」を読んでいる人の方が、リベラルな「ネイション」を読んでいる人
より共産主義の本質を知っていると。その途端、会場から野次が飛んだ。驚くべ
きは、その後数週間にわたって、スーザン・ソンタグが悪口雑言を耐えねばなら
なかった事だ。
レーニン、スターリン、毛沢東、ポルポトの下で、何億もの命が失われたにも
関わらず、まだ自分で自分を欺こうとする、アメリカの左翼陣営が強固に存在す
る。さらに注意すべきは、アメリカは味方する側を間違えた、等と言っているよ
うな人々が、歴史を記述しているという事だ。
我々がベトナムから学んだ事は、我々の力になる。第三世界における戦争で、
敵はその意図をいかに巧妙に宣伝と政治工作の裏側に隠すかを学んだ。また、我
々を悲劇に導くのは、戦争それ自体に失敗する事でなく、戦争遂行に失敗して敗
北する事であるのを学んだ。
アメリカが、二度と再びベトナムの悲劇を繰り返す事のないように願わない者
はいない。だが、その為の最善の道は、我々の意志を明白にし、必要に迫られれ
ば戦争を遂行する力がある事を確信することだ。
反戦運動は、戦場には何の影響も及ぼさなかったが、政治的には決定的なイン
パクトを与えた。反戦派の暴動や爆弾テロは、結局、我々を東南アジアから撤退
させた。肉体的なダメージは癒されたが、知的、精神的ダメージは未だに続いて
いる。十年たっても、反戦運動家が大学のヒーローに仕立て上げられたように、
戦争についての歪んだ認識が、テレビ、新聞、大学の講義で続いている。ベトナ
ム症候群を癒す前にすべき事は、その原因と言うべき、百害あって一利もない知
識人の言うデタラメを追い払う事である。
第二章 いかにしてベトナム戦争は始まったか
第二次世界大戦が東南アジアを変えた
太平洋戦争は、東南アジアのすべてを変えた。終戦は、この地域における日本
の影響力の終焉であった。同時に、帝国主義もまた終わりを告げた。
ローズヴェルトは、アジアの独立を主張した。チャーチルとド・ゴールは、植
民地時代への復帰を求めた。スターリンは、民族独立を口にしながら、共産主義
政権の移植をもくろんでいた。
フランスは、ラオス、カンボジア、ベトナムを含む全インドシナを５０年も支
配し続けた。その教育と開発は、地域経済を飛躍的に向上させた。フランス統治
時代の1953、私が訪問したハノイの学校、病院などは、第三世界の中でずば抜け
て素晴らしかった。しかし、フランスは、自治を教えたり、安定した政府を樹立
する道を示唆しなかった点で間違っている。
1920年代、1930年代、民族主義運動が盛り上がった。ホー・チ・ミンひとりが
頑張ったというのは神話に過ぎない。無数の政治団体が結成された。立憲党、ベ
トナム人民進歩党、東遊運動、東アジア人民連盟、ベトナム復興、ベトナム民族
主義者党、ベトナム復興協会、大ベトナム民族主義者党、さらに、二つの武装集
団があった。
あるグループはフランスとの協調を目指し、あるグループは完全独立を目指し、
あるグループは日本との協力を望んだ。
日本のアジア支配で、すべてが変わった。戦後、かつての臣下は、ヨーロッパ
人を畏敬の念で見る事はしなくなった。その支配を盲目的に受け入れる事もなかっ
た。イギリスはめざとく、マレーシアの独立に手を貸した。フランスは、「遺産
を取り戻すために」帰って来た。
ホー・チ・ミン率いるヴェトミンの手ごわさ
1946-1954、第一次ベトナム戦争。これは、フランスとベトナムとの戦争。ア
メリカは、ローズヴェルト、トルーマン、アイゼンハワーと歴代に渡り、独立承
認を訴えた。フランス、50億＄、１５万人の犠牲。
ドミノ理論
ホーvsフランス小史
ｗｗ１終結、ホー、ウィーン会議に出席するウィルソン大統領に直訴するも、
取り合って貰えず。
ホー、コミンテルンに参加、ベトナム代表となる。
ｗｗ２、ホー、共産軍ヴェトミンを率いて、他の民族主義者を粛清。
1945、ホー、北部ベトナムに政府樹立。ベトナム民主共和国の独立宣言。
1945、フランス帰還、南ベトナムを再統治。
1946.3/6、フランス・ヴェトミン協定。フランス、北ベトナムにも統治を拡大。
フランスと共産政府、関係悪化。小競り合い頻発。
1940年代、フランス優位。
２０万ものベトナム人、ラオス人、カンボジア人がフランス指導下のインドシ
ナ国家連合軍に参加。これは、ヴェトミンが、フランス植民帝国よりも嫌われて
いた事を示す。
反共のトルーマンでさえ、フランス支援には躊躇した。アメリカが、植民地主
義の味方をするという汚点は避けた。ただし、ヨーロッパ戦線では、反共ブロッ
クのひとつとしてフランスを必要とした。
1949、中国、毛沢東率いる共産軍の支配下に入る。
中国、ホー政権を援助。軍事顧問の派遣、武器供与。ホー、一万からなる師団
を整備。
戦況、国境ではホー有利、都市や大規模農村ではフランス有利。
1954、ホー、ラオスへ撤退。フランス軍、ディエン・ビエン・フーに要塞を構
築。
これは戦略上の失敗。暫壕戦に馴れたフランスは、兵力のすべてを地下に収容
しようとした。しかし、ディエン・ビエン・フーは高地に囲まれた盆地。補給は
空路に頼るしかない。ここを攻撃しなかったら、ホーはよほどの馬鹿。そして、
ホーは馬鹿ではなかった。
1954.3/、ディエン・ビエン・フーの戦い。仏軍16000に対して、ヴェトミンは
その五倍。空路は天候に左右され、負傷者を外に運び出す事さえできない。フラ
ンス軍は、自分の要塞に閉じ込められた囚人のようになった。
1954.4/、ディエン・ビエン・フー陥落。この要塞勤務は、インドシナに駐留
する全フランス軍の５％に過ぎない。死傷者は、ヴェトミンの方が三倍も多かっ
た。しかし、しかし、戦意がポッキリと折れてしまったのはフランス軍の方だっ
た。
1952、トルーマン政権アメリカ国家安全保障会議、東南アジアについて。「あ
る一国を失えば、おそらく、この地域の他の国々は比較的急速に共産化されるか、
あるいは、共産国と同一歩調を取るようになってしまうだろう」
こざかしいペテン師ホー・チ・ミン
1956、上院議員ジョン・Ｆ・ケネディ発言、「ベトナムは、東南アジアにおけ
る自由世界の柱石であり、橋げたの土台であり、障壁の基礎である。共産主義の
赤い波がベトナムを覆ったならば、ビルマ、タイ、インド、日本、そして当然な
がらラオスとカンボジアが、危機に晒されるであろう」
（所感、ケネディはフランス財閥の利益を代表している。後の政権では、仏ディ
ロン財閥の人間が入閣している）
ディエン・ビエン・フーの陥落は、ほかならぬ中国の共産化によって可能となっ
たもの。
1954.4/、フランス、アメリカに協力を要請。
国家安全保障会議にて。
ニクソン、「フランスを今助けるか。後になって、共産勢力拡大阻止の重荷を
ひとりで引き受けるかの、ふたつしかない」
統合参謀本部議長アーサー・ラドフォード、「フィリピン駐留のＢ−２９を六
十回す用意がある」
アイゼンハワー大統領、「ヴェトミンの背後にいる共産中国に対して、海上封
鎖を取る可能性」を示唆。
しかし、アイゼンハワーも、ジョン・フォスター・ダレス国務長官も、乗る気
は薄かった。朝鮮戦争直後で、アジアへの介入には抵抗があった。アイゼンハワ
ーは、他国との共同行動に限り、議会の賛成を得られるだろうと結論した。
ラドフォード、英国へ派遣。チャーチルの拒否。イギリスはインドに停まろう
ともしていないのに、フランスをインドシナに停まらせる理由はない。
アイゼンハワー、アメリカの単独介入を断念。
1954.5/7、ディエン・ビエン・フー陥落。55日の抵抗の後に、野球場ほどの大
きさにまで縮小していた要塞が、ヴェトミンの波に呑まれた。
我々がベトナムに関して犯した最初の失敗は、ディエン・ビエン・フーに介入
しなかった事である。我々の戦備は、航空支援には打ってつけだった。
インドシナ情勢は、孤立した要塞を除けば悲観的なものでもなかった。フルシ
チョフは回顧録の中で1954を振り返り、「ゆゆしき状態」「崩壊の危機に瀕して
いた」と記している。
ホー・チ・ミンは、友人である毛沢東やフルシチョフの支援を得ていた。もし
我々が、我々の友邦を同様に支援していれば、敵を簡単に蹴散らかしてしまえる
だろう。
インドシナ戦争における最初の原因は、植民地主義ではなく、共産主義だった。
まだ残る植民地主義の残滓のお陰で、彼らは争点を曖昧にする事ができた。発端
は、ホー・チ・ミンによる独裁権力獲得へのごり押しにあり、共産中国の支援に
よって継続された。
1954、ジュネーブ会議。北ベトナムと南ベトナムとを承認。ホー・チ・ミンと
ゴー・ジン・ジェム政権。
ゴ・ジェン・ジェムの履歴
ホー・チ・ミンは世界最高のＰＲ組織を有している。マディソン街も真っ青。
曰く、ベトナムのジョージ・ワシントン、アジアのチトー。曰く、アメリカが協
力を拒んだから、中国、ソビエトに救いを求めただけ。文盲追放、土地改革に燃
える博愛主義者のホー叔父さん。
実際は、権力亡者である。自伝の中にも、共産主義より民族主義を優先させた
という記述はひとつもない。
ホー・チ・ミン自伝より。
1911、２１才にして渡仏。多くの民族主義者が日本へ行く中で、珍しい事。
1920、ホー、フランス共産党の創設メンバーの一人となる。機関紙リュマニテ
に、「統制されてない民族主義は、共産主義の伸長を妨げる危険な敵である」と
記述。
1923、ソビエト政府、ホーをモスクワへ召喚。コミンテルン・エージェントと
しての教育と訓練。コミンテルンは、祖国を裏切る事になろうともソビエトに忠
誠を尽くす。
1923-43、２０年に渡り、モスクワに滞在。レーニン大学で革命の科学を勉強、
東南アジアでのコミンテルン活動。
ホー、ベトナムで民族主義者と同盟を結ぶ。しかし、必要がなくなれば切って
捨てた。
1925、ホー、民族独立運動の指導者ファン・ボイ・チャウをフランス秘密警察
に密告。共産党史では、チャウは自ら罠に落ちたと記載されるが、ホーは仲間に
は、将来のライバルを消したと語った。
ｗｗ２中、ホー、ベトナム国内では無名。戦後の権力闘争に勝つには、外国の
支援が必要と痛感。
ホー、情報提供により、アメリカ人情報将校に接近。この時期に知遇を得た将
校は、後にアメリカがヴェトミンを支援する事を政府に提案しさえした。
1945.9/2、ホー、ベトナム民主共和国の建国を宣言。親しいアメリカ将校らは、
何の疑念も抱かず、共産主義の旗に敬礼さえ行った。さらに、ホー、アメリカ独
立宣言を引用。「国民の生命、自由、幸福追及の権利を保障」と発言。
9/5、ホー政権、国内最大の民族主義政党を非合法化。にも関わらず、ＯＳＳ
（＝アメリカ戦略情報局）の将校は、ホーを「ひどく良い奴だった」と回想して
いる。
ホーはアメリカの支援を求めたと信じている人がいる。そうではない。ホーは、
アメリカが彼の側についているように見える事を望んだ、というのが真相。アメ
リカを信頼しているベトナム国民にすれば、ホーの演説の時にアメリカ将校がい
たという事は、他の者にはない正統性、優位性が与えられた事を意味した。彼は
これを利用した。南のフランス傀儡政権のバオ・ダイ帝は数日で退位してしまっ
た。のちに帝は、アメリカがホーを支持したと聞いたので退位したと語った。
戦後、解放軍の英米中が撤退すると、フランス軍が戻って来た。
多くの民族主義政党がフランスとの協力を拒む中で、ヴェトミンは協力する道
を選んだ。
1946.3/6、ホー、フランス軍が北ベトナムに戻るのを認める三月六日協定にサ
イン。さらに、ホーの発言。「私は、フランス及びフランス軍を愛している。本
当に、お帰りなさい。皆さんは英雄です」
ホー＆フランス、民族主義運動を弾圧。何百の指導者、何千の党員を大虐殺。
フランス、ヴェトミンに対して武器援助、のみならず実戦での援護砲撃まで。
1946.7/、フランス軍が周囲を囲む中、ホー軍、民族主義グループの本部に殺
到。
1946.11/、ヴェトミン、フランス軍に対して反旗。ホーは、ベトナム国内で唯
一の抵抗勢力となる。なぜなら、他の連中はすでに殺してしまったからだ。
一連の対仏協力の背景には、ホー曰く、「反動主義分子を一掃する」為にあっ
た。ホーに取っては、すべての民族主義は反動主義なのだ。
ホーはベトナム民族主義者であったという説は、どこにも根拠はない。彼は、
かつての帝国主義フランスと協力してまで、民族主義者を抹消する事に狂奔した。
口で何と言おうと、ホーは、本質から、共産主義独裁者であった。
ホーが人道主義者であるという評価も、根拠がない。1954、ジュネーブ宣言で、
南北ベトナムの国境が確定された際、ベトナム国民が好きな方に移動できるよう
６０日間の猶予が与えられた。北の総人口1300万のうち100万が南に移動し、南
から北へ移ったのは9万に過ぎなかった。
なぜ、こんなに嫌われているのか。ホーの土地改革は、土地の分配のほかに、
農民に恐怖をも与えていた。
1954時、北ベトナム農民の98％が自作農となっていた。それでも、共産幹部は
ハノイから定められた割り当てをこなす為に、「犯罪的地主」を探すのに躍起に
なっていた。農民の５％が、根拠もなしに地主のレッテルを貼られた。後に亡命
した北ベトナム士官の証言では、これらは幹部の「でっち上げに過ぎない」とさ
れている。
ホーの配下は、村人を支配する為に拷問を用いた。逆さ吊りにして殴る、指を
万力で挟む、樽の中に浸ける。しかる後に、形式的な裁判が待っている。そして、
死刑。
ホー・チ・ミン一派の指針。「ひとりの敵を取り逃すよりは、十人の無辜の民
を殺す方がまし」
地主のレッテルを貼られた者は死刑。のみならず、その家族まで村八分にされ
た。会話、贈与、職を与える事を禁止する命令。党の指導の下に、病気持ちの野
良犬のように扱え、石を投げろとけしかけられた。浮浪を余儀なくされた者は、
餓死する運命にあった。この追放運動で、30万から50万の人が亡くなった。
これらの苛政は、地方幹部の暴走によるものという意見もある。すべては、ホ
ーの意志に基づく。この政策は輸入されたもの、メイド・イン・共産中国である。
ホーは、北ベトナムで生きるには、共産主義しかないと誇示したかった。しか
し、選択肢は存在した。南ベトナムには、ゴ・ジェン・ジェム政権があった。
帝都ユエの名家の出身。フランス植民地主義に猛烈に抵抗した事で名を馳せる。
敬謙なカトリック教徒、合衆国メリーノール神学校に二年間留学。
1933、議会設置の為の改革案をフランス側が呑む事を条件に、中央ベトナム安
南の内務大臣に就任。
三ケ月後、何ひとつ公約を果たさないフランスに怒って辞任。この後もフラン
スは、公職を提示して誘うかと見ると、脅しに出る。それほどの存在。
ジェム、日本占領政府の役職に就任。これは、当時の民族主義者としては当然。
戦後、傀儡帝バオ・ダイ、何度もジェムの助力を要請。
ホーでさえ一目を置く、ジェムの愛国心。
1945、ホー、ジェムを投獄。その弟を殺害。
ホー、ジェムを中国国境に追放。ジェム、マラリアを罹患。
半年後、ホー、ジェムを召喚。共産政府の内務大臣職を提供するも、拒否され
る。
ここでジェムは釈放されるが、ホー側近は、ここでジェムを放したのは失策だっ
たと語る。
ホー、欠席裁判でジェムに死刑を宣告する。
1954、南北ベトナム時代。バオ・ダイ帝、ジェムを全権首相に任命。
課題は山積。秩序はなく、混乱と政争のみ。軍部と官僚はいまだフランス贔屓。
盗賊ビン・スエンはサイゴン警察と裏取引、ジェムに反抗。武装宗教集団、カオ・
ダイとホア・ハオはつねに反乱。これらは、ヴェトミンが北へ引き上げる前に、
政府転覆の為に残した地下組織である。
ジェム、二年間で、フランス贔屓の将校と官僚を追放、警察組織を刷新。武装
集団、ヴェトミンの撃退。
1955、ジェム、大統領国民投票でバオ・ダイに勝利。新憲法起草の為の憲法制
定会議を策定。
ジェム、政府の最優先課題は秩序の確立。その為には、新聞の抑圧、政敵の迫
害もあえてした。
1956、訪問したニクソンの批判に対して、共産主義の暴力と武装蜂起に対して
は、普通の平和時のような統治では負けてしまうのだと語るジェム。「我々は、
今、戦争をしているのです。戦時には、戦時のやり方が必要なのです」
1955、ジェム、共産シンパを粛清、何万人を再教育キャンプへ送致。しかし、
その多くは地下組織メンバー。
国内ヴェトミンへの弾圧が終わると、南ベトナムの政治的抑圧は、東アジアで
は最小になった。1960年、ジェム政権は300人の政治犯を抱えていたが、ビルマ
やインドネシアでは、その数は何万にもなっていた。
1955、大統領国民投票では、98.2％という得票率。公正に管理された選挙でも、
90％は取っただろう。
1956、憲法制定会議選挙の実施。選ばれた議員の1/3は反ジェム派。
アメリカ支援の下での、ジェムの善政。学校の増加、マラリアの撲滅、農業の
振興、サイゴン周辺での軽工場の発展。
1954、ジュネーブ宣言の余波。
1954、ジュネーブ宣言。九ケ国が参加し、ベトナム統一に向け選挙を行うとい
うもの。しかし、監視はない。
1956、選挙に向けての最終調整。ジェム＆アメリカ、選挙を拒否。南ベトナム
内での選挙結果を恐れるものではないが、北ベトナムでまともな選挙が行われる
保証はないと危惧したもの。ケネディ上院議員も、これを支持。
ホーの選挙操作。
1946、北ベトナム選挙。ホーは選挙結果を予め画定していた。与野党の議席さ
え、自ら割り当てた。人口119000のハノイで、ホーが得た票は169222、つまり赤
ん坊まで含めて、140％の得票率。
アメリカの反戦運動家は、統一選挙が行われればホーが勝ったと言う。その根
拠として、アイゼンハワー自伝の次の章を引用する。
アイゼンハワー自伝より、「インドシナの事はよく知っている筈なのに、戦争
中にもし選挙が行われたら、人口の80％が、バオ・ダイではなく、ホー・チ・ミ
ンに投票したであろう、という認識を私と同じくしない人とは、私は決してつき
合わなかった」
ここでは、ホーは必ず不正を働くという事が指摘されているのだ。
1956前、社会の動揺を鎮める為、政府は５万の人を殺害したと、北の名将ボー・
グエン・ザップ将軍は証言している。ホーはすでに、選挙に勝てる人間ではなかっ
た。
４０００人の共産ゲリラ、その陰にいるのは
全ベトナム支配へのホーの野望は、止むところがなかった。
ジュネーブ休戦協定、軍備凍結を誓約。
その四ケ月後、北ベトナムは七個師団を二十個師団に拡大。南ベトナムは、逆
に２万の兵士を復員。
1959.5/、北ベトナム共産党、第十五回大会。
大会決議。「南における革命進展の基本的方向は暴力の使用であり、特殊事情
および現下の革命的要請によれば、暴力使用路線は、軍事力と連動した形で、帝
国主義者と植民地主義者の支配を覆し、人民による革命的統治を築く為に、状況
に応じて、多かれ少なかれ大衆の力を利用し、大衆の政治力に第一義的に依存す
る事を意味する」
1959.9/、以前、南に対する共産ゲリラの大規模浸透。これは、２年で４００
０に拡大。後にザップ将軍は語る。「北は、わが軍にとって、広大なる後衛となっ
た」 つまり、南は前衛であること、すなわち、南ベトナム内での共産軍の蜂起
は内戦などではなかった事を示す。
第三章 なぜ、そしていかにして我々はベトナムへ介入したか
敵は我々を打ち破ることができなかった。だが……
ベトナム戦争ほど、非効率な戦争はない。
戦争の鉄則を無視したばかりか、三つの誤りを
アメリカと北ベトナムの力の差は、歴史上例を見ないほどだった。しかし、彼
らには有利な点がひとつあった。それは、指導者が際限なく野蛮で過酷になれる
という点だ。これに対してアメリカは、なぜベトナムに介入するのかという問い
を受け続けた。
1950、トルーマン政権、フランスに対し、対ヴェトミン戦支援の為に1000億＄
の財政援助。
1960迄、アイゼンハワー政権、南ベトナムに対し、20億＄の財政援助、685名
の非戦闘顧問団の駐留。
ケネディ政権、南ベトナム駐留軍事要員を16000に増員、戦闘参加の許可。
1965、ジョンソン政権、北爆、駐留軍は55万に増加。
1968、戦争によるアメリカ兵士の死者31000人。一週間に300人という計算。
1960-68、アメリカのベトナム政策は間違っていた。我々は、これを南ベトナ
ムでの内戦と捕え、北ベトナムからの侵略である事に気付かなかった。また、北
ベトナム軍が、ラオス、カンボジアを通る補給路、いわゆるホー・チ・ミン・ル
ートを通るのを阻止できなかった。
我々は、偉大なジェム政権を転覆し、軍事クーデターを後押しする事がどんな
結果を招くか、予想できなかった。我々は、戦争をアメリカ国民に説明する事が
できなかった。
戦争の鉄則は、敵を知り、己を知る事。さらに、戦況に応じた戦略を採用する
事である。
戦争の初期、北ベトナムは、南への侵略を、あたかも民主化を求める内乱のよ
うに擬装して行った。アメリカは、侵略よりも、内乱に対するような姿勢を取っ
た。
1959からの北ベトナムの侵略は、朝鮮戦争の教訓を活かしたものとなった。北
朝鮮の堂々たる南侵は、アメリカに介入の正当性を与え、国連軍の招集さえ可能
にした。北ベトナムは、侵略が内戦に見えるようにずる賢くカモフラージュした。
1963迄、北は15000の兵士を送ったが、それは、北で教育を受けた南ベトナム
の人間だった。
1964、北は12000を派遣。ここから、北ベトナム在住の兵士が混ざる。
1965、北、36000を派遣。
1966、北、92000を派遣。
1967、北、101000を派遣。
ハノイは元から、南ベトナム内に手勢を潜ませていた。1954後も、南ベトナム
政府転覆の為に、何千ものヴェトミンを南に停まらせたのだ。
彼らは、南ベトナム政府への抵抗組織として、「民族解放戦線」を組織した。
ヴェトミンを中核とするこの組織には、それを知らない理想主義的な若者、自立
に失敗した地方農民、サイゴンの知識人、ジェムの反共キャンペーンの犠牲者ま
でが合流した。
これは、共産主義者による共同戦線戦術のさらに定式化されたものだ。キュー
バ、ニカラグアでは、自然発生的な革命を共産主義者が横取りした。ここでは、
始めから、ヴェトミンによって革命戦線が組織されていた。
初期、北ベトナム、民族解放戦線を独立した運動のように装う事に尽力。
1959.1/、北ベトナム政府、正規の軍事力行使を決定。
5/、命令を下す。
7/、北のエージェント、サイゴンへの政治的、軍事的反抗を組織化。
1960.9/、北ベトナム政府、南ベトナム国内の「人民」に対し、「合衆国及び
ジェムに対する広範なる民族共同戦線に参加せよ」と公式声明。
1961.1/、民族解放戦線、サイゴンにて創設宣言。北ベトナム政府、この民族
解放戦線とは別の共産主義団体の設立を南に要求。
1962.12/、南ベトナム内に、人民解放軍と人民革命党が作られる。
当時、北ベトナム政府幹部は、マスコミの取材に答えて、北ベトナム共産党中
央委員会のメンバーの中に名前の秘されている者がいるのは、「彼らが南ベトナ
ムでの軍事作戦を指揮している為である」と発言。
南に潜伏するゲリラは、北からの補給がなければ長く戦えない事を自覚してい
た。1964まで、彼らは組織の強化に努め、軍事行動は小規模なものに停めた。
1964、主力兵士は１万から３万に拡大。補助要員は３万から８万に。しかし、
ライフルは24000しかなく、残る86000が丸腰。
民族解放戦線のメンバーは、ベトナム戦争後に登場し、すべてを語った。
1975.12/、民族解放戦線の指導者グエン・フー・トは、彼の組織はずっと、「党
の方針に忠実だった」と述べた。
民族解放戦線の創設者チュオン・ヌ・タン、「北ベトナムの共産主義者が、そ
の真のゴールの為に、故意に世間を欺いているのが我々にも判った」
アメリカの反戦運動家は、共産主義がベトナムの文化としっくり来るから、彼
らは勝利を勝ち取った。ゲリラの人道的政策が、村民の「心と精神」を勝ち取っ
たのだと語った。とんでもない。ベトナムの伝統文化は、個人の自由、信仰の自
由を重んじるものだ。
共産主義者は、希望ではなく憎しみを掻き立てる事によって改宗を勝ち取った。
有名な反戦作家でさえ、民族解放戦線の成功の秘訣は、「組織的に憎しみを増幅
したことである」と述べている。
南ベトナムはまだまだ、正義の確立と、汚職の防止という問題を抱えていた。
民族解放戦線は、これらの問題を解決するのではなく、悪化させる作戦を取った。
その命令、「憎しみの増幅は、永続的、継続的で、影のようにまとわりついて人
々を行動へと駆り立てるようでないといけない」
事態が好ましい方向に進んだだけでは、目的は達成されない。問題が解決され
る事はエージェントによると、「その記録に満足してしまい、大衆はさらに憎悪
を掻き立て続ける事に熱心でなく、ひいては革命は起きず、暴力的でもなくなる」
暴力は、民族解放戦線のもうひとつの武器だった。政府、正規軍に対してのみ
ならず、市民に対しても組織的攻撃を行った。その目的は、有能な役人を殺す事
で政府を弱体化させ、社会の不安定化と危険を促進する事である。
ロン・アンでは、息子を南ベトナム軍から離脱させろとの説得に応じなかった
男が、背中から撃たれた。
1967、カイ・ベ村では、共産軍は地元民兵の妻や子供らを４０人も殺した。
1967、ダク・ソンでは火炎放射器で村の家屋をひとつずつ焼き、252人もの市
民を虐殺した。うち2/3は女と子供。
彼らは、村人が市場に通う為に使うような道路にも地雷を埋め、人々で賑わう
広場や寺院、学校に手榴弾を投げ込み、サイゴン、ダナンなどの主要都市に122
ミリロケット砲を無差別に打ち込んだ。これら無差別テロで、毎年何千もの市民
が死んだ。
アメリカ兵のたまの間違いは、マスコミの憤激を呼んだ。
1969.12/、昨年のミ・ライでの民間人175人の犠牲が明らかになると、その報
道は何週間も一面で取り上げられた。しかし、共産軍の残虐行為は、あまりに日
常的で、注意を引かなかった。
アメリカは、民間の犠牲を最小にしようと努力した。北ベトナムは、それを戦
略の中心に据えた。故意に民間人を殺した米兵は有罪判決を受けたが、共産ゲリ
ラは同じ事をして称賛された。
民族解放戦線は、反共指導者や、真の民族主義者に対して、組織的な暗殺や誘
拐を行った。北ベトナム治安省秘密警察が、南ベトナムで活動を行っていた。
1957-1973間で、彼らは36725人の南ベトナム国民を暗殺し、58499人を誘拐し
た。誘拐された者は、洗脳されて敵軍兵士となるか、さもなくば殺された。
民族解放戦線「死の部隊」は、村長レベルに力を注いだ。腐敗した者と公正な
者とをより分けた。脱走者の証言、「共産主義者は、政府を非難しながら、腐敗
した村長は支援し、励ました。正直な村長は、抹殺された」
暗殺リストには、医師、教師、農業改良家などが、その思想の有無を問わずに
記載されていた。教師についての脱走者の証言、「彼らは政治についての知識が
あり、愛国者で、反共運動を指導する力量がある。よって危険で、裏切り者と分
類された」
共産軍が、サイゴン寄りの村を制圧した事があった。ゲリラは、村民をみな外
へ並べた。皆が見守る中、ゲリラは村長の妻の腹を裂き、子供たちの手足を切断
した。そして、村長を去勢した。この処刑を見た後では、誰もサイゴンに協力し
ようとは思わなかった。
1966.2/、ビン・ディン省の海辺の村での事件。サイゴン政府の女性が、アメ
リカ軍の接近を村人に知らせた。共産ゲリラは彼女を椰子の樹に縛り、村人を集
めた。リーダーは山刀で彼女の腹を二度も切りつけた。下腹はずたずたで、内臓
はこぼれて地に落ちた。「人民の裏切り者には死を」と書いた紙を傷口に刺し、
彼女は死ぬまで放置された。
ケネディ側近たちの致命的な欠点
ホーは手品師の技術を持っていた。手品師の早業の基本は、我々の注意を他へ
そらす事である。ホーもまた、我々の注意を他へそらした。
1960年代、共産圏、革命的戦争という戦略。
毛沢東、カストロ、革命により政権を奪取。
1961.1/、フルシチョフ、「民族解放の為の戦争」を支援すると宣言。ソビエ
トは国境を越えて攻め込むのではなく、目標となった国の共産主義勢力に軍事援
助を行い、内部から国を転覆させる道を選んだ。
ケネディ大統領も、これを理解していた。彼は、側近に、次の戦争は対革命戦
争になると語った。しかし、民主党のブレーンは、ケネディに対しても、ジョン
ソンに対しても、南ベトナム国内の革命運動を鎮圧するまでは、北は攻撃しない
ようにと進言した。
これにより、ケネディの側近は、世間知らずで、判断力がない事を満天下に示
した。
ゲリラ戦とは、奇襲攻撃を用いたり、敵の補給路を断ったりする事をさす。革
命的戦争とは、不平分子を煽って、人民の蜂起を引き起こし、体制の転覆を狙う
ものだ。
ベトナム戦争とは、まだまだ革命的とは言えず、ゲリラ戦の形をとった北ベト
ナムによる侵略戦争であった。
キューバにおけるＣＩＡの失敗がもたらしたもの
1961.4/19、ＣＩＡによって訓練された反共キューバ人師団が、ピッグズ湾に
上陸。三日の戦闘の後、投降。これは、空からの援護がなかった為。
もしラオスが共産主義者の手に落ちたならば……
ロバート・ケネディ司法長官とマックスウェル・テイラー将軍による調査の結
果、ＣＩＡは単独で軍事行動を起こす力はなく、ペンタゴンが代わるべきだとい
うもの。
ベトナムにも、このやり方が適応された。我が軍は、武器を送ったり、、後方
支援体制を整えたり、という活動に終始した。ベトナムで求められたのこそ、Ｃ
ＩＡによる政治的に洗練された、綿密な調査能力だった。
ラオスでは、三つ巴の内戦が戦われていた。共産主義パテト・ラオは北東二州
を制圧、中立派は中央平野に位置し、右派は南部メコン川沿いを占拠。戦闘は、
それほど激しくなかった。
ベトナムは南北に細く、非武装の国境を避けて、北から南に武器や兵士を送る
には、ラオスを通るのが最適だった。また、カンボジアへは、ラオスを通らねば
行けなかった。
1959.5/、ハノイ政府、グループ５５９を結成。これは、ラオス国内に南北ル
ートを築き、南ベトナムの革命の為の武器、人員の送付を組織化すること。
1959.9/、ハノイ政府、グループ９５９を結成。これは、ラオス共産党パテト・
ラオを支援する為の武器、人員の補給路。
〜1960.12/、北ベトナム、ラオス国内に7000の兵士を駐留。
アイゼンハワーは、ラオスを東南アジアの重要なドミノだと認識していた。
1961、ケネディにもラオス防衛を強く訴えた。
1961.3/23、ケネディ大統領、ラオス中立を支持。ラオスの中立独立が失われ
れば、東南アジア全体が危険に晒される。
ケネディ、ラオス中立軍と右派とに武器援助、700人の軍事顧問を送る。
その一ケ月後、ケネディ、ラオスから撤退。補佐官は、ラオスは地形が厳しく、
国民的つながりもない。また、ここを刺激すると毛沢東の介入を招くと進言した。
1961.4/20、ケネディ・ニクソン会談。ラオス支援には超党派の支持が得られ
ると保証するニクソンに対して、ケネディ、僅か90マイル離れたキューバに対し
て何も出来ないのに、数千マイル離れたラオスでは何も出来ないと語る。
ケネディ、ラオス中立化についてジュネーブで交渉するようアベレル・ハリマ
ンに支持。
1961.5/、ジュネーブ会議開始。北ベトナム、非妥協的な態度。ホー、アメリ
カはどうせラオスを見捨てると時間稼ぎ戦術。
十ケ月後、ケネディ、タイに海兵隊5000を派遣。さらに、沖縄を臨戦態勢。ジュ
ネーブ合意の成立。
ラオスの中立政府を承認、ラオスからの撤兵、軍事援助の中止。これに十五ケ
国が署名した。署名国はすべて、協定を尊守した。ただ一国、北ベトナムを除い
て。
ホーは7000人の兵士をラオスに駐留させたままだった。公式に記録された数字
では、ラオスから撤退した北ベトナム兵士は、40人だった。
世界はラオスを独立国と見ていたが、ホーはインドシナ全体を見ていた。彼が
ジュネーブ協定に署名したのは、諸外国を追い払うのが目的だった。
ホー・チ・ミン、南部ラオスを併合。南ベトナムからカンボジアにまたがる、
ホー・チ・ミン・ルートを完成させる。これを、単なる山道、ジャングルの間道
と思ってはならない。
北ベトナム公式戦史より、「十六年間にわたる作戦行動中、最初は二、三百人
が狭い道を荷車を引いた自転車で通っていたに過ぎなかったグループ５５９は、
輸送部隊、軍事技術者、歩兵、対空火器、給油部隊、通信部隊などを持ち、多く
の管区、連隊、野営地、作業場、駅などからなる、数万の人員と数千のトラック
を組織化した一大勢力へとなっていった。偉大なホー伯父の名を取った戦略ルー
トが築かれ、それは、ラオス国内のチュオン・ソン山脈を横切り、戦場を結び、
地上の道とパイプラインと川の航路との、ほぼ完全なネットワークとなった」
1970迄、北ベトナム、ラオスに七万の兵士を駐留。五十万の兵士を移動。1962
ジュネーブ協定は、北ベトナム勝利への道を整備したようなもの。
北ベトナムの協定違反に対するアメリカの反応は、鈍かった。
ケネディ、ジョンソン政権下でのラオスでの隠密作戦は、「隠された戦争」と
してすっぱ抜かれた。それでも、我々の行動は限定されており、北ベトナムのラ
オスでの活動とは比較にならなかった。
1964、駐在サイゴン大使ヘンリキャボット・ロッジの嘆き。米軍をラオス、カ
ンボジアへ送り、ホー・チ・ミン・ルートを破壊する案を、政府が反対する。政
府高官は、介入は戦争を拡大すると反対した。しかし、北ベトナムが、ラオスと
カンボジアを纂奪して戦争を拡大しているのは明白だった。
ハノイによるジュネーブ協定違反を黙認した事が、ベトナム戦争を拡大した。
ラオスやカンボジアを足掛かりとせず、40マイルの、あの狭い前線だけで戦われ
たなら、南ベトナムはアメリカの援助なしでも容易に防衛できた筈だ。白紙同然
となった協定への我々の尊守の為に、サイゴンの防衛線は、40マイルから640マ
イルへと延びたのだ。
我々はラオスを、二次的に扱っていた。しかし、南ベトナム攻撃の為の、その
人員と兵器は、ラオス経由で届いたのだ。
ジェム大統領暗殺の支援という恥ずべき行為
第三の致命的な誤りはこれ。
仏教徒の危機事件
1963、ジェム政権に不満を募らせたケネディ政権は、ジェムに対する軍事クー
デターを、密かに支援したのだ。
第三世界の指導者は、敵を作る事も多い。ジェムも例外ではなかった。また、
1960のクーデター未遂以来、軍や政府の高官を信用せず、要職を身内で固めるよ
うにもなった。さらに、誇り高き民族主義者であるジェムは、アメリカ人顧問の
意見を拒否する事も多かった。彼に取っては、フランスもアメリカも、大差はな
かったのだ。
ケネディと側近たちは、ジェムに対する不満を募らせた。1960年代、北ベトナ
ムによる内部攻撃、暗殺、誘拐、テロが急増していたのに、真の問題はジェム政
権にあるのではと疑っていた。
そんな時、仏教徒の危機事件が起こった。
1963.5/、ダナンでの公式祝賀行事。カトリック教徒がベトナムの旗よりもバ
チカンの旗を振った事から、自身カトリックであるジェムは、国旗を宗教的な旗
よりも下に置く事を禁止する法律を出した。
これは、公式行事での礼を定めたもので、個人や家庭の信仰には何の影響力も
なかった。
その二ケ月後には、仏陀の誕生日が迫っていた。国中で、祝賀行事が予定され
ていた。ジェムは、仏教徒を配慮して、法律の施行を延期した。
施行延期の指示が地方に届くのは遅かった。ユエ地方警察は、国旗よりも上に
掲げられた仏教徒の旗を引きずり降ろした。チク・チ・クァンは政治的な僧侶で、
つね日頃、カトリック大統領の荒探しに躍起になっていたが、ここぞとばかりに
反政府演説をぶった。
ユエ仏教徒の異議表明。チ・クァン、反ジェム演説をラジオで放送するよう局
に依頼。その時、ラジオ局の外で爆弾が破裂、チ・クァンの随行団のうち８名が
死亡。チ・クァンは、政府軍がアメリカ製の手榴弾を投げたと非難した。しかし、
国連の調査委員会は、爆弾は手榴弾ではなく、民族解放戦線が好むプラスチック
爆弾であると検証した。それでも、仏教徒の抗議はエスカレートした。
1963.6/11、ひとりの僧侶、ジェム政権に抗議し、ガソリンを被って焼身自殺。
翌日、合掌しつつ炎の中で倒れる僧侶の写真が、アメリカの新聞の第一面を飾る。
この焼身自殺は、慎重に企画され、アメリカのマスコミ向けに上演された儀式
だった。指導者は、自殺を前もって報道陣に知らせ、僧侶が書いた反政府ピラさ
え配布した。そういった背景は、何も報じられなかった。写真だけ、映像だけが
一人歩きした。多くのアメリカ人の心に、「宗教弾圧」の言葉が刻み込まれた。
サイゴンには、反ジェムのアメリカ人新聞記者のグループがいた。チ・クァン
は、彼らを同盟者、宣伝者として扱い、頻繁に連絡を取った。彼らは、ジェムを、
仏教弾圧をフランス植民地主義者から引き継いだかのように報道した。
宗教の抑圧は、まったくの作り事だった。ジェムは、高官の登用にあたり、そ
の宗教を問わなかった。ジェム政権の１８名の閣僚のうち、カトリックは５人、
儒教が５人、残り８人は仏教徒だった。仏教徒閣僚は、副大統領、外相といった
要職まで占めていた。
さらに、ジェムが任命した３８人の知事のうち、１２人がカトリック、２６人
が儒教、もしくは仏教だった。１９人の将軍のうち、３人がカトリック、１６人
が道教、儒教、仏教だった。ジェムは仏教徒に対して、兵役免除さえ許した。こ
れは、仏教徒だけの特権だった。ジェムはそれまで、仏教徒を逮捕した事はない
し、宗教的な抑圧を行った事はなかった。
ここで活躍した僧侶は、もともと政治的な目的で剃髪し、僧侶の衣裳を身に付
けた者たちだ。チ・クァンに代表されるサイゴンのサ・ロイ寺院は、とても信仰
の場とは思えない所だ。そこでは、印刷機が始終ビラを吐き出していた。幹部は、
いつもデモンストレーションを怒鳴り立てていた。印刷された旗を持って、伝令
が走り回った。ジャーナリストやカメラマンが周囲を囲み、次はどこで焼身自殺
があるのか聞こうとしていた。サ・ロイ寺院を覗いたものは、そこは礼拝所では
なく、ジェム政権打倒の為の政治運動本部と見ただろう。
国連による調査の間に、焼身自殺できなかった二人の若い僧が、いかにしてチ・
クァンにスカウトされたかを証言した。二人とも事前に、ジェム政権が寺院を焼
き打ちしたり、僧侶を拷問にかけるという話を聞かされていた。スカウトは、「サ
・ロイ仏教徒協会は共産主義の為に働いており、十人の焼身自殺志願者が必要だ」
と語った。彼は、「自殺広報グループが、すべての手配を整える」とも話した。
もう一人は遠い田舎の出で、ジェム政権がサイゴンの寺院を焼き打ちしたと聞
いて志願した。サイゴンでは、彼は自殺の場所まで、どこの寺院にも当たらない
よう慎重に定められた道順で歩いた。しかし、ある道が通行止めになっていたの
で、迂回した。彼は寺院につき当たり、そこでは、信徒が平和に礼拝していた。
彼は、警察に自首した。
世界を欺すために、チ・クァンは、自らの政治目的の犠牲となる者たちを欺し
たのだ。ジェムが要求を受け入れた後も、チ・クァンは危機を存続させる為に非
合理な要求を出し続けた。彼は妥協など眼中になく、対決だけを求めた。
チ・クァンは、その素性を隠しはしなかった。彼はヴェトミン協力者として、
フランスに二度逮捕されていた。1945以降、彼はホー支援の為の共産主義地下組
織以外の何者でもない仏教徒組織をいくつも作ってきた事も認めた。その師匠の
チク・チ・ドは、北ベトナム国内の共産主義者がとりしきる仏教界のリーダーで
あり、仏教と共産主義は矛盾しないと広言していた。
若い僧を自殺に追いやるやり方は倫理的かと問う記者に対して、チ・クァンは
こう答えた。「革命では、いろんな事をしなければならない」
僧侶の焼身自殺は、アメリカおよびヨーロッパで凄まじい怒りの嵐を引き起こ
した。自殺は、仏教徒の皮を被った共産ゲリラの政治行動であるのに、マスコミ
は、あたかも南ベトナムの国民の総意であるかのように報道した。世界の非難は
ジェムに集中した。
ゴー・ジェン・ジェムは独身で、その弟ゴー・ジェン・ヌーが実質上、王朝を
築いていた。その妻マダム・ヌーは、インタビューに答え、僧侶の焼身自殺につ
いて、「人間バーベキューに過ぎない」と毒づいた。マダム・ヌーは当時最新流
行のピエール・カルダンの衣裳を身にまとい、フランス社交界に出入りしていた。
欧米マスコミは彼女を指して、かつての西太后になぞらえ、「ドラゴン・レディ」
と報道した。
1963.8/、ケネディ政権、ジェムを見捨てる決意。その理由は、国内世論の圧
力。
8/21、ジェム、共産ゲリラ系寺院の捜査。全4776ある中で、12の寺院が対象。
槍、剣、銃、プラスチック爆弾、証拠文書を押収。死者はおろか、怪我人も出な
い捜査。しかし、世界は、これをさらなる宗教弾圧と見た。
ケネディ政権は、フレデリック・ノルティング大使からの調査報告よりも、反
ジェムのマスコミ報道の方に頼るようになっていた。
ジョンソン副大統領、マッコーンＣＩＡ長官、テイラー将軍は、ジェムを擁護
した。しかし、ケネディ政権は一枚岩ではなかった。
8/24、アベレル・ハリマン、ヒルズマン、国務長官ディーン・ラスク、国務次
官ジョージ・ポール、連名で電報。宛て先は、サイゴン新任大使ヘンリー・キャ
ボット・ロッジ。内容は、現状は容認しがたく、ジェムはその弟にして主席補佐
官のゴー・ジェン・ヌーを解任するよう求めるもの。
ジェムがヌーを解任する訳がない。ロッジはこれを、ジェムに対するクーデタ
ーを準備せよという司令と受け取った。ロッジの指揮の下、サイゴン駐留ＣＩＡ
は、南ベトナム軍の将軍とクーデターを計画。このクーデターは、アメリカ側か
ら呼び掛けたもの。
8/29、ケネディ大統領、国家安全保障会議に対して、クーデター支持を表明。
ロッジの電報、「もう後には戻れない、我々の方が鍵を握っている」 ラスク、
「クーデター成功の可能性を高める」よう指示。
ケネディ政権、ジェムと絶縁。アメリカ代表団、ジェムと会見せず。チ・クァ
ン、アメリカ大使館への政治亡命を許可される。ホワイトハウス、南ベトナムへ
の経済援助を中止。ケネディ、南ベトナムは政策の変更が必要で、メンバーの変
更も歓迎と発言。
1963.11/1、チャン・ヴァン・ドン将軍、ならびに、ズオン・ヴァン・ミン将
軍、ジェム大統領官邸を包囲。ロッジ、将軍らの身の安全の保障によって、ジェ
ム、ヌー、投降。投降後、将軍たちは、アメリカの兵員輸送車の陰で、ふたりを
射殺した。
ケネディは、ジェムは国民から遊離していたと語った。しかし、遊離していた
のは彼の方であった。後にミン将軍はこう語っている。「ジェムは生かしておく
訳にはいかなかった。彼は農村、カトリック、難民から絶大な尊敬を受けていた」
リーダーシップの混乱による南ベトナムの危機
ケネディ政権内部のクーデター推進派が悟らねばならない事は、いまや痛々し
いほど明白だった。南ベトナムにおいて許された選択は、ジェムかもっとましな
者か、ではなく、ジェムかもっとひどい者か、だったのである。
首謀者は、リーダーとして不適格だった。政府転覆はできても、運営はできな
かった。二年にわたり、大統領官邸のドアは、くるくると回り続けた。
政権交替は十度に及んだが、軍司令官の交替はさらに頻繁に起こった。陰謀、
クーデターが、サイゴン政府の日課となった。南ベトナムは、ジェムを殺したの
みならず、国家機構も崩壊させてしまった。
立派な指導者が現れるには、二年の歳月が必要であった。彼の名は、グエン・
ヴァン・チュー将軍といった。
逆に、ハノイの士気は上がった。頑強な反共主義者ジェムが、勝手に排除され
たのだ。民族解放戦線のグエン・フー・トはこう語った。「アメリカは、我々が
九年かかって出来なかった事をやってくれた」 さらに彼は、クーデターについ
て、「天からの贈り物」だと評した。
ホーはこのチャンスを逃さなかった。すかさず、北ベトナム正規軍を南へ送り
込んだ。
ジェム暗殺の三週間後、ケネディ大統領が暗殺された。ジョンソンは後に、ク
ーデターに連座した事は、アメリカがベトナムで犯した最大の誤りだったと述べ
ている。彼は後任大統領として、失った破片を拾い集めねばならなかった。
トンキン湾事件と、その真実
1963、ケネディ政権、ベトナム駐留顧問団を16000へ増員。彼らは、軍事顧問
以上の存在だった。南ベトナム軍の戦闘に参加し、撃たれたら撃ち返せと指示さ
れていた。1963末には、米軍にも612人の死傷者が出ていた。
戦争の主役は、南ベトナムから合衆国へ
1964、ジョンソン政権、ラオス国内でのホー・チ・ミン・ルートに対する限定
爆撃、7000人の顧問団増員。
1964.8/2、トンキン湾をパトロール中の駆逐艦マドックス、北ベトナムの魚雷
艇三隻から攻撃される。被害は少ないので、ジョンソン大統領は報復を禁じた。
さらに、アメリカ艦船に対して、南ベトナム海軍から距離を置くように指示。
当時、南ベトナム海軍は、北ベトナム沿岸に小規模な攻撃をしかけていた。し
かし、マドックスは、そこから120マイルも離れた所にいた。それでも攻撃され
たので、さらに後退するようにとの命令。
8/4、北ベトナム海軍、駆逐艦マドックス、Ｃ・ターナー・ジョイに対して、
魚雷と銃器による攻撃。ジョンソン、報復として北ベトナム領内を限定空襲。
後年、反戦ジャーナリストは、8/4事件は、参戦の為のでっち上げだと非難し
た。しかし、北ベトナムの公式戦史にも、この事実は記載されている。監査主任
責任者トーマス・ムーラー提督は、マドックスから摘出された北ベトナムの銃弾
は、私には本物に見えると語った。
8/7、ジョンソン大統領、東南アジア決議、別名トンキン湾決議を議会へ送付。
これは、権限拡大ではなく、現状介入について議会の承認を得るもの。決議、「議
会は、大統領が合衆国軍への武力行為に報復し、それ以上の攻撃を阻止する為に
必要とした決定に対して、支持を与える」
トンキン湾事件の後では、議会は宣戦布告を承認する事は間違いなかった。し
かし、ジョンソンはそれさえしなかった。彼は、中国やソビエトの介入を恐れた。
さらに、この年は選挙の年でもあった。
トンキン湾決議、下院416vs0、上院88vs2、で決議。ここでは、広く同意が得
られた。後に反戦派となるフランク・チャーチ上院議員でさえ、「目的の為に、
我々全員が一体となるべき時である」と語った。
1966.3/、地上攻撃の拡大につき、ウェイン・モース上院議員の抗議。モース
修正案は、92vs5で否決された。
1965.7/、この時こそ、蟻地獄へ向けて運命的な一歩を踏み出した日。ジョン
ソンはグレート・ソサエティ計画に夢中だったし、トンキン湾決議の拡大解釈も
しなかった。しかし、北がそれを許さなかった。
1965、夏、北ベトナム大攻勢。
1965.7/21、マクナマラ国防長官、国家安全保障会議にて、戦況悪化を報告。
十月までに十万、来年には十万の増員が必要。
これには、80億＄の予算が必要だった。議会では、市民権法案と、高齢者医療
保険法案の審議が大詰めを迎えていた。さらに26の法案が下院を通過し、11の法
案が審議待ちだった。
ジョンソン談、「私が戦争というあばずれ女に引っ掛かり、本当に愛するグレ
ート・ソサエティという女性を放って置けば、私はすべてを失うだろう」
しかし、ここで南ベトナムを失えば、グレート・ソサエティ計画は、単にアメ
リカのエゴイズムを証明するに停まる。
ジョンソンはグレート・ソサエティ計画を失いたくなかった。よって彼は、勝
利を目指してではなく、負けない為に戦うようになる。
ジョンソンは、戦争を隠すようにした。わざと、それは小さい戦争、局地戦だ
と見せようとした。彼は兵員の増強を、午後の記者会見の冒頭の短い時間で述べ
た。彼は戦争遂行への計画を、国民への演説の中で述べなかった。
しかし、大統領は、国民を戦争に取り組ませる事なしに、軍隊を戦場に送って
はならない。ジョンソンの隠蔽政策によって、アメリカの軍隊は国民から切り離
されたのだ。
崩壊寸前のサイゴン政府に対し、まず何をすべきか
戦争は、南ベトナム国内でのゲリラ戦の形を取っていた。また、ラオス、カン
ボジア経由の侵略を阻止せねばならない。第三に、南ベトナム軍の強化が課題だっ
た。
テト攻勢がアメリカ国民に与えたショック
民主主義は、長期戦や局地限定戦には向いていない。民主大国では、勝利か、
不戦か、どちらかしかない。しかし、オール・オア・ナッシングという全面戦争
は、むしろ珍しい。米西戦争、ｗｗ１、朝鮮戦争、すべて休戦を受け入れている。
ベトナムに置いては、目標設定と状況認識がなっていなかった。目標は南ベト
ナムを守る事であり、状況認識は、次の五つの現実を踏まえる事である。
一、紛争地域は、インドシナ全土に及んでいた。ラオス、カンボジアも同じ程
度に戦火に巻き込まれていた。
二、敵は北ベトナムであった。北ベトナムの援助なしに、人民解放戦線は戦力
を維持できただろうか。答えは、ノーだ。これが内戦であるなら、我々の介入は
間違っている。しかし、すべての証拠が北ベトナムの侵略を示していた。
三、我々はゲリラ戦と、北ベトナムとの正面戦争と、両方を遂行すべきだった。
四、対ゲリラ戦は、村の取り合いだった。国民の大多数は反ハノイだった。し
かし、我々が報復に対する保護を与えられない限り、国民がそれを貫く事は不可
能だった。我々が必要としたのは、南ベトナムの政府機能を強化する事だった。
五、1961にアイゼンハワーが指摘したように、ラオスが勝利の鍵だった。我々
はメコン川まで進軍して、敵の軍事的要衝を押さえるべきだった。しかし、我々
はそうしなかった。保障なきジュネーブ協定の一方的な履行、中国介入へのいわ
れなき恐怖、これらが相まって、戦闘を南ベトナム国内に停まらせた。
ゲリラ戦を鎮圧するのは困難であり、不可能である。しかし、ゲリラ戦で勝利
を納めた者は少ない。ｗｗ２後、ギリシア、タイ、フィリピン、マレーシアでは、
対ゲリラ鎮圧に成功している。
共産主義ゲリラは、農民の不満を煽る事によって政府への敵意を掻き立てた。
それがうまく行かない時は、暴力テロの手法を取った。
日中は、サイゴン政府のパトロール隊が村を回った。しかし、夜になると、ゲ
リラ部隊が村を支配した。共産軍士官が戸口に現れ、米を10ポンド出せとか、息
子をひとり兵士として提供しろとか無体な要求をしても、普通の農民はまず拒否
できなかった。
米軍が敵部隊を正面攻撃しても、ゲリラの農村支配は揺るがなかった。彼らの
地下組織はまるごと残された。
イギリス軍がマレーシアを軍事的に解決しようとした時、情報将官サー・ロバ
ート・トンプソンはこう述べた。「爆撃機や火力を用いるのも良い。だが、それ
では、毎年５０人の新兵を戦場に送る、高校内部の共産主義細胞因子を根絶する
事はできない」
補給ルートを遮断しないままでの、対ゲリラ戦は失敗した。敵はいくらでも、
ラオスやカンボジアの聖域へ逃げる事ができた。
1965.1/〜1967.12/、共産側の損失は、344000人に昇った。この膨大な損失に
関わらず、南ベトナム内の共産勢力は、1964.12/〜1967.12/にかけて、181000か
ら262000に増えていた。北ベトナムからの増援と、南ベトナムでの徴発は、40万
人に達していた。人口統計は、この比率の維持が可能である事を示していた。北
ベトナムでは、毎年12万人の若者が徴兵年齢に達していた。
1965-68、ジョンソン政権は北爆を行った。しかし、規模は小さいものから大
きいものへと移って行った。また、爆撃箇所は、限定されていた。中国やソビエ
トの介入を恐れた漸増政策は、馬鹿げていた。敵に、消耗への免疫を付けさせる
だけだった。アイゼンハワーは語った。「敵一個大隊が占領する丘なら、二個大
隊あれば奪取できる。しかし、一個師団あれば、戦わずに奪取できる」
ジョンソンは、北ベトナムへの補給物資の85％が着くハイフォン港を攻撃しな
かったが、それは、そこに中国籍、ソビエト籍の船舶が停泊している為であった。
テト攻勢は、南ベトナム軍とアメリカ軍との隙を突いた、北ベトナムの一時的
な攻撃だった。アメリカ軍は即座に敵を粉砕したし、北ベトナム軍にとっては敗
北に終わった。しかし、緒戦を大袈裟に伝えたマスコミ報道は、これを北ベトナ
ムのメディア操作の大勝利にしてしまった。
1968.1/31、ベトナム暦正月（＝テト）に北の攻勢が始まった。それは、南北
合意の休戦期間だった。ウェストモァランド将軍は、敵の攻撃準備を警告してい
た。しかし、南ベトナム軍は半分が休暇中だった。
７万の兵士が、南ベトナム内の百の市街に攻撃を仕掛けた。サイゴンには4000
の兵士が侵入して、市街戦になった。緒戦では共産側が勝利を納めたが、アメリ
カ＆南ベトナム軍は一週間で敵の拠点を破壊し、一ケ月で国境へ追いやった。銘
記すべきは、どの攻撃でも、ホーが期待したような人民の蜂起は起こらなかった
事だ。
テト攻勢は、北ベトナム軍にとっては敗北に終わった。北ベトナム軍はその最
良の部隊を失った。北ベトナムの公式記録さえ、兵士が指揮官に対して、「信頼
を失い」「勝利に対して懐疑的」となり、「逃げ腰」になったと記している。
民族解放戦線も、ここで粉砕された。勝利を確信したホーは、南に潜んでいた
スパイ、ゲリラ、テロリストに、偽りの身分を捨て、正体を現して戦う事を命じ
た。攻勢が終わると、生存者は見つけ出されて逮捕された。南ベトナム警察は、
テト攻勢のお陰で地下組織を根絶する事ができた。
ホー・チ・ミンは人民戦争に負けた。共産ゲリラは、都市住民にとっては遠い
存在であった。しかし、市街戦のショックと、共産ゲリラへの恐怖から、南ベト
ナム国民は立ち上がった。ホーの期待した人民蜂起とは逆に、テト攻勢は南ベト
ナム国民の総意を産んだ。
にもかかわらず、世界中のマスコミ報道は、我々が敗北を被ったと伝えた。緒
戦の数時間の映像が、いつまでも世界に流された。一ケ月たって、敵が掃討され
ても、それは変わらなかった。ある記者は、我々は戦争に「負けつつある」と断
言した。
彼らは、アメリカが戦争に負けるのが嬉しいかのようだった。そう願っている
ように見えた。
緒戦で、アメリカ大使館も攻撃を受けた。あるテレビ局はそれを、「２０人の
決死隊が、大使館の一階を占拠している」と伝えた。そんな事実はない。彼らは
大使館の塀に穴を開け、中へ侵入しようと計ったが、護衛に射殺された。
ケサンでの戦いは九週間に及んだ。マスコミは6000の兵士が守る米軍基地の包
囲戦を、ディエン・ビエン・フーの再現であるかのように報道した。事実よりも、
事実を枠の中にねじ曲げて伝えた。
テト攻勢で、北ベトナムは四万の兵士を送り、一万の兵士を失った。これはベ
トナム戦争中、敵にとって最も損害の多かった戦闘である。それが、今もなお、
敵の大勝利のように伝えられている。
許し難いのは、ユエの大虐殺に対するマスコミの黙殺である。
共産軍はユエに入る五ケ月も前に、「血の粛清リスト」を用意していた。そこ
には、警察官、役人など、人民解放戦線の政敵とされる人々の名前が書かれてお
り、ユエに入るや否や、リストに載った200名が殺害された。のみならず、サイ
ゴン政府と少しでも関わりがあると見られた者は殺された。パートタイムの門番
は二人の子供と一緒に殺された。妹が役人だった煙草屋の店主も殺された。犠牲
者は墓穴を掘らされてから射殺された。
しかし、ユエの大虐殺については、六つの記事が七つの新聞に載ったに過ぎな
い。テレビネットワークは、何ひとつ報じなかった。新聞では、大きな墓穴が見
つかり、200から400の遺体が埋まっていると伝えた。翌日、翌々日と墓穴が見つ
かったが、もう報道される事はなかった。犠牲者の数は、2810が確認され、1946
が行方不明である。
ユエを占領した25日間に、共産軍は町の人口の５％から10％の人を殺した事に
なる。マスコミはそれを闇に葬ったのである。
テト攻勢は、現地ベトナムではアメリカ軍の勝利だったが、アメリカ国内では
北ベトナムの大勝利にすり変わった。
テト攻勢の前後で、アメリカの戦争悲観論者は、８％から23％にはね上がった。
ジョンソンの側近中、かつては全員が介入支持だったのに、１１人中６人が離脱
を求めた。3/31、ジョンソンは再選を望まないと声明を出した。
ジョンソンの補佐官は、北ベトナムは交渉によって戦争を集結させる事を望ん
でいるとアドバイスした。
1968.3/31、ジョンソン政権、北ベトナム領内への爆撃を停止するという宣言。
しかし、これに「お返し」する事はホー・チ・ミン流ではなかった。
アベレル・ハリマン、サイラス・ヴァンスによる五ケ月に及ぶ交渉。北爆停止
の四つの条件。一、和平交渉の開始。二、兵士輸送の停止。三、南ベトナムへの
攻撃の停止。四、アメリカの偵察機の領空侵犯の承認。ハノイ側、これを拒否。
10/31、ジョンソン大統領、北爆の停止と交渉開始の宣言。ハノイ政府、数週
間で上の四つの条件をすべて蹂躙。
第四章 いかにして我々は戦いに勝ったか
ベトナムでの、つかの間の勝利
テト攻勢は、ジョンソンを引退に追い込んだものの、国内の地下組織は一掃さ
れ、南ベトナム国民は立ち上がった。しかし、議会は急速に反戦に傾いた。
1969.1/20、ニクソン、大統領に就任。
トルーマンは、植民地主義を憎んだ。ベトナムの独立を認めないと共産化され
るという事も見抜いていた。しかし、ヨーロッパでフランスの同盟が必要な為に、
インドシナではフランスに援助した。
アイゼンハワーは、ベトナムの戦略上の重要さを理解していた。しかし、軍人
としてアジアに地上軍を投入する事を嫌った。超党派の支持が得られた時のみ、
介入するという姿勢を崩さなかった。
ケネディは就任演説で、どんな友邦をも助け、どんな敵とも戦うと語った。
1961.3/の会見でも、ラオス防衛での戦略的価値を語った。言葉とは裏腹に、行
動では尻込みした。ピッグズ湾の失敗で、熱意は急速に冷めた。側近の誤った判
断から、反ジェム・クーデターを容認し、南ベトナムに混乱を招いた。
ジョンソンは五年間で、アメリカ軍派遣団を16000から55万に拡大した。しか
し、戦争遂行の為の権限を与えなかった。本人が認めたように、北爆の停止は間
違いだった。
立場は違えど、四人の大統領はともに、共産政権がベトナムにとって悲劇とな
り、東南アジアの脅威となるという点では一致していた。
ニクソン、ハンフリーとも、選挙運動中から反戦運動に悩まされた。何千人も
の反戦デモが、選挙運動に付きまとった。ハンフリーも十月に北爆停止を公約す
るまで、同様だった。
大統領就任式当日でさえ、ヴェトコンの旗を振った数百人のデモ隊がパレード
に混じっていた。窓を閉めたリムジンの中にまで、抗議の歌が聞こえた。
「ホー、ホー、ホー・チ・ミン！ ＮＬＦに勝利を！」
キッシンジャーと共に、就任前からベトナム政策の再検討を
私は国家安全保障担当補佐官にヘンリー・キッシンジャーを選んだ。彼は様々
な選択肢を提示した。
世論調査では、国民の大多数が軍事的勝利を望んでいた。しかし、圧倒的勝利
は、潅漑用堤防の破壊か、核兵器の使用しかなかった。どちらも、民間の犠牲が
数十万も予想された。残された道は、通常戦争の大規模拡大しかなかった。これ
も、死傷者の増加が世論を軟化させる事は明白だった。
米軍の即時撤兵を勧める声もあった。16000を送ったケネディや、それを55万
まで拡大したジョンソンを非難しろと言うのだ。その場合、南ベトナムが共産政
権に呑まれるのは目に見えていた。
平和を勝ち取る為の、五つの戦略
一、ベトナム化。1965以来の援助により、南ベトナム軍はアメリカを頼るよう
になった。そこで我々は、南ベトナム軍自身の強化を計った。
冷然とはねつけられた和平提案
二、平定化。テト攻勢を破り、民族解放戦線を斥けた事によって、地方に政治
的空白が生まれた。農村、地方の秩序を回復し、信頼を得る事。
三、外交的孤立化。北ベトナムの兵器は、すべて中国かソビエトから来ていた。
我々はベトナム和平と、より以上の目的を持って中ソとの対話に近付いた。
四、和平交渉。パリ和平交渉も、希望がない訳ではなかった。しかし、ハノイ
側は交渉を撹乱し、条約を守らない。私は、戦争捕虜の返還と、南ベトナム国民
の自決権は最低限の条件だと定めた。
五、段階的撤兵。南ベトナム軍の自立、和平交渉の進展を見ながらの、段階的
撤兵。
1969.2/、パリ交渉の最中、北ベトナム軍の南侵。米兵の死者、一週目、453人。
二週目、336人。三週目、351人。南ベトナム兵士の死者は週500人以上。また、
北ベトナム軍は、サイゴンに無差別ロケット砲攻撃を行う。
1968の北爆停止は交換条件のないものだったが、これは礼節に反し、我々の抑
止を踏みにじる行為である。
北爆再開が求められたが、それには国内世論をまとめる必要があった。
第二の選択肢は、カンボジア国内のルートを爆撃する事だった。1965以来、北
ベトナム軍はカンボジア領内に基地を建設していた。北ベトナムは、事実上これ
らの地域を併呑しており、地域住民は追い払っていた。さらに、基地には、カン
ボジアのシアヌークヴィル港経由で、中ソの補給物資が何千トンと備蓄されてい
た。
カンボジア領内のルート攻撃が決定された。これを秘密にしたのは、国内世論
を刺激しないのと、カンボジア元首ノロドム・シアヌークの面子を潰さない為で
ある。
シアヌークとニクソン
1953、ニクソン、プノンペン訪問。シアヌークの日和見な性格を見抜く。
シアヌーク、ホー・チ・ミンのルート建設を容認。
1965、シアヌーク、アメリカとの国交断絶。
1965以降、シアヌーク、国内の共産勢力を憂慮。
1968.1/、シアヌーク、ジョンソンの使者に対して、「我々は、カンボジアの
中にベトナム人がいるのを好みません。〜ヴェトコンをカンボジアから追い払っ
てほしいのです」
1969.3/、カンボジア領内ルート爆撃計画。シアヌークは爆撃を容認するだろ
う。しかし、公式の中立表明と、北ベトナムの報復を恐れる気持ちから、公然と
容認する事は不可能。秘密攻撃であれば、シアヌークも沈黙を守る。しかし、公
然と攻撃すれば、シアヌークも抗議せざるを得ない。
1969.3/18、カンボジア領内のルート、基地を空爆。大成功。目標の多くは弾
薬庫、燃料貯蔵庫であり、空爆は二次爆発を引き起こした。それは、通常の二次
爆発の五倍規模のもの。
我々は、公式抗議に備えて、声明まで用意していた。しかし、抗議はなかった。
ハノイは何年間も、カンボジアには自国兵士はいないと言い続けてきた為に抗議
のしようがなかったし。シアヌークも、期待通り、沈黙によって我々の爆撃を容
認した。（所感、カンボジア領内ルート攻撃につき、北ベトナムからも、カンボ
ジアからも抗議はなかったという事）
4/、5/、国境から５マイル内の施設に空爆。
1969.5/、秘密爆撃、マスコミによってすっぱ抜かれる。この時のシアヌーク
の表明。「Ｂ−５２による爆撃の事実は今回初めて知った。一軒の小屋も、一人
の農民も、何ひとつとして私は失っていないのだから、今まで私が何も知らなかっ
たのも無理はない。爆撃に遭遇した者は一人もいないのだ。〜カンボジア国民は
もとより、水牛一頭でも死ぬような事があれば、私はすぐに報告を受けるだろう。
しかし、今回の事は、カンボジア人の預かり知らぬところで起きた、アメリカと
ヴェトコンやヴェトミンの間の出来事である。カンボジア国民は誰も知らないの
だから、私に抗議のしようがあろうか？」
秘密爆撃が大統領の権限乱用であると言う者もいる。しかし、秘密裡だが、議
会も協議を受けた。上院軍事委員会委員長リチャード・ラッセル、同幹部議員ジョ
ン・ステニスは同意してくれた。
これは国際法にも違反していない。1907、ハーグ協定には次のように銘記され
ている。「中立国は、その領域が交戦国によって使用されるのを許さない義務が
ある。もし中立国に阻止の意志や能力がない場合には、他方の交戦国は適切なる
阻止行動を取る権利を有する」
1969.7/、シアヌーク、記者会見にて、ハノイは共産兵士をカンボジア領内に
送り込み、「事実上、北ベトナムの領土としている」と非難。
1969.8/、シアヌーク、ニクソンをカンボジアへ招聘。
1968.12/20、ニクソン、停戦合意の意志がある事を、ジャン・サントニーを通
してハノイに表明。ジャンは、北ベトナムの指導者とも交際がある人物。
1969.2/1、ニクソン、国家安全保障会議に対して、共産中国との和解について
の予備的検討を命じる。
4/14、キッシンジャー、アナトリー・ドブルイニン駐米ソビエト大使との会見
で、北ベトナムとの和平交渉ルートを提案。
5/14、ニクソン、テレビ演説。米軍、北ベトナム軍の相互撤兵、南ベトナムで
の国際的監視下での自由選挙。
ニクソン、交渉役のヘンリー・キャボット・ロッジには、できるだけ愛想良く
振る舞うよう指示。
6/8、ニクソン、南ベトナムのチュー大統領とミッドウェイにて会談。チュー、
アメリカの和平案を歓迎。さらに、25000のアメリカ兵が撤収している事を発表。
これは、1961以来、始めての削減。
7/16、ニクソン、サントニーを通してホー・チ・ミンに手紙を発送。平和を訴
えるもの。
8/2、ニクソン、ルーマニアのニコライ・チャウシェスク大統領と会談。チャ
ウシェスク、ベトナム和平に尽力を表明。
8/25、ホー・チ・ミン、ニクソンに返書。和平提案の棄却、アメリカの一方的
撤兵と、チュー政権打倒を主張。
1969.9/3、ホー・チ・ミン、死去。後継者は柔軟ではないかと期待されたが、
北ベトナムの政策は不変であった。
一方、アメリカ国民の戦争遂行への支持は薄れていった。
10/、末、上院院内総務マイク・マンスフィールドからの助言。「ベトナム戦
争の継続は、わが国の将来を危うくする。〜もっとも深刻なのは、我々の社会に
もたらした深い亀裂である」 これは、民主党が始めた戦争を終わらせる事が最
善である、と主張しても彼は許してくれるという合図だ。逆に継続の場合は、こ
れはニクソンの戦争になる事を示唆していた。しかし、私は大統領として、国家
の名誉と合致する形での戦争集結を望んだ。
11/3、ニクソン、演説。その内容、ベトナムでの敗北が、南ベトナム、ならび
に世界に対してどのような意味を持つか。我々の介入は、侵略阻止という事で正
当化される。「中国とソビエトの支援を受けた北ベトナムは、革命を扇動して、
南ベトナムに共産政権を押し付ける為に作戦を開始した」 さらに私は、ベトナ
ムからの一方的撤兵は、世界にとって災厄そのものであると述べた。「我々がベ
トナムで屈服すれば、それは超大国首脳部の冒険心を刺激し、中東、ベルリンに
火花を散らすだろう」 さらに、私は現実に行った段階的撤兵について述べた。
若者が帰国し、ほっとした感情の中で、愛国心に訴えるのは場違いであろうが、
「平和や自由を守ろうとする世界の希望は、アメリカ国民がその道徳心にスタミ
ナを有するか否か、および自由世界のリーダーシップに対する挑戦を受けて立つ
勇気があるか否かによって、その実現が決せられるのである」
大統領演説に対して五万通の電報と三万通の手紙が
演説直後から、ホワイトハウスの電話は鳴りっ放しになった。五万通の電報と
三万通の手紙が溢れたが、批判的なものはほとんど無かった。ギャロップ調査で
は、国民の77％が演説を支持していると示した。
北ベトナム軍による、カンボジア攻撃
11/12までに、下院300人、うち民主党119人、共和党181人が、ニクソンのベト
ナム政策を支持する決議の共同提案者となった。さらに、上院58人、うち民主党
21人、共和党37人が、同様の書状に署名した。
以上の反応によって、アメリカ国民も、議会も、ベトナムで起こっている事に
ついて、戦争報道のマスコミよりは深く理解している事を示したのだ。
連日のニュースで、戦闘に継ぐ戦闘が報じられ、史上かつてない人類の苦悩と
犠牲を表現していた。しかし、マスコミは戦争の背景について語る事はなかった。
映像をかさに着て、ただ我々は、蟻地獄の中で戦っているのだ、という印象を与
えるのに終始した。
1970.4/20、ニクソン、本年度中に60000人、来年度に90000人の撤兵を行うと
発表。
クメール・ルージュが行った２００万人の大虐殺
4/30、アメリカ＆南ベトナム軍、カンボジア内の北ベトナム占領域を攻撃。そ
の事実を発表。
カンボジア情勢
1969、アメリカ、カンボジア内・北ベトナム占領域を攻撃。シアヌーク、アメ
リカ寄りの姿勢を示す。
カンボジアの民主化勢力、北ベトナムに対して弱腰のシアヌークを非難。古来
より、カンボジアはベトナムに侵略された歴史があり、国民はベトナムの動向に
敏感。シアヌークがかつて、北ベトナムを迎合する気配を見せた事は、政治的に
命取りになっていた。
1970.3/、シアヌーク、フランスで休暇中。カンボジア国民、北ベトナムに対
する反対デモ。二万の若者、プノンペン市内の北ベトナム大使館と民族解放戦線
の事務所を襲撃。
3/18、シアヌーク、クレムリンに対して、北ベトナムに撤収するよう圧力をか
けるよう要請。
同日、カンボジア議会、92vs0で、シアヌークの退位を決議。反北ベトナム運
動の中心人物ロン・ノル将軍が政府首班に就任。
3/20、シアヌーク、北京にて、自らの運命を共産主義者に委譲。「勝利を得る
か死を得るまで」 現在のカンボジアを支配している「アメリカ帝国主義の手先」
と戦う事を表明。しかし、ロン・ノル将軍は、過去数年間、シアヌークの下で国
防相、首相を勤めてきた人物。
ロン・ノルのクーデターには、我々も意表をつかれた。ＣＩＡの扇動を示唆す
る人々は、当時カンボジアには一人のエージェントも居なかった事実を故意に見
過ごしている。
ニクソンは、新政府支援の為には何でもしなければならないと決意した。ロン・
ノルは、北ベトナムに対してシアヌークヴィル港を閉鎖し、対北ベトナム防衛の
為に武器援助を求めて来た。これは、勇気ある行動であった。しかし、北ベトナ
ムにカンボジア侵攻の口実を与えてはならないという配慮から、自制した。我々
は、北ベトナムに対しても、カンボジアの中立回復の為の撤収を呼び掛けたが、
それは即座に拒否された。我々はベトナムからもっとよく学ぶべきだった。北ベ
トナムは、他国の侵略に口実など必要としないのだ。
我々がカンボジアの新政権を援助するのをためらっている間に、北ベトナムは
行動を起こした。
4/、初、北ベトナム、カンボジアを攻撃。ソヴァイ・リェン、タケオ、カムポ
ート、プレイ・ヴェン、モンドルキリ、コンポム・チャムにて、全面攻撃。
北ベトナム軍、プノンペンの南20マイルまで侵攻。主要幹線道路の遮断、メコ
ン川の航行妨害。
4/、末、北ベトナム軍、カンボジア領の四分の一を占領。プノンペンに肉薄。
4/9、ロン・ノル将軍、アメリカに援助要請。ニクソン、キッシンジャーは支
援を急ぐが、外交＆軍事官僚の先延ばしにより、四月末までに送られたのは3000
挺のライフルのみ。
4/14、ロン・ノル将軍、「事態の深刻さから、今やどんな国からでも、どのよ
うな援助でも受ける事が、緊急の要請となっている」と世界に宣言。
北ベトナムは、東部カンボジアを一大軍事施設にする計画。これが実現すれば、
南ベトナムとプノンペンを意のままに攻撃できる。
アメリカ統合参謀本部の計画立案。北ベトナム軍の占領地域は、パロット・ピ
ークとフィッシュ・フックと呼ばれた。パロット・ピークは、南ベトナムに喰い
込んだ細長い地域で、サイゴンまで38マイル。フィッシュ・フックは、南ベトナ
ム中心部に突き出した地域で、サイゴンまで50マイル。特にフィッシュ・フック
は、北ベトナム軍の司令部があり、補給、食糧、医療の総本部であった。
4/26、ニクソン、両陣地への攻撃を決断。
4/29、南ベトナム軍、パロット・ピークを攻撃。
4/30、アメリカ＆南ベトナム軍、フィッシュ・フックへの共同作戦を展開。
同日、ニクソン、テレビ演説。カンボジアが共産軍に占領され、軍事施設とし
て利用されている事を説明。さらに、アメリカ軍はカンボジア領内に60日しか停
まらず、国境から21マイルまでしか進軍しないと言明。
5/1、ニクソン、ペンタゴンを訪問。地図の上では、上記の二地域のほかも、
北ベトナムの旗で埋め尽くされている。すべての地域を奪還できないのかとの問
いに対して、ペンタゴン官僚は二地域以外への攻撃は議会とマスコミの賛同が得
られないと弁明。ニクソン、政治的判断は私がする、聖域を二ケ所攻撃するのも
六ケ所攻撃するのも変わらない、すべての地域を奪還するよう徹底的にやれと指
示。
軍事の専門家は、総じて注意深く、大胆な行動を取る事はめったにない。パッ
トンやルメイは例外なのだ。
アメリカ軍のカンボジア侵攻はスケジュール通りに行われ、スケジュール通り
に撤収した。アメリカ軍は、中立のカンボジアを侵略したと非難する事があるが、
全くのナンセンス。アメリカ軍は僅か二ケ月、国境から21マイルまでしか進まな
かったのだ。対する北ベトナムは、カンボジア東部を五年以上も占領しており、
我々が撤収した後に再び占領した。この件については英紙が報じたように、アメ
リカが中立国カンボジアを侵略したと非難する事は、1944、イギリスが中立国オ
ランダを侵略したと非難するのと同じくらい馬鹿げた事。
6/30、すべてのアメリカ軍兵士、カンボジアからの撤収完了。
カンボジア侵攻作戦は、ロン・ノル政権を救い、今後二年間、ここからの大攻
勢を不可能にする成果を挙げた。
ベトナム戦争に関する神話の中でも、1975のカンボジア崩壊後に行われた大虐
殺につき、アメリカが責任を負うものであるとする意見ほど悪意に満ちたものは
ない。
アメリカで最も優れた若者は皆カナダに行ってしまった!?
評論家は次のように言う。1969、カンボジア領内ホー・チ・ミン・ルートへの
秘密爆撃が、無数の民間人を殺戮した。さらに、この侵攻が、北ベトナム傘下の
共産勢力をさらにカンボジア奥地に追いやり、シアヌーク政権を不安定にさせた。
続いて、1970の攻撃により、北ベトナムはカンボジアの共産勢力クメール・ルー
ジュに援助を行うようになった。
この間違いは指摘できる。我々の爆撃による民間人の死傷者はほとんど居なかっ
た。北ベトナムがカンボジア国民を追い払っていたからだ。また、シアヌーク政
権を不安定にしたのは、我々の爆撃ではなく、本人の弱腰・風見鶏的な態度であ
る。さらに、爆撃が共産勢力を奥地に追いやったという証拠はない。これは偶然、
時を同じくして移動したのだ。
クメール・ルージュ小史
1965、北ベトナム、カンボジア東部を占領。
1970.3/、ハノイ政府、北ベトナムで訓練を受けたクメール・ルージュ・ゲリ
ラ、20000人をカンボジア領内へ送致。
4/、領土回復の意志を見せたカンボジアに対して、北ベトナムの侵攻。
パリ秘密和平会談にて、北ベトナム政府、プノンペン政府打倒の意志を認める。
5/、6/、アメリカ＆南ベトナム軍のカンボジア侵攻。この時、すでにカンボジ
アは北ベトナムからの侵略に見舞われていた。
アメリカ軍によるカンボジア侵攻を非難する人は、共産主義の勝利と、それに
続いて不可避的に起こる人道上の悲劇を阻止しようとするアメリカの行動に反対
していたのだ。今はそれらの人も、罪の意識を持っている事は疑い得ない。カン
ボジアの大虐殺について、それを行った共産主義者を非難するのではなく、共産
主義の勝利を阻止しようとしたアメリカを非難する事は不道徳である。
カンボジア侵攻は、南ベトナムの防衛を容易にした。ベトナムに駐留するアメ
リカ軍兵士は、眼に見えて必要がなくなった。
1969.1/、54万2000の兵が駐留。
1970.7/、40万4000の兵が駐留。
さらに、12ケ月間で17万9000の兵を撤兵。
1972.7/、4万5600の兵が駐留するのみ。
徴兵忌避から、カナダへ逃れる若者もいた。1960年代の道徳的真空状態に巻き
込まれた者の中には、守るべき価値が信じられなくなった者もいた。
消耗戦から平定化へ、戦略の転換を
反戦運動が、もうひとつの問題だった。あらゆる戦争に反対する平和主義者も
いれば、外交努力を願う理想主義者もいた。この戦争は勝てる見込みがないとす
る現実論者もいたし、アメリカが世界で指導的な役割を果たすのに反対する孤立
主義者もいた。しかし、反戦運動の主要リーダーの多くは、アメリカを憎悪し、
アメリカが屈辱にまみれる事を望む、がちがちの新左翼戦士であった。彼らは集
会で公然とヴェトコンの旗を振った。秩序の破壊が目的であり、その為には暴力
の行使も辞さなかった。
今日では、反戦運動とは、蝋燭を持って行進するフラワー・チルドレンとして
記憶されている。1968年までは、確かにそうだった。座り込み、政治討論集会、
象徴的に徴兵カードを焼く、等という平和な手段だった。
1969から、様相は一変した。学生たちは警官や消防士を銃撃し、大学長をナイ
フで脅して人質に取り、ショットガンを手に校舎を襲い、建物を焼き、窓ガラス
を割り、事務室を荒らし、教室に爆弾を投げ込んだ。
1970では、1800のデモがあり、7500人が逮捕され、247件の放火があり、462人
が負傷し（うち三分の二は警官）、さらに警官８人が死亡した。
1969.1/〜1970.2/の間、爆弾関連の事件、未遂、脅迫は四万件。そのほとんど
がベトナム関連で、これにより、死者43人、負傷者数百人、2100万＄の損害が生
じた。
大学紛争では、暴力が原則になった。メリーランド大学では、学生が警官隊と
衝突、50人の負傷者が出た。
オハイオ州ケント州立大学では、構内の陸軍事務所を二人の学生が放火するの
を、何百人ものデモ集団が眺めていた。州知事は州兵を派遣、学生に追い詰めら
れた州兵が射撃し、デモ隊二人と野次馬二人が死んだ。
8/、ウィスコンシン大学では、爆薬を満載したバンが爆発、死者一名、負傷者
四名、600万＄の損害を出した。これにつき、全国的な地下新聞は、またも爆発
で「豚野郎の国」に打撃を与えたと得意気に報じた。
彼らの主張は独善的で、私や前任者の平和への願いをまったく信用しなかった。
我々の教育機構が産んだ「ベスト・アンド・ブライテスト」が、自らの反戦運動
が戦争を長期化させる事を認識できなかったのは皮肉な悲劇のひとつだ。ハノイ
代表が、パリ和平会談の席でアメリカ代表団に対して、秘密交渉の席でキッシン
ジャーに対して、キャンパスの反戦運動の声明を引用して嘲った事は一度や二度
ではない。
さらに、マスコミは、アメリカ中の若者が反戦に傾いているように描いたが、
これも事実ではない。世論調査は常に、二十代の若者が戦争への支持が強い事を
示している。1966.3/、世論調査では、ベトナム介入は誤りかという問いに対し
て、71％がノーと答えている。
アメリカの最も優れた若者は、カナダには行かなかった。彼らはベトナムへと
行ったのである。1979.7/、私は南ベトナム駐留将兵を訪問した際、もっとも理
想的なアメリカの若者に出会った。彼らは、理想とほど遠い世界において理想を
築くにはどうすれば良いか、本国にいる若者より遥かによく判っていた。
ニュースでは、アメリカ兵は罪の意識を抱いており、ドラッグに耽っていると
報道されたが、それは、どんな戦争にも起こり勝ちなものだ。マスコミによって、
すべてが誇張されたのだ。
ベトナム派兵に黒人の比率が高いという主張も、根拠のないものだ。1973.3/
まで、戦闘の犠牲になった黒人比率は12.2％。兵役年齢人口の中の黒人比率は、
13.5％。1.2％も、下回っている。
駐留アメリカ軍が、軍紀の緩みやドラッグに走ったという証拠もない。朝鮮戦
争時の無断外出者は1000人中170人であった。ベトナムでは、1000人中115人であっ
た。
ドラッグの使用については、1960年代の若者に特有の現象であり、ベトナム戦
争が持たらしたという証拠はない。
1968、ハーバード大学生の75％がマリファナ、ヘロインの使用経験あり。
1971、駐留ベトナム兵士の50.9％がマリファナ使用、うち28.5％がヘロイン使
用経験あり。ただし、中毒患者はおらず、彼らはアメリカ本国で使用を覚えたも
の。
ベトナム戦争は、ヒーローなき戦争であったという主張がある。それは間違っ
ている。無私の大義の為に命を賭したという意味で、全員がヒーローである。戦
争捕虜は、さらに特筆すべきヒーローである。
1973まで、戦争捕虜が北ベトナム軍から残虐な拷問を受けていたという事を知
らない人は未だに多い。マスコミは、捕虜への虐待を示す報告があっても、それ
を無視し、反戦運動家の言うがままに、捕虜に対する北ベトナムの扱いは人道的
であると報道し続けた。運動家の中には、わざわざハノイに渡って、戦争捕虜と
面会し、楽観的な報告を送った者さえあった。こういう運動家と面会した捕虜は、
その数分前まで、何も喋べらないよう脅迫され、言い含められていたのだ。
1969.8/、反戦運動グループはハノイに訪問して、二人の戦争捕虜の釈放を勝
ち取った。彼らは、北ベトナムの人道的な態度を礼讃した。病院での記者会見で、
釈放された捕虜は次のように反駁した。
「独房への幽閉、声明の強要、檻の中での三年間の生活、紐で縛られる事、睡眠
も食事も許されない事、爪を抜かれる事、天井から吊される事、病気にかかって
も治療されずにほとんど腐り落ちてしまう腕、足が折れていると地面を引きずら
れる事、捕虜同士の手紙の交換も許されない事。私はこれらを、人道的と言える
とは思わない」
1972.8/、ハノイを訪問したラムゼイ・クラーク前司法長官は、捕虜は良好に
扱われ、食事も充分に与えられていると証言した。捕虜の一人は、後に、折れた
腕一本で吊され、クラークと会って嘘を言うよう共産主義者から「説得」された
のだと語った。
肉体的、精神的拷問のプロである北ベトナム軍は、捕虜を寝返らせようと努力
したが無駄だった。捕虜となったアメリカ軍兵士は、挫けなかった。
戦争捕虜だったジェレミア・デントン大尉は、帰国後、不平も言わずに語った。
「我々は、困難な情勢下で、国家に身を捧げる機会に恵まれた事を、名誉と思っ
ています」
誰よりも彼を熱く迎えたのは、奥さんの涙だった。
1968から、戦争の方針が定まった。国内の平定と、南ベトナム軍への主力の移
行である。南ベトナム政府は農村支配を強め、戦争では指導権を握っていた。
平定化は、これまでは真剣に協議されなかった。ケネディ、ジョンソンはとも
に、南ベトナム国民を銃後で動員する事しか考えなかった。平定化は、誤った政
治改革やあやふやな経済成長計画より遥かにましなものだった。これは洗濯屋の
リストのように書く事ができた。再建、市民活動、土地改革、集合キャンプ、等
々。
エイブラムズ将軍は、平定化に高い優先順位を付けており、1968後半の農村地
域回復作戦は大成功を納めた。
ジョンソン政権は50万の兵士、毎年100万トン以上の爆弾を落としながら、テ
ト攻勢までは何の変化も得られなかった。そこで我々は、平定化に力を注いだ。
1969、新戦略目標計画が確定された。北ベトナム軍を破るという目標は、農村
の安全保障と地下組織の壊滅という新しい目標の下位に置かれた。
さらに、ニクソンにより新しい目標、市民活動および革命的発展支援計画（＝
ＣＯＲＤＳ）が促進された。1970までに、6000人の軍事顧問と1000人の文民顧問
が、南ベトナムの政治経済の再建に専従した。
チュー大統領は、我々の熱意に応えてくれた。1968年では、16才から50才まで
のすべての男性を徴集し、18才から38才までは軍隊勤務、それ以外は自衛部隊に
所属した。国民は共産主義を望んでいないと確信して、チューは、農村防衛の最
善の道は、大衆に武器を与える事だと理解した。この無償でパートタイムの自衛
部隊は、敵の小部隊と戦う事を想定されており、農民、商人、職人から構成され
ていた。その数は、すぐに150万に上り、さらに300万に膨れ上がった。
共産革命に対するには、こちらの革命を提示する必要がある。1970-1973間で、
サイゴンは250万エーカーの土地を80万の小作農に分配した。これにより、小作
面積は60％から10％に減った。つまり、50％の土地が自作農のものとなった。
教育普及率は80％を越えた。
平定化計画は着々と進んだ。1969.10/には、農村の90％を政府管理下に置き、
50％に高い安全保障を、40％に重要な安全保障を与えた。
1968-1971間に、安全な地域に住む住民は47％から84％へと増え、紛争地域に
住む者は23％から4％に落ちた。幹線道路や水路の四分の三が、安全な地域となっ
た。
我々は政治闘争に勝った。共産側の宣伝は、何年もの間、彼らが勝つのだと吹
聴していたが、未来に向かっているのは我々だという事が明らかになった。
共産側さえ、我々の成功に注目した。1969年、共産側から脱走してくる兵士は、
毎月4000人に達した。
キエン・ホア省は、ｗｗ２以来共産主義の根城であったが、そこのリーダーが
降伏した理由は、部下が10000から3000に減って、戦闘継続不能と悟ったからだっ
た。
かつて、南ベトナム軍は二流の軍隊だった。アメリカ軍が戦っている間、南ベ
トナム軍は、共産軍を探して、そこを避けて作戦を展開した。非効率の理由は二
点、戦い守るべき価値がなかった事と、兵器がなかった事である。1963のジェム
の死から、1965のチュー政権樹立に到るまで、南ベトナムはそういう悲しむべき
情況にあった。
しかし、1965-1968間にかけて、三週間を除き、南ベトナム軍の死者はアメリ
カ軍の死者を上回った。
1969まで、南ベトナム軍はｗｗ２の遺物のＭ−１ライフルだけで、北ベトナム
軍のＡＫ−４７の銃弾を雨あられと浴びせられていた。それはまるで、水鉄砲で
消火ホースに対抗するようなものだった。最新のＭ−１６の配備は、1969.4/に
正規軍、1970.2/に地方守備隊に行き渡った。
しかし、指揮官は有能ではなかった。ジェム暗殺後の政変を見ているチューは、
有能な者よりも従順な者を取り立てる傾向があった。
1970.12/、北ベトナム、ラオスに新たなルート建設。
ラオス・ルート、人員と物資の急増。これは翌年の大攻勢を予測させるもの。
1971.1/、南ベトナム軍単独によるラオス国内のホー・チ・ミン・ルートの切
断作戦＝ラム・ソン７１９作戦の実施。
2/8、作戦決行、北ベトナム軍が集積しているラオス領内チェポンへの攻撃。
反攻は想像以上で、南ベトナム軍は斬壕に入るという過ちを犯したが、それは
目標を与えたようなものだった。
チュー大統領は死傷者が3000に達したら攻撃を止めると宣言したが、三月半ば
には、その言葉通り撤退を始めた。
マスコミは、この作戦は失敗したと歪んだ報道をした。撤退するヘリコプター
の脚にしがみ付く兵士を映した映像は、南ベトナム兵は弱腰という印象を与えた。
しかし、内容的には、この作戦は成功だった。南ベトナム軍は9000の兵を殺し、
110両の戦車、270台のトラック、13630ｔの弾薬を破壊した。
「ペンタゴン・ペーパーズ」の暴露
ベトナム戦争におけるアメリカ政府の役割が縮小するにつれて、マスコミの戦
争介入非難の声は強まった。まるで、ニクソンが撤退ではなく増強をしているか
のような調子だった。
1971.7/13、ニューヨーク・タイムズ紙の連載、「合衆国のベトナム政策決定
過程の歴史」と題して、国防総省＝ペンタゴンの機密情報を7000ページに渡って
掲載。後にこれは、ペンタゴン・ペーパーズと呼ばれる。
これは、ロバート・マクナマラの指示で、ペンタゴンが、1945-1968間のベト
ナム介入の歴史を綴ったものであり、国家の極秘文書。
政治的には、この暴露は、ニクソンに有利だった。この文書は主に、ケネディ、
ジョンソン政権下の時代を扱っており、ニクソンへの言及はなかった。しかし、
正義を求めるなら、政府として発行差し止め訴訟を起こすべきだった。
時あたかも、キッシンジャーの中国への隠密外交の直前だった。中国側はこの
事件を興味深く見守っている事は明らかだった。政府が失態を演ずれば、アメリ
カは微妙な問題を分かち合うには危険な、信頼できないパートナーであると烙印
を押されてしまう。
ニューヨーク・タイムズは、機密情報のリークが、国家の安全保障を脅威に晒
したり、ベトナム将兵の生命を危険に陥れたりする事があるとは考えなかった。
最高裁の判決は、政府側の敗訴であった。しかし、これは勝訴すべき判例であっ
た。さもないと、政府に不満を持つ官僚は、何でも好きなようにリークして、政
府は手をこまねいて見ているしかないという状態になってしまう。
堂々たる軍隊に変貌した南ベトナム軍
ベトナム化計画により、南ベトナム軍は手強い軍隊に変貌した。総人口1900万
のうち、正規軍に100万強、地方守備隊に300万が割かれた。
北ベトナムによる傍若無人な攻撃が始まった
平定化計画は、サイゴン支配を全国に広げた。共産地下組織は根絶され、国民
経済は繁栄した。
我々の対中、対ソ外交は、北ベトナムを狼狽させた。1972.2/、中国での首脳
会談では、毛沢東と周恩来はアメリカを非難しながらベトナム問題については遺
憾の意を表した。ブレジネフとの会談は、五月に予定されていた。小麦取引、戦
略兵器削減などが課題で、ベトナム問題は順位が低かった。中国、ソビエトとも、
戦争集結こそ望まないが、ハノイから距離を置く姿勢は明白にしていた。共産国
の指導者たちは陰謀の大家であり、敵を信用する事はないが、お互いを信用する
事もないのだ。
ヘンリー・キッシンジャーは、パリ秘密交渉の行き詰まりを何度も打開しよう
とした。
1971.10/、キッシンジャーによる和平への最終提案。停戦、六ケ月以内の米軍
の撤退、捕虜の交換、南ベトナムにおける国際監視下での民主化総選挙。この提
案についても、ハノイは交渉を拒否した。
三年間に渡り、ハノイ政府は秘密交渉を行き詰まらせた。ハノイは執拗に、我
々の一方的撤退と、それによるチュー政権の崩壊を要求した。これは受け入れら
れるものではない。我々はサイゴンに共産政府を作る為に、十年間、５万もの兵
士を犠牲にしてきたのではない。
他方、北ベトナムは、アメリカが交渉の進展を妨げているという作り話をマス
コミに流し、反戦運動家に噂を流した。我々は、譲歩もしないのかと非難される
ようになった。これに反論するには、秘密交渉の事実を暴露するしかないが、そ
うなればハノイは交渉を断つ事は目に見えていた。
十月の交渉を蹴った事につき、我々はハノイが、またしても武力に訴える道を
選択したのだと結論した。そこで私は、国民に対して、本当は誰が交渉を妨害し
ているのかを明らかにする時だと判断した。
1972.1/25、ニクソン、テレビ演説。過去十二回のキッシンジャーの秘密交渉
の記録を公開。
1972.3/30、北ベトナム、大規模攻撃を開始。ソビエト製Ｔ−５４戦車200両、
無数の130ミリ砲とともに、三個大隊が国境を越えて殺到。さらに、ラオス領内
からも九号線沿いに大軍がユエに殺到。カンボジア領内からも侵攻。その傍若無
人な攻撃は、1950、北コリアによる南コリアへの攻撃を思い出させた。
ハノイは焦っていた。ハノイは明らかに、南ベトナムの独立繁栄を確信してい
た。そうでなければ、米軍が撤退するまで待った筈である。
選挙が近い事もあり、側近は南ベトナムに任せて置くよう進言する者もあった。
しかし、ハノイは交渉を蹴り、我々の得意とする地上戦で挑んで来たのだ。今度
は、我々が彼らに、我々の望む条件での終戦を呑ませる番だった。
4/2、北ベトナム軍、南ベトナムの三個師団を粉砕。さらに、南ベトナム軍、
北の猛攻に耐えず十四の基地を放棄。
4/5、北ベトナム軍三個師団、サイゴン北75マイルのビン・ロン省に侵入。
4/13、アンロク包囲、援助物資は空輸。
4/23、北ベトナム軍、中央高地コントゥムに殺到。南ベトナム軍第２２師団の
敗退、第２３師団の踏ん張り。
4/27、北ベトナム軍、北部戦線に第二派攻撃。
5/1、北部省都クァン・チ、陥落。
北ベトナム軍による民間人の虐殺。
アンロク、クァン・チにおいて、逃げる群衆に対して無差別砲撃。数千人の虐
殺。
ビン・ディン省の共産軍占領地では、サイゴン政府と関係があると疑われた人
が何百人も公開処刑になった。ある村では、47人の官吏が生き埋めにされた。クァ
ン・ガイ地方では、40人の人々が体に地雷を結び付けられ、妻子の見ている前で
地雷爆破により惨殺された。
これは、始めての通常戦争だった。アメリカの反撃は早かった。
4/1、ニクソン、国境から25マイルまでの北ベトナム領内への爆撃命令。
4/15迄、20度線までの爆撃命令、ペンタゴンに対して大規模部隊の編成を命令、
戦艦と爆撃機の増強と派遣。
5/2、パリ秘密交渉、キッシンジャーとハノイ代表の会談。過去数年間、彼は
延々と続く悪口雑言に耐えて来た。今回、勝利を確信したハノイ代表はいつにも
増して無礼で、耐え難いほどだった。三時間の侮辱の後、キッシンジャーは交渉
を打ち切った。
戦略面では、補給路を断つのが有効であった。攻撃を維持するのに、北ベトナ
ムは毎月数千トンの爆薬と燃料とを必要とした。
中国、ソビエトとの国交回復を願いながら、ハイフォン港への機雷敷設と、北
ベトナム全土の軍事目標への爆撃命令。
5/8、ニクソン、テレビ演説。一、即時撤兵は同盟国を見捨てて世界の侵略を
容認する事になる。二、和平交渉は、北ベトナムの非協力によって不能。三、戦
争集結の為の軍事行動を取るしかない。
マスコミ、反戦運動家は、これを非難した。「今回の決定は無謀で、誤り」「大
統領に東アジアでのフリーハンドを与えてはならない」「大統領は現実の世界か
ら遊離してしまった」「大統領はソビエト、および中国の十億の民に核戦争の挑
戦状を叩き付けてしまった」 さらに、ある記者の意見、我々の行動はソビエト
指導者との「首脳会談の見込みを事実上ご破算にしてしまった」という見方は多
くの人の賛意を得た。
ハノイは我々の行動を、「傲慢な挑戦」と非難した。しかし、中国、ソビエト
は、我々の行動に抗議はしたが、何の行動も起こさなかった。それどころか、北
京政府は「人民日報」に、5/8のニクソン演説の全文を掲載した。北ベトナムの
非妥協的な態度や、南侵の詳細まで含めてである。
5/22、多くの人の予想を裏切って、第一回米ソ首脳会談開催。ブレジネフが交
渉に臨んだ理由。一、中国を睨んで、アメリカとの関係改善を必要とした。二、
ベトナムの行動を通して、アメリカが力を保有するだけでなく、力を行使する意
志を持つと示した事で、交渉に値する国家と評価した。もし我々が行動を起こさ
なかったら、我々はソビエト製の戦車がユエやサイゴンを徘徊している最中にモ
スクワを訪問しなければならなかっただろう。
5/4迄、南ベトナム軍、ユエの北25マイルに北部戦線を再構築。
アメリカ軍、第七艦隊から大半の艦船、Ｂ−５２爆撃機とＦ−４戦闘機が400
機以上。
ハイフォン港の封鎖は大成功だった。軍備の85％、石油の100％は中国からこ
こに運ばれた。積み荷を鉄道輸送に切り替えるには、相当の時間を要した。
6/、千両以上の貨車が、中国、北ベトナム国境に停滞。
6/、南ベトナム軍、反攻。アンロクの守備隊は、包囲の中を二ケ月もここを守っ
た。無傷の兵士は一人もいないくらいだった。
6/28、南ベトナム軍、北部戦線で反攻。
8/、南ベトナム軍、ビン・ロン省を回復。
9/、南ベトナム軍、敵師団を省都クァン・チから掃討。
北ベトナム軍の損失。戦車の75％が破壊、兵士は六十才から七十才に、大隊中
の兵士が50人に減少、北ベトナム側戦死者は10万人以上。
1972の春季攻勢に置いて、南ベトナム軍はアメリカの陸上戦闘部隊の支援をまっ
たく借りずに北ベトナムの猛攻を防いだ。支援は、航空支援に限られた。はたし
て、南ベトナム軍が我々の支援なしでも勝てたかどうかは判らない。しかし、確
かな事は、我々の空軍力だけでは戦闘に勝つ事はできなかったという事である。
軍事力は、もはや国際政治にたいして無効なのか？
国際政治において軍事力は無効だという意見が大手をふるっている。それは、
間違いだ。
北ベトナムの春季攻勢を打ち破った後に、ハノイは交渉に応じる姿勢を見せた。
八月、九月と、秘密交渉は進展した。
1972.10/8、北ベトナム、従来の要求を撤回。アメリカ軍の即時撤退、チュー
大統領の更迭など。しかし、北ベトナムは、南ベトナム領内からの兵力の撤退だ
けは拒否した。これはあくまでも、南ベトナム国内の内戦だと主張したのだ。我
々も、戦場で勝ち取れなかったものを、会議のテーブルで得られるとは思わなかっ
た。
10/18、キッシンジャー、南ベトナム訪問。チュー大統領の困惑。彼は、共産
主義者の悪知恵に驚くほどの自信の欠如を示していた。和平交渉でアメリカとの
縁が切れるのではないかと心配していた。彼は、アメリカの撤兵後に何が起こる
のか、不安に感じていた。
10/26、北ベトナム、和平協定案を公表。キッシンジャー、定例記者会見で同
意。これは、アメリカ撤退後のチューの懸念を吹き飛ばすものであり、このとき
既に、北ベトナム側は、和平条約締結後の南侵を策定していた事を示す。
キッシンジャー、「平和は間近だ」と発言。
11/2、ニクソン発言、「私は、一時的効果しか持たず永続的平和をもたらさな
いような協定を、選挙、その他のタイム・リミットの為に、国民に押し付けるよ
うな真似はしない」
しかし、議会は、協定が難航すれば戦争を停止するだろう。
11/9、アレクサンダー・ヘイグ、派遣。チューに協定の受け入れを説得する。
11/20、パリ交渉の再開、ハノイ側の妨害。これは、交渉が難航すれば、非難
はチューに集中するとの計算から出たもの。
12/8、再び、パリ交渉の再開、ハノイ側の妨害。
12/13、交渉決裂。
12/14、ニクソン、ハイフォン港への機雷再敷設、ハノイ・ハイフォン間への
Ｂ−５２による爆撃命令。
12/17、作戦開始。Ｂ−５２、729回の出動。目標はすべて軍事的なものに限ら
れたが、マスコミはこれを、「クリスマスの絨毯爆撃」と非難した。これは、正
しくない。クリスマスの日に出動はなかったし、目標は単独で、日本やドイツに
対するような絨毯爆撃は行っていない。
これにつき、ハノイは、民間人犠牲者を1300から1600と発表した。この犠牲が
出た事は遺憾だが、ドレスデンの35000、ハンブルグの42000、東京での83000と
は比べ物にならない。
この爆撃は、軍事的には北ベトナムの戦闘能力を低下させ、政治的には戦争継
続への意志を挫かせた。当時、捕虜だったジェームズ・ストックデイル提督は語
る。「収容所の独房という独房から歓声が湧き上がった。ハノイにしては、新た
に突き付けられた現実だった。北ベトナム士官の顔を見れば、すべてそこに描い
てあった。諦め、絶望、自責、恐怖。敵の意志は挫けたのである」
マスコミの報道とは逆に、戦争捕虜は事態の進展を正しく見ていたのだ。
1973.1/8、ハイレベル協議再開。ハノイ、４８時間以内に我々の提案に合意。
1/9、ニクソン、六十の誕生日。キッシンジャー、交渉締結を打電。
毎年、クリスマス休暇には、戦没者の遺族に電話を掛けていた。励ますつもり
が、電話を終わる頃には、励まされている事がよくあった。1971、たった一人の
息子を失った未亡人との会話では、彼女は毎日教会で、私と私の家族の為に祈っ
ていると聞いて、心を動かされた。遺族のほとんどは、私の政策を支持してくれ
ていた。
ベトナム戦争ほど、アメリカを分裂させた戦争はない。1972選挙で、私は61％
の票を得たが、マスコミの調査では、反戦候補が81％の票を獲得した。政府発表
は疑惑で迎えられ、北ベトナムの言い分は額面通りに伝えられた。敵対的なジャ
ーナリズムは、ベトナム戦争以降に誕生したものだ。
学生の反戦運動も、これ以降のものだ。副大統領時代は、学生との対話ほど刺
激的で心が満たされる事はなかった。1968、1989、1972と、大統領となって公式
に姿を現す時はいつでも、学生による反戦デモの姿が見られた。ヴァージニア州
ウィリアムズバーグでは、十七才の少女から「人殺し！」と罵られ、唾を吐きか
けられた。
1970.5/4、ケント州立大学では少女二人、少年二人が命を落とした。
リンドン・ジョンソンは辞職後も、胸は張り裂け、瀕死同然だった。「ヘイ、
ヘイ、ＬＢＪ、今日は何人子供を殺した？」という歌が歌われた。この強く、愛
国的な大統領を、ベトナム戦争は死に体に追いやったのだ。
五万人の生命と、500億＄以上の金と、十年の歳月が、ベトナム戦争で失われ
た。（所感、同様のものをソビエトも失っている筈）
ベトナム戦争に価値はあったのか。我々の介入は、1900万の人を全体主義の圧
政から救った。1954から1972までの18年間の期間で、インドネシア、タイ、フィ
リピンは侵略を寄せ付けない国力を付けた。
1973.1/27、パリ和平協定が締結された。
五 いかにして我々は平和を失ったか
かくてインドシナのドミノはすべて倒れた
我々は勝利して、すべてを失った。二十年の戦闘で得たものを、議会の発作的
な無責任さで無に帰してしまった。
勝利の瞬間から、議会は転身した。議会は、南ベトナムへのコミットメントの
全面撤退に着手した。まず、インドシナでの軍事力行使を禁止する法律を作った。
また、軍事援助を削減して、南ベトナム軍を弱体化させた。議会は、南ベトナム
関連の予算をカットした。二年のうちに、インドシナのバランス・オブ・パワー
はハノイに傾いた。
1975.4/17、クメール・ルージュ、カンボジアを制圧。
1975.4/30、ソビエト製戦車、サイゴンを占領。南ベトナム、降伏。
1975.5/、ハノイ寄りパテト・ラオ政権、ラオスを掌握。インドシナはすべて
赤く塗り潰された。
戦争の終結が、平和の始まりではなかった。ベトナムでは、数千人が、捕虜収
容所で死んだ。何百万のボート・ピープルが、南シナ海で海の藻屑と消えた。カ
ンボジアでは、人口の四分の一に当たる200万人が虐殺された。
だが、パリ和平協定に調印する以外に道はなかった
協定は停戦と捕虜交換を命じた。また、その監視機関として、合同軍事委員会
と国際管理監視委員会とを設立した。
チューは協定には反対した。反戦マスコミは彼をアメリカの傀儡のように描く
が、実際はそうではない。彼は北ベトナムの協定違反を見抜いて反対したのだ。
講和には問題点があった。ふたつの委員会の機能不全は明らかであった。ハン
ガリー、ポーランド、インドネシア、カナダの代表が国際管理監視委員会を形成
した。停戦違反に関する委員会決議は満場一致で採択される必要があったが、こ
れは、ハンガリー、ポーランドが決議を妨害する事を意味していた。
しかし、アメリカの高々度偵察機は、ホー・チ・ミン・ルートを常に撮影して
いた。私は北ベトナムへの報復行動については、ハンガリーやポーランドの承認
を待つつもりはなかった。
第二の問題点は、協定が北ベトナム軍の南からの撤退を強制していない事だっ
た。チューはこれを重大視していた。北ベトナムの協定ｼﾝﾆｭｳ尊守は見込みのな
い話だった。ハノイは、国際協定を破るのが恒例化していた。私はチューに二つ
の担保を出した。軍事援助の継続と、協定違反への即時報復である。
1973.1/2、下院民主党議員総会、154:75、米軍の撤退と捕虜の召喚の後、イン
ドシナにおける軍事予算カットを決議。
1/4、上院民主党議員総会、36:12、同決議。
この情況で、国際協定の締結はやむを得ない事だった。
国土の80％以上、人口の87％以上を握っていた南ベトナム
1973時、南ベトナムの軍事的優位性は揺るがなかった。陸軍45万、空軍54000、
海軍42000。さらに、地域軍32万5000、民兵20万が存在した。他方、北ベトナム
は50万から60万だが、うち7万をラオスに、2万5000をカンボジアに割き、29万が
北ベトナム国内に、14万8000が南ベトナム国内に潜伏していた。
「停戦」後、ハノイは次々と禁止条項の違反を
南ベトナムが国土の80％以上、人口の87％以上を掌握していると分析したのは、
共産側である。
停戦とは、ハノイによれば、我々が戦闘を停止して、彼らが戦闘を行う事であ
る。
合衆国との関係を深める事を望んできた中国
協定前年の十月、北ベトナム軍は各地で戦闘を行った。協定間際の一月、双方
とも戦略拠点の奪い合いを演じた。しかし、北ベトナム軍は、協定後も、南ベト
ナム全土で戦闘を行った。
ハノイ正規軍、サイゴンに釘付け。その間、共産ゲリラ軍は数百の農村を奪取、
旗を掲げていた。しかし、南ベトナム地方守備隊により、二週間で鎮圧。これは、
協定後に行われた戦闘。
反戦評論家によれば、双方とも停戦違反だった事になる。しかし、彼らは、一
方が攻撃的で他方が防御的だった事を忘れている。
1973.2/、北ベトナム、トラック175台、戦車223両を南へ移送。これは、偵察
機により確認されたもの。ハノイは、兵員や物資の移送禁止条項を最初から無視
した。
5/迄、北ベトナム、兵35000、物資３万ｔを移送。
ハノイ、カンボジア＆ラオスからの撤兵不履行。協定違反。
ハノイ、カンボジア＆ラオス両国を兵ﾀﾝ基地として継続使用。
ハノイ、捕虜の釈放を拒否。
インドネシア、カナダ代表の努力。ハノイ、委員会に協力する意志はないと表
明。
4/7、委員会ヘリコプター、クァン・チ省からラオス国境沿いを飛行中に、北
ベトナム軍により撃墜。９名死亡。
これは、北ベトナムの停戦遂行状況をモニターする者に生命の保障はしないと
いう、ハノイからの脅迫である。
カナダ政府、これでは平和を監視しているのではなく戦争を観察しているだけ
だと、委員会を脱退。
マスコミのダブル・スタンダード。南ベトナム軍のやむにやまれぬ報復は協定
違反と非難されたが、北ベトナム軍の攻撃、さらに委員会ヘリの撃墜さえ非難さ
れる事はなかった。
国際管理監視委員会カナダ代表ミシェル・ゴーバン団長の発言、「停戦協定の
一方の当事者が公約に従って行動しない」ため、脱退する。
私はハノイの協定違反に激怒したが、ウォーターゲート事件と、ベトナム戦争
を巡る議会の不調和で、行動が取れなかった。
1973.2/、キッシンジャーの秘密交渉は、カンボジア、ラオスからの撤兵、カ
ンボジア内戦の調停も含んでいた。カンボジア政府軍と共産ゲリラ・クメール・
ルージュとの停戦実現について、ハノイはまったく非協力的だった。
アメリカ、カンボジア調停交渉に失敗。
カンボジア、ロン・ノル大統領、クメール・ルージュに対して軍事行動の相互
停止の提案。アメリカ政府、爆撃の停止。
クメール・ルージュ、新たな攻撃開始宣言。
1971-1972、北ベトナム、クメール・ルージュ軍を構築。これは、カンボジア
奪取と、南ベトナムへの両面攻撃を狙ったもの。
ロン・ノル、カンボジア正規軍を３万から２０万へ増強。
1973.1/、クメール・ルージュ、プノンペンを包囲、道路封鎖、河を遮断。
カンボジアを失う事は、南ベトナムを失う事を意味する。
アメリカ議会、カンボジアでの地上軍の軍事行動を禁止。軍事顧問の駐留禁止、
援助禁止、200人を越える民間人顧問の駐留禁止。
残された手段として、ニクソンは、クメール・ルージュ基地への爆撃を再開し
た。
爆撃により、ロン・ノル軍再編成。
5/、クメール・ルージュの全面攻撃、正規軍これを撃退。
中国の接近。中国政府は、ソビエトの圧力によりアメリカとの関係を求めた。
周恩来は北ベトナムの勝利を望んでいなかった。これに対し、クレムリンは、イ
ンドシナの奪取と、アメリカに屈辱を与える事を望んでいた。
1973.10/、周恩来発言、「五年、十年の緊張緩和の時期がインドシナに必要」
カンボジア内戦終結の為のアメリカ・中国協議、シアヌークのカムバックを企
画。シアヌークは中国の方針には従うので、その政府入りと引き換えに、クメー
ル・ルージュの停戦を勝ち得る。
6/、調停案、最終段階へ。
1973.1/、ラオス、内戦激化。北ベトナムはラオス党派闘争の鎮静化に努力す
ると謳ったパリ協定違反。
スヴァナ・プーマ首相、パテト・ラオの総攻撃によりアメリカに支援を要請。
2/、北ベトナム軍、ジャール平原南部の都市を占領。
アメリカ軍、報復爆撃。
ラオス、停戦合意。
カンボジア、ラオスは停戦に向かいつつあった。しかし、北ベトナム軍は相変
わらず、両国内にあるルートを活用し続けた。
3/、雨期の直前。北ベトナム軍、ルート経由でトラック18000、兵70000を南ベ
トナムへ移送。
3/27、戦争捕虜解放。上記移送は、これを睨んで、報復がないと見込んで行っ
たもの。
4/、アメリカ議会、北ベトナムの協定違反に対する報復行動に反対。
5/、報復行動の為の票、集まらず。
6/、反戦派議員、ニクソン政権を攻撃。インドシナでの軍事行動の禁止、南ベ
トナムへの経済援助の停止を指向する。
エドワード・ケネディ上院議員の発言、「もし我々が、インドシナでの和平を
望んでいるのであれば、我々はＢ−５２ではなく外交団を送るべきである」 ベ
トナム関与を始めた大統領の弟が、それら諸国を見捨てる発言をしている。しか
も、キッシンジャーの忍耐強い外交交渉を見ない態度である。
カンボジア内戦の原因が、我々の空爆ではなく、クメール・ルージュと北ベト
ナムの侵略である事を、彼らは認めようとしなかった。
6/、アメリカ議会、カンボジア爆撃の為の追加財源の支出を拒否。さらに、歳
出予算法に、カンボジア爆撃を禁じるカンボジア条項を盛り込む。
6/27、ニクソン、議会の歳出法案に対して拒否権を発動。「カンボジア条項を
呑めば、カンボジア和平への交渉の機会と、北ベトナム軍の撤退とを、我々から
奪う事になる」
マンスフィールド上院議員は、「同じ条項をすべての法案に付す」と脅した。
それは、政府機能を停止させるものだ。私は妥協するつもりはなかったが、反戦
派は数を増やしていった。
6/30、私は法案に署名した。修正条項は次のようなものだった。「本法によっ
て支出を認められるいかなる資金も、合衆国によるカンボジア、ラオス、北ベト
ナム、南ベトナムにおける軍事行動に支出されてはならず、1973.8/15以降は、
他の法律に基づくいかなる資金も、上記の目的の為に利用されてはならない」
この敗北で、南ベトナムの安全保障は捨て去られ、ハノイは南ベトナムに対し
て何をしても良いようになった。
さらに議会は、戦争権限法を提出した。大統領は軍事介入に議会と協議する事
が求められた。さらに、協議後６０日間は議会の承認なしに介入継続ができる、
戦闘員の安全の為には３０日の追加介入が可能だが、その後は議会が宣戦布告し
なければ撤兵する、というもの。
10/24、ニクソン、戦争権限法に拒否権を発動。
11/7、議会、拒否権を越えて法案を可決。
議会の反戦感情は、インドシナにおいてのみ現われた。
1973.10/、第四次中東戦争において、イスラエル救出の為の大規模空輸、その
他の軍事行動については、議会の圧倒的な支持が得られた。
ベトナム戦争については、ハト派は激しく攻撃的になり、タカ派は温和しく口
を閉ざした。１９７３議会の反戦法案。これにより、北ベトナムはアメリカの報
復を恐れなくて済むようになった。それは、南ベトナムの安全保障を放棄するに
等しいものだった。
イニシアティヴはハノイが握っていた
北ベトナムはこの機に乗じた。
1973.10/、ハノイ、攻撃命令。第三次ベトナム戦争。
開戦とともに、すべての戦闘は南ベトナム領内で起こり、北ベトナムに対する
脅威は存在しなかった。軍備では南ベトナムが勝ったが、北ベトナムは停戦前の
布陣を崩していなかった。
ハノイは、サイゴンの防衛戦略を複雑にする為、ゲリラ戦術による非正規軍と、
通常兵器による正規軍との二つの軍を使った。
１９７３年間を通して、ハノイは南ベトナム領内に築いた戦力の再建に全力を
傾けた。この協定違反に煙幕を張る為、ハノイは狡猾にも、南ベトナム国民を共
産主義の旗の下に集めようとする政治攻勢や、あらゆる停戦違反は南ベトナムの
せいだと非難する国際的宣伝を繰り広げた。国際的宣伝は功を奏して、サイゴン
はルート攻撃をためらった。
この時期、ハノイは南ベトナム北部のクァン・チ省、ツア・ティエン省に石油
貯蔵施設を作り、サイゴン北方まで舗装道路と石油パイプラインを築き、無線通
信網を広げた。
さらに、ホー・チ・ミン・ルートの活用も、堂々と行われた。停戦前は、アメ
リカのルート攻撃があった。停戦後は、白昼堂々、トラックが兵器を満載してこ
こを通った。北から南に送られた兵力は75000で、残存兵力と合わせると17万に
なった。戦車は500両、重砲は250基に増強された。
この白昼堂々の侵略は、これまでのラオス＆カンボジア爆撃がいかに有効で、
議会決議がいかに悲惨だったかを物語るものである。
停戦後一年間で、ハノイは1972春季攻勢以前の軍事拠点を回復してしまった。
「サイゴンに対する援助削減こそ戦争を終結させるのだ」
北ベトナムの攻勢とは逆に、議会は南ベトナムへの軍事援助予算を削減した。
パリ和平協定では、南ベトナムが失った武器、軍備はアメリカが補填すると約
束されていた。反戦派議員は、この約束の履行を拒んだ。
対南ベトナム援助予算。
1973、22億7000万＄。
1974、10億1000万＄。
1975、7億＄。
反戦派は、我々の軍事援助が、「火に油を注ぐ」ようなものであり、サイゴン
への援助削減こそ戦争を終結させるのだと論じた。まるで、南ベトナムが北に侵
略しているかのような言い草だった。
インフレが、援助効果を縮小した。1974、南ベトナムではインフレ率が65％に
達し、兵士に支払う給料が不足した。石油は、1973、ＯＰＥＣ禁輸により、400
％も値上がりした。政府予算は、物価上昇額に併せて調整される事はなかった。
1974、南ベトナム軍は、弾薬使用について制限を設けざるを得なかった。かつ
ては十個支給された手留弾は、一個に減らされた。砲兵の発砲は、目的がはっき
り確認された場合に限られた。
1974.5/、南ベトナム軍、35％の戦車、50％の装甲車、それに航空機が部品不
足で立ち往生していた。タイヤ、電池のストックは基準以下になった。充分な燃
料をもって運用されている車両は、55％になった。
輸血用血液、抗生物質も不足した。医療用品の50％の品目が不足した。これは、
南ベトナム人の生命を危険に晒すものである。
1975予算審議に際して、サイゴン駐留ジョン・Ｅ・マレイ陸軍少将からの外電。
「最終的な分析だが、大まかに言って、支援を削減すればその分だけ真の財産を
失う事になる」 財産とは、同盟国のこと。
1974.9/23、24、上下両院、南ベトナムへの軍事援助を５億＄のみ承認。これ
は、南ベトナム政府がサイゴン周辺にすがり付くのがやっとと分析された６億＄
を遥かに下回るもの。かつてイギリスがポーランドを見捨てたように、議会は南
ベトナムを見殺しにしたのである。
議会の反戦多数派による無責任な決議
1974.8/9、ニクソン大統領、辞任。
ハノイは議会の決議をこう解釈した
パリ和平協定には、南侵に対するアメリカの報復と、アメリカの支援が銘記さ
れていた。そのいずれも、議会で覆されてしまった。
北ベトナムに取って平和とは、再軍備を進める事であった。
南コリアが、５万の駐留米軍なしに北コリアの攻撃を抑止できるとは、誰も思
わない。西欧が、30万の駐留米軍なしにソビエトの侵攻を抑止できるとは、誰も
思わない。イスラエルが、アメリカからの大量の軍事援助なしにアラブ諸国の攻
撃をかわせるとは、誰も思わない。なのに議会は、南ベトナムだけはアメリカの
支援なしで戦うべきだ、もしくは、南ベトナム国民は共産化を歓迎していると、
こう考えたのである。
ある上院議員はこう言った。「軍事援助を削減する事によって、今や交渉の時
だというシグナルを送るのだ」
ハノイの共産党政治局と参謀本部は、これを侵略への青信号と受け取った。
当時、南ベトナム領内に駐留していた北ベトナム軍司令官ヴァン・ティエン・
ドゥン将軍は、回顧録でこう語っている。アメリカからの援助の先細りを見て、
アメリカは、「国内および海外で困難に遭遇しており、自らが保護する国を政治
的、軍事的に援助する能力が、日に日に衰えている」と結論した。
ハノイでは白熱した議論が戦わされていた。レ・ジュアン共産党第一書記は、
「アメリカは南ベトナムから手を引いてしまったのだから、飛んで帰ってくるの
は難しいだろう」と結論した。
ハノイ戦争評議会、1975大攻勢を決定。
11/、ハノイ、南ベトナム駐留司令官に作戦命令。「敵の士気と砲撃能力は、
アメリカが援助を縮小した結果、今やごく僅かしかない」「我々は今や、1968テ
ト攻勢から1972夏までの間より、ずっと強大である。我々には、目下、広い範囲
に渡る前線で持久攻撃に着手する為に充分な資金と兵器と設備とがある」
1973、北ベトナム、ソビエト＆中国から280万ｔの兵器＆物資供給を受ける。
これは、1972より50％多いもので、明らかに協定違反。
1974、北ベトナム、ソビエト＆中国から350万ｔ以上の兵器＆物資供給を受け
る。
1974.11/、フォード大統領、訪中、訪ソ。輸出規制を求めるが、拒絶される。
ソビエト、中国は、当初、北ベトナムの再軍備を歓迎していなかった。そうな
ると、アメリカとの新しい関係を損なう為だ。しかし、1973.6/、アメリカ議会
のハト派強硬派が爆撃の可能性を根絶してしまってからは、それは理由にならな
かった。ソビエトや中国を侵略に向けて挑発したのは、アメリカ議会なのだ。
12/、ハノイ、18万5000の遠征軍を重装備。
1974.12/13、北ベトナム、牽制攻撃とともに、サイゴン北50マイルのフォク・
ロン省を攻撃。二個師団と戦車大隊、対する南ベトナム軍は地域軍が二つ。
北ベトナム軍、一日3000発の弾幕砲火。
1975.1/6、フォク・ロン省、陥落。
決戦前夜、だが、そのとき南ベトナムは……
我々の軍事援助７億＄は、同盟国だというのに、議会が輸送費や経費を支払う
よう求めた為、実質的には５億＄相当になっていた。南ベトナムが必要としたの
は弾薬だけで５億＄であり、陸軍は要求の50％、空軍は30％しか手に出来なかっ
た。
消耗した装備の保障も、履行されなかった。南ベトナムは58隻の船を失ったが、
１隻の補充もなかった。281機の飛行機を失い、補填されたのはセスナ８機だっ
た。部品の供給は途絶え、4000台の車両や飛行機が修理待ちで待機していた。
弾薬や医療品も不足した。包帯、注射器は洗って再利用するになった。
フォード大統領は議会に対して、南ベトナムへの３億＄の追加予算を要求した。
同様に、カンボジアへの２億2200万＄の追加予算を要求した。
南ベトナム軍に国土全域を防衛する能力は、もはや無かった
3/10、北ベトナム軍、中央高地ダルラク省省都バン・メ・トートを攻撃。歩兵
で5.5:1、北ベトナムが優勢。にも拘わらず、南ベトナム軍は勇戦。何百の死者
を出して陥落。＝第三次ベトナム戦争。
１９７５年４月、世界が見いだした答えとは？
3/12、アメリカ下院民主党総会、189:49でフォード大統領の追加予算要求を否
決。
3/13、上院民主党総会、38:5で下院決定を承認。
3/14、南ベトナム・チュー大統領、カム・ラン会議にて、新戦略、サイゴンと
メコン・デルタの防衛に専心。これは、中央高地の放棄を意味する。
中央高地からの撤退は、困難を極めた。19号線、14号線は北ベトナム軍が封鎖
していた。残る７Ｂ路線は、木材搬出用の旧道だった。
3/15、南ベトナム軍、撤退開始。プレイク、コントゥムの二都は大混乱。20万
を越す全住民が遅れまいと大挙脱出した為、悪路と混雑で行軍は大幅に遅れた。
3/18、北ベトナム軍、チェオ・レオにて、撤退部隊を攻撃。兵員、民間人を無
差別攻撃。チェオ・レオには死体の山が築かれた。
3/25、撤退部隊、海岸線に到達。１８大隊のうち、無事に辿り着けたのは３隊
のみ。
これは、チュー大統領の失策であった。この撤退は、早すぎた。戦略的撤退は、
好条件の下でも危険な作戦である。
3/19、北ベトナム領内正規軍、停戦ラインを突破。
クァン・チ省の住民、数千という難民となってユエを目指す。ユエの住民、10
0万の難民となってダナンを目指す。
ファミリー・シンドローム現象。南ベトナム軍兵士は、家族を駐屯地の近くに
住まわせる事が多かった。彼らが妻子の安全を確保する為に戦列を離れた。
3/25、ユエ、陥落。
北ベトナム軍35000、ダナンを包囲。
ダナン・パニック。200万以上の人々が、家族を探し、輸送機や輸送部隊を求
めて、路上を右往左往した。数千もの人が海に入り、艀や漁船にしがみ着いた。
3/30、タナン、陥落。
北部から撤退し、南部の防衛に専念するというチューの戦略は失敗した。成否
の鍵は、撤退が静かに行われるかどうかに懸かっていた。結果は、悲惨な撤退と
難民の流出に終わった。
カンボジア情勢。
3/16、アメリカ大使館、通常職職員の避難を開始。
クメール・ルージュ、プニンペンを包囲。
クメール・ルージュ、難民キャンプを砲撃。
4/16、プノンペン、クメール・ルージュに降伏。
ベトナム情勢。
4/4、サイゴン駐在アメリカ大使館、職員の引き揚げ。大使館は、南ベトナム
国民の闘志を持ち応える為、ぎりぎりまで引き揚げを延長した。しかし、その事
が、職員や家族は引き揚げても、協力的な南ベトナム職員の引き揚げを不可能に
した。
最後の数日間、あめりかのヘリコプターが、大使館の屋根と、沖合に停泊して
いるアメリカ船とを連続往復して何千もの人々を運んだが、しかしなお、幾千も
の人々が後に取り残されてしまった。
1974.9/-1975.3/、ハノイ、十二万の増援部隊を南ベトナムに派兵。
4/、さらに、5万8000の増援。
4/9、スァン・ロクでの死闘。圧倒的に不利な南ベトナム軍守備隊、猛烈な抵
抗の後に敗退。
4/10、北ベトナム軍の攻勢、南ベトナム全土に波及。
これを受けて、フォード大統領、上下両院の合同会議に対して、同盟国への緊
急援助を要請。7億2200万＄の軍事援助と2億5000万＄の経済および人道援助。
ある上院議員は、「撤退の為なら金は出すが、軍事援助はびた一文出さない」
と言い、また別な上院議員は、「アメリカ人を脱出させるなら良いが、ベトナム
人を助けるのと一緒にされては困る」と明言した。上下両院とも、反戦派議員に
よって牛耳られていた。大統領の要求は議場での票決を計る事なく、公聴会の段
階で消滅した。
4/15、スァン・ロク、陥落。
北ベトナム軍十二万、サイゴンを包囲。対する南ベトナム軍は三万。
4/21、チュー大統領、辞職。後継は、ズオン・ヴァン・ミン将軍。新大統領は
適との交渉を望んだが、拒絶。北ベトナム軍は征服のみを求めた。
1975.4/30、北ベトナム軍の戦車、サイゴン入城。機甲部隊は、大統領府の門
を破壊しながら入る。ミン大統領らは、捕虜となる。
1972大統領選挙の時、ジョージ・マクガヴァン上院議員は、米軍の撤退後、72
時間以内に南ベトナムは崩壊すると公言した。しかし、そうはならなかった。南
ベトナムは米軍撤退後も、ソビエト＆中国の後押しを受ける北ベトナムの侵略を
凌いだ。
アメリカのメディアは、南ベトナム共和国軍を臆病者として描いた。脱出用ヘ
リコプターにのすがり付いたり、難民と先を争って退却する様が繰り返し放送さ
れた。しかし、それはどんな戦争でも、どんな軍隊でも起こりうる事である。実
際の南ベトナム軍は、勇敢に戦った。1973、1974の二年間を通して、北ベトナム
軍に奪われた省都はひとつとして無かった。
軍事分析家は、一人々々を比較して、南ベトナム軍兵士の方が北ベトナム軍兵
士よりも優秀であると述べている。北の兵士は、幼くして親を失い、洗脳されて
戦場に送り込まれている。南の兵士は、家族を守る為、祖国を守る為に戦う用意
があった。
議会は、崇高な目的と勇敢な国民に背を向けたのであった。南ベトナムは、単
に、独立国として生きるチャンスが欲しかっただけである。南ベトナムの友人た
ちは、仕事を完成させる為の道具をくれと頼んだのだ。議会はそれを拒否した。
1975.4/15、ニューヨーク・タイムズには次のような見出しが躍った。「アメ
リカ抜きのインドシナ、大半がより良い生活」
この翌日、カンボジアは陥落した。反戦派マスコミは、インドシナ人民にとっ
て、アメリカが行う戦争ほどの災厄はないと断罪した。
1975.4/、世界はついに、答えを見いだした。
1974.2/より、国務省カンボジア専門官ケネス・クウィンはクメール・ルージュ
をこう分析していた。
彼らは、「全体主義社会革命」をもくろむ狂信者であり、あらゆる過去の伝統
は、「呪われたものであり破壊されねばならない」と見なし、「個々人を心理的
に改造する事が」必要で、それはすなわち、「個人生活を形成、誘導してきた伝
統的な基盤、構造、権力といったものを、恐怖その他の手段を用いて剥奪」し、
「それを党の教義に基づいた新しい価値観にとって代わらせて、人心を再構築す
る」事を意味した。
4/17、カンボジア、陥落。
同、クメール・ルージュの指導者ポル・ポト＆キュー・サンファン、プノンペ
ン市民300万の強制退去を要請。
300万人が、銃を突きつけられ、僻地に追いやられた。道端でぐずぐずしてい
る者は、射殺された。重病患者さえ、病院のベッドから追いやられた。新政府に、
反戦派マスコミが思い描いたような倫理や秩序はなかった。医師や看護婦が強制
されて、点滴をぶら下げたままの患者を病院から運び出す様は世界に放送された。
二万の負傷者は、着のみ着のままジャングルに放り出された。それは、死を意
味した。
同様の退去令が、カンボジア全土で行われた。続いて、危険分子の処刑が行わ
れた。クメール・ルージュ兵士は、軍人、役人、知識人、教師、学生、重病人を
見れば、即座にこれを殺して回った。
シェム・リアプでは、百人以上の患者がベッドで寝ている所を、ナイフや棍棒
で惨殺された。モンコル・ボーレイでは、入念に地雷を敷設した所へ、政府軍将
校200人をそこへ踏み入らせた。ドゥー・ナウイでは、一人の陸軍大佐が鼻と耳を
そぎ落とされ、三日がかりでなぶり殺された。処刑が終わると、犠牲者の妻子が
刑場に引き出された。
400万の市民が、「新しい村」を建設する為に国中に四散させられた。それは
村起こしの為ではなく、死人を増やす為の計画だった。環境に適応できず、数十
万の人が死んだ。ジャングルに送り込まれた彼らは、生き延びる為に、素手ひと
つしかなかったのだ。
カンボジアは、共産主義の勝利以前は、インドシナの米所だったのに、今や飢
饉を経験するようになった。通常市民は、一日500ｇから800ｇの米を必要とする
のに、僻地へ追放された市民への配給は一日90ｇであり、それも欠配し勝ちだっ
た。栄養失調と病気で、人口そのものが激減した。そんな中、共産党の役人や軍
人たちは、飢えに苦しむ国民を尻目に、肉や魚を好きなだけ貪っていた。
これは、独裁、腐敗と言われるロン・ノル政権を、どれほど醜く歪曲しても、
まだ似ても似つかぬグロテスクな悪政であった。
新しい村での生活は、開拓とは似ても似つかぬものだった。まったくのジャン
グルの中で、原始に戻って、食べ物をあさって回る暮らし。魚、蟹、かたつむり
等、少しでも人の口に馴染みのあるものは、すでに取り尽くされた。
藻、葉、木の皮、木の根、いなご、ばった、とかげ、蛇、虫、白蟻、等が主食
となった。ある地域の村人は、不用意に毒性の植物を食べて、吐血して、肌が黄
色くなった。
食べ物に不平を言うと、クメール・ルージュ官僚に処刑された。妻と夫が長話
する事さえ、処刑の対象となった。
公開処刑は、村の広場で村人全員を集めて行われた。打ち首、刺殺、撲殺、拷
問の様子などが、妻子を始め、全住民の見守る前で行われた。これは、ホー・チ・
ミンの土地改革時代のやり方と同じであった。このような儀式が、カンボジア全
土で何千回も繰り広げられた。
1975、1976、両年で、120万人が粛清された。テロの第一波で10万、祖国から
逃げる途中で２万、強制移動中に40万、新しい村での刑死、病死、餓死が68万。
1978.12/迄に、200万から300万のカンボジア国民が、自ら「解放者」と称する
者の手によって殺害された。
ベトナムの様子。
1975.4/、統一ベトナム、恐怖政治を開始。
統一ベトナム、サイゴン政府や軍の関係者を粛清。それは、地方でより頻繁に
行われた。
グエン・コン・ホァン（民族解放戦線のエージェントから、統一ベトナムの国
民評議会議員になり、1977年にアメリカに亡命した人物）の証言。「死者の数は
何万」
反戦マスコミは、チュー政権が腐敗していたと告発する。しかし、チュー政権
下では、報道の自由があった。腐敗は、曲がりなりにも告発された。信仰の自由
があった。国際監視下の選挙では、仏教系の野党が危うく勝利するところだった。
経済の自由があった。南ベトナムは、小さいながら繁栄した発展途上国になった。
南ベトナムには、テレビ局が３、ラジオ局が20、新聞が27紙あり、それらがすべ
て報道の自由を有していた。
そのすべてが、失われた。仏教徒は、ジェム政権よりも、共産主義政権の下で
の方が、より多く自殺している。経済は破綻した。テレビ局は１、ラジオ局は２、
新聞は２紙しかない。それも、政府のプロパガンダ機関になっている。
独裁政権と、全体主義と、たいした違いはないという意見もある。しかし、か
つての南ベトナムと統一ベトナムとを比べれば、昼と夜ほどの違いがある。
ハノイ政府は、国中に続々と刑務所を作った。サイゴン政府関係者のみならず、
すべての知識人が収容された。反戦運動を組織した仏教徒、反チャー勢力の指導
者、政府の腐敗に抗議したグループまでが収監された。民族解放戦線の闘士でさ
え、ハノイと意見が異なると刑務所送りだった。
統一ベトナム刑務所の独房は狭く、囚人は両手両足を鎖腐りで縛られた。それ
は禁固というより拷問に等しいものだった。大部屋は多くの囚人が過密に詰め込
まれ、眠る為には交替で横になる必要があった。小さな窓で新鮮な空気を吸うの
も交替で、足元では友が毎日死んでいった。
真正の共産主義者グエン・ヴァン・タンは、フランス統治下で15年、ジェム政
権下で８年、チュー政権下で６年、そして、ハノイ政権下でも投獄され、すべて
の時代の刑務所を比較する事ができた。「私の今の夢は、釈放される事でも家族
に会う事でもない。三十年前のフランスの刑務所に戻れたらと、切に願っている」
ハノイの刑務所には、今も20万から34万のベトナム人が収容されていると見ら
れている。ハノイの公式発表では、投獄されたのは５万人であるとされて来た。
しかし、1978年、ファン・ヴァン・ドン首相は、「100万人以上の囚人をキャン
プから釈放した」と発表して、かつての見解が嘘である事を暴露した。
さらにハノイは、刑務所とは別に、「新経済区」なるものを発明した。ここは
荒れ果てた原野で、刑務所に入れられた囚人の全親類縁者と、かつて裕福だった
人達が送り込まれた。そして、開拓や用水路づくりに従事させられた。100万の
ベトナム人がここに送られ、病気や栄養失調と戦わされた。
さらに、ハノイ政府はボート・ピープルを産み出した。
1978、中越紛争を受けて、ハノイは、ベトナムにいる華僑が将来の脅威分子に
なると判断。数十万人を組織的に追い立て、南シナ海の荒波へ追い詰めた。さら
に、数十万のベトナム人が、これに続いた。120万が集団脱出し、うち60万が溺
死したと見られている。
ハノイは、権力を確立するには、ベトナムという国家を崩壊させる必要がある
事に気付いた。グエン・コン・ホァンは語る。
「我々国民は伝統的に祖国に愛着を覚えている。ベトナム人はひとりとして、喜
んで家を離れたり、祖国や祖先の墓から去ったりはしない。もっとも抑圧的なフ
ランス植民地支配や日本統治時代でも、多大な命の危険を犯してまでボートを漕
ぎ出して逃げる者はいなかった。しかしながら、私の同国人たちが何千人も、そ
れもあらゆる地位、職業の人々で、多くの幻滅したヴェトコンまでが、ベトナム
から脱出し続けているのを、あなたは目の当たりにしている」
ベトナムとカンボジアの惨劇が伝えられると、反戦派議員も態度を改めた。マ
クガヴァン上院議員は、1974年には、カンボジア国民が「自分自身の紛争を解決
するよう放って置かれるべきだ」と発言した。1978.8/、になると、彼は国務省
に対して、「カンボジア政権を権力の座から叩き出す」べく国際的な力を結集す
るよう勧告する事を求めた。
寛大に眺めるなら、反戦派は、我々の敗北の後に何が起こるか予想できなかっ
た、という事になるだろう。しかし、それは判っている事だった。
1946、ホー・チ・ミンは何百もの民族主義者を殺害した。1954、彼が北ベトナ
ム政権を握ってからは、五万人以上の農民を殺した。これは、秘密でも何でもな
い。
民族解放戦線が、3万5000人以上の南ベトナムの地域指導者を暗殺し、一般市
民に組織的なテロを行使した事は、秘密でも何でもない。
北ベトナム軍がテト攻勢の際、ユエを占拠した一ケ月の間に5000人近い人を殺
害した事は秘密でも何でもない。
北ベトナム軍が、1972クァン・チ攻防時に逃げようとしていた非戦闘員を故意
に砲撃したのは秘密でも何でもない。クメール・ルージュが1973、1974と、プノ
ンペンの難民キャンプに砲撃を加えたのは、秘密でも何でもない。
反戦運動家は、これらの事実に故意に目をつぶっていた。彼らの独善的な態度
が、彼ら自身の道徳観を醜く歪めていた。結果、真実に対して眼を塞いでしまっ
たのだ。その真実とは、我々の行動、もしくは行動しない事による結末を、前もっ
て判断する事が道徳的責任の本質だという事である。
今日こそ、ベトナムとカンボジアを救おうとした我々の努力に、道徳的判断が
下される時だ。それは、我々がこれ以上道徳的な理由で戦った事はかつてない、
というものだ。反戦マスコミや、楽観的な予想は、かつてない貧困レベルだった
事を実証してしまった。
そこには、戦争よりも大きな悪が存在する
カンボジア駐在アメリカ大使ジョン・Ｇ・ディーンは、ロン・ノル側近シソワッ
ト・シリク・マタクに対して、渡米先を便宜しようとした。それに対して前首相
シリク・マタクは、愛する祖国で死ねないとしたら、それは悲劇だと辞退した。
彼は、クメール・ルージュによって真っ先に処刑された。
我々がベトナム介入から学ぶべき教訓は、軍事力の行使をためらえば、ホー・
チ・ミン、レ・ジュアン、キュー・サンファン、ポル・ポトといった悪魔が大手
をふるうという事だ。アメリカ以外にどんな国が、南ベトナムを救えただろうか。
共産軍は南ベトナムとカンボジアに平穏をもたらした。しかしそれは、墓場の
静にけさだった。
第六章 第三世界戦争
ラオス、カンボジア、ひとつひとつドミノが倒れていった
サイゴン陥落は、モスクワの勝利であった。ベトナム以降六年間、アメリカの
新孤立主義者は「ノー・モア・ベトナム」を謳い続けた。その間に、ラオス、カ
ンボジア、モザンビーク、南イエメン、ニカラグアが失われた。
1981、レーガン大統領が政権に就いて、自由主義圏の敗北は納まっている。し
かし、エルサルバドル政府への援助や、ニカラグア反共勢力への援助の際に、ベ
トナムの亡霊は依然として付きまとっている。
事実上、行われているのは、ソビエトが衛星国を増やす第三世界大戦なのだ。
我々は同盟国や自由主義諸国に対して、堂々と救いの手を差し延べる為にも、ベ
トナム・シンドロームという病に麻痺した自身を浄化しなければならない。
我々は、第三世界に関与しなければならない。世界人口の三分の二は、アジア、
アフリカ、中東、南米に住んでいる。アメリカと第三世界との貿易量は、西欧と
日本とを併せた額に匹敵する。
我々は関与しなければならない。弾圧的な全体主義政策を押し付けられる何百
万もの人々を傍観するのは、不道徳の極みである。また、今日の平和を脅かす脅
威は、つねに第三世界から発している。
平和を脅かす脅威として、もっとも起こりそうにないのが、ソビエトによる西
欧への核攻撃である。ソビエトはヨーロッパでは、ヘルシンキ協定で定められた
国境線を尊守している。しかし、第三世界では依然として、いわゆる「民族解放
戦線」を支持している。
クレムリンは第三世界での革命を誘発・支援し、そのテコ入れで成立した政権
が当然のように経済破綻するのに何十億ルーブルもの助成金を注いでいる。アフ
ガニスタンについては、反革命勢力を潰す為に実戦部隊を投入しているが、それ
以外では一兵たりとも動かさずに九つの国を取っている。
朝鮮戦争では、在来型の攻撃により、自由主義諸国の団結の強さが証明された。
ベトナム戦争では、中国とソビエトの支援の下に、南ベトナム国境内でゲリラ
戦が行われた。
キューバ、ニカラグアでは、ソビエトは「解放闘争」を支援する風を装い、革
命運動を助長した。
アンゴラ、エチオピアでは、ソビエトはキューバ軍という代理部隊を投入して
勝利した。
エルサルバドルでは、ベトナムと似た手法が用いられた。キューバ、ニカラグ
アの支援の下、大衆の支持もないゲリラ部隊が勢力を伸ばしている。
第三世界の紛争にいかに対処すべきか。我々は勘違いしてはならない。
経済援助だけでは、正しくない。1947、トルーマン政権でギリシア、トルコへ
の援助が決まった時、「武器ではなく食糧を送れ」という世論が圧倒的だった。
ソビエトの支援する共産ゲリラの脅威の前に食糧だけ送っていたら、今日、ギリ
シアもトルコも共産主義国になっていただろう。
外交交渉を無邪気に優先する主張もある。しかし、軍事力の裏付けのない外交
は成功しない。カーター政権はイランの人質事件に際して、最初に武力行使を除
外したが為に交渉力を弱めてしまった。
ソビエトを抜きにしても、我々は第三世界に関与すべきである。イランのホメ
イニ革命は、ソビエトとは何の関係もなく起こされたが、パーレビ国王が追われ
た時、我々は中東のもっとも強い同盟国を失ったのだ。パーレビ政権が健在なら
ば、イラン・イラク戦争は起こらなかったし、ソビエトのアフガニスタン侵攻も
無かっただろう。ソビエトは、すべての革命や政変の背後にいる訳ではないが、
何がしかの変化の後に、果実を手に入れるのはソビエトなのだ。
ソ連の攻勢に対する、三段階の戦略
ベトナム後のアメリカ国民は、第三世界での紛争介入を渋るだろうとの思いか
ら、私は「ニクソン・ドクトリン」を作成した。
これは、第三世界の紛争に主要国が参戦しない限り、アメリカは戦闘部隊を投
入しないと規定したものである。我々は軍事的・経済的援助は与えるが、実際に
戦場に立つのは当該国の責務である。思えば、ベトナム化政策は、50万もの兵を
送り込んでからではなく、戦争初期に着手すべきだった。
第二の戦略は、軍事訓練について。当該国の軍隊は、正規軍としてのみならず、
対ゲリラ戦術をも併せて訓練しなければならない。
第三の戦略として、国内世論の取りまとめがある。自由主義者は政府に対して、
右翼独裁者との結び付きを断つよう求めている。マスコミは、政府が、極悪の人
権侵害者と手を結んでいるかのように報道する。しかし、どんな物差しで計って
も、もっとも弾圧的なのは共産主義政権である。バチスタよりカストロ、チュー
よりレ・ジュアン、ロン・ノルよりポル・ポトの方がひどい。これを擁護するの
は、ゴミ溜めより暗黒が、殴られるより殺される方がましだと言うようなものだ。
自由の闘士たちへの支援、その成功と失敗
ソビエトが、自由主義圏で「解放」勢力を支持するなら、我々も、共産圏で真
の解放勢力を支持する権利がある。
ニカラグアで、首席サンディニスタがエルサルバドル内のゲリラを支援する限
り、我々はニカラグアの反政府勢力を支持すべきである。ニカラグアがそれを打
ち切った時、我々と反政府勢力の立場は難しくなる。反政府勢力への支援は、彼
らの最後まで見届ける覚悟で行うべきだろう。
グレナダ作戦は成功裡に終わった。人質のアメリカ人を救出し、カリブ海に新
たなソビエトの基地が作られるのを防ぎ、サイゴン陥落以来の無力感を払拭した。
イスラエルも重要である。イスラエルは小国で、資源も少ない。しかし、ソビ
エトがイスラエルの敵に対して無制限の武器供与を行っている事は無視できない。
インターナショナル・テロリズムに断固たる態度を
ソビエトやその代理は、しばしばテロを行使する。我々がレバノンからの撤退
を余儀なくされたのは、どの国に負けたからではなく、自殺的なテロ集団の為で
ある。
ソビエトが国際テロリズムの火に油を注いだ記録はよく知られる。しかし、今
や、ホメイニも、カダフィも、テロを公然と称賛し、保護し、激励する。
軍事制裁が駄目なら、経済制裁、外交制裁で、世界は協力すべきである。世界
中の人々がテロの標的になりうるが、リビアも、イランも、石油を売らなくては
生きていけない。テロ支援国もまた、テロの犠牲者に依存しているのである。
すべての場所を防衛しようとする者は、何も守れない
カダフィのチャド侵攻は、我々の問題ではなく、フランスの問題だった。しか
し、ベトナムはそうではなかった。
1976、クラーク修正法は、アンゴラの自由の闘士への援助を禁止した。それは、
ソビエトのアンゴラ進出に青信号と映った。
1982、ボーランド修正法は、ニカラグアの反政府勢力への支援打ち切りに道を
開くものとなった。
戦争権限法や、大統領の裁量を制限する法律は、我々の弱腰を長引かせている。
アメリカは、その国の人権が我々の基準に合わなくても、共産主義の脅威と戦っ
ている国を支援する義務があるのだ。
共産主義者は、勝利を収めた時点で敗北する
我々は革命ウィルスの流行を防ぐべきである。共産主義は、勝利の翌日に敗北
する。社会主義は、もはや作動し得ないものだ。
ｗｗ２直後には、共産主義は第三世界で魅力を持っていた。しかし、今やごま
かしは利かない。それは平和を約束して戦争を産み、解放を約束して専制を産み、
正義を約束して不正を産み、進歩を約束して貧困を産み出す。共産圏の伸長は武
力によるものであって、思想ではない。
しかし、第三世界に住む３５億の人々は、未だ貧しい。彼らはスケープゴート
を求める。第三世界が貧しいのは、植民地主義のせいだとか、多国籍企業のせい
だとか言う。本当は、こうだ。ｗｗ２後に独立した国々は、不正な国家だった。
スカルノ、エンクルマといった独裁者は、国民の上前をはねた。社会主義思想は、
インフラ投資を妨げて、貧困の平等政策を敷いた。
第三世界の民衆は、何世代も続いた貧困と不正と腐敗を取り除く改正を、要求
する権利がある。我々は共産主義者に先立って、これを助け、同時に我々の利益
とする事ができる。
過去四十年間、ソビエトは夢を売って第三世界の支持を勝ち得ていた。対する
アメリカのカードは、金と民主主義だ。不幸にしてお金は、社会基盤を整備する
より、盗まれたり浪費されたりする方が簡単である。独裁者が私腹を肥やすのを
尻目に、民衆はソビエトの約束する未来を信じた。
ｗｗ２以降、アメリカは同盟国と第三世界に対して、1600億＄の対外援助を行っ
た。それに対してソビエトは、200億＄しか援助していない。これは、マルクス
主義は貧者の味方という神話が、いかに高いブランド力を持つかを示している。
この気前の良い対外援助も、議会の手によって削減傾向にある。現在、アメリ
カの軍事費はＧＮＰの７％であるのに対して、対外援助は１％のそのまた五分の
一に過ぎない。我々は、決して行われる事のない戦争に備えて、現に負けつつあ
る戦争に勝つ為の有益な投資の35倍を投じているのだ。
西側先進国の多くの人々が、対外援助には価値がないと結論している。援助の
ほとんどは浪費され、ひも付きでない援助はその傾向が強い。しかし、政府間援
助は民間投資の地盤を固め、ひいては経済成長の基盤となるのだ。
どんな対外援助をしても、第三世界に対してエゴな貿易政策をとれば、それは
台無しになる。第三世界のある国が製品を輸出するとそれに関税をかけ、原料を
輸出すると関税をかけないとすれば、その国の経済成長を阻害している事になる。
我々は外交政策については超党派を復活させねばならない。ギリシア・トルコ
支援、マーシャル・プラン、日本の再建は、超党派の構想であった。ベトナム戦
争で失われた最大のものは、超党派外交である。ハト派は、革命や解放といった
言葉をよく検証すべきだし、タカ派は軍事力への盲信を慎むべきだ。
貿易、対外援助、借款などの政策は、アメリカ外交政策の利益に奉じるよう調
整されねばならない。
日本が防衛費をＧＮＰの１％に留めている政治事情は理解できる。しかし、世
界第二の経済大国として日本は、その分を第三世界への経済援助に回すべきであ
る。
戦わずして平和を得る事は不可能である
国力とは、資源よりもマンパワーである。その国民の意志の力である。アメリ
カ人は、世界舞台での役割を担う事が嫌いではないが、ベトナムがその意志を挫
いたのだ。しかし、アメリカは大国である。大国たるものは、いつも勝つとは限
らないという事実を受け入れるくらい、成熟していなければならない。敗北は、
諦めさえしなければ、致命的ではない。
楽観主義、同情、意気軒高こそ、アメリカ国民の気質である。
ウッドロー・ウィルソンはこう言った。我々は、「戦争を終わらせる為の戦争」
を戦い、「民主主義を守り世界を安全にする」為の戦争を戦っているのだ。
1941.1/6、ローズヴェルト大統領は、四つの自由を訴えた。すなわち、言論の
自由、信仰の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由である。
歴史を通じて、アメリカの大統領は、国民に対して世界的な目的を共有する事
を求めてきた。
トーマス・ジェファーソン、「我々は、ひとり我々の為ではなく人類全体の為
に行動する」
リンカーン、「我々は、地球上の至上の希望を高潔に守るか、卑しく失うかの
どちらかだ」
セオドア・ローズヴェルト、「国民として第一の義務は合衆国に対して負うが、
もし我々が己の信条に忠実であるなら、人類全体の利益の為に奉仕する事も考え
るべきだ」
ウッドロー・ウィルソン、「愛国的アメリカ人というものは、星条旗が、彼自
身と同様、他国民にとっても、希望と自由の象徴となるほど誇らしい事はない」
アメリカ国民に取って、他国民の為に世界を安全にする事は偉大な目標である。
ベトナムでの敗北は、一時的な後退に過ぎない。「ノー・モア・ベトナム」とい
う言葉は、行動しないという意味にもなり得る。しかし、「ノー・モア・ベトナ
ム」という言葉は、二度と失敗しないという意味で使われるべきだ。
あとがき
著者あとがき
これは私の六冊目の著作であり、特に感情のこもった本である。
1984.12/31、ニュージャージー州サドルリバーにて。
訳者あとがき
ニクソンは第三世界戦争なる造語を行った。実際、ｗｗ２以降、四十年間で、
120の戦争があり、1000万の犠牲が出たが、1947ギリシア、1982フォークランド
を除けば、すべての戦争が第三世界で戦われた。
十年置きに世界史を見よう。
1885、天津条約。
1895、三国干渉。
1905、ポーツマス条約。
1915、対華２１箇条要求。
1925、ロカルノ条約。
1935、伊、エチオピア侵攻。
1945、ｗｗ２終結。
1955、西ドイツ、ＮＡＴＯに参加。
1965、北爆開始。
1975、ヘルシンキ宣言、ヨーロッパの現状固定。
1985、米ソ首脳会談。
デタントとは、ピストルの撃鉄を起こした状態をさすフランス語で、目的では
なく過程である。
ヘルシンキ宣言で、アメリカはデタントが世界的潮流であると信じた。しかし、
ソビエトに取っては、３５ケ国以外の地域でのフリーハンドを得る切符であった。
1975.7/30、ヘルシンキ宣言、ヨーロッパ３５ケ国の現状維持。これは、統一
ドイツの動きを恐れたソビエトが言い出したもの。
1972.5/、ＳＡＬＴ−１、米ソ戦略核協定。
1973.6/、ブレジネフ訪米、核不戦協定。
以上の流れで、アメリカはデタントを世界的潮流と勘違いした。
1973、第四次中東戦争。エジプトの先制攻撃を知りながら隠したのは、アメリ
カに取ってはソビエトの背信だが、ソビエトに取っては単なる協定地域外での紛
争。
1975、1976、ソビエト、アフリカ諸国に浸透。
カーター政権、ソビエトの両面外交を批判するものとして人権外交を打ち出し、
失敗。
ソビエト、アフガニスタン侵攻。
レーガン政権、「デタントは一方的にソビエトを利するだけ」と批判。強いア
メリカを目指す。
大蔵省官吏の、四つ年下の弟と共訳。ベトナム戦争については、「キッシンジャ
ー、激動の時代」がお勧め。
目次
白眉は、
ドミノ理論 友邦フランスを助けるか、帝国主義に手を貸すかのジレンマ。
ホー・チ・ミン ホー・チ・ミンとフランス帝国主義の蜜月時代。
ゴ・ジェン・ジェムの履歴 ホーも認める、その政治手腕。
戦争を誤認したアメリカ 北の侵略を、南ベトナムの内戦と見誤った。
もし、ラオスが… ラオス、カンボジア内に広がるホー・チ・ミン・ルート。それは、単なる補給路ではない。
仏教徒の危機事件 仏教弾圧はデマ、これを真に受けたケネディ政権はジェム暗殺を容認。
戦争の主役は合衆国へ ジョンソン大統領は事態を隠蔽しつつ関与を拡大した。
テト攻勢 テト攻勢は緒戦のみの勝利だった。さらに、計画的なユエ虐殺。
はねつけられた和平提案 ホーの死後も、北ベトナムは強硬姿勢を崩さなかった。
北ベトナム軍によるカンボジア攻撃 戦火の拡大は北ベトナムによるもの。さらに、シアヌークの日和見。
クメール・ルージュの大虐殺 ２００万人の犠牲が。
もっとも優れた若者はカナダに 反戦運動を指揮したのは新左翼だった。
消耗戦から平定化へ 南ベトナム軍の自助努力を期待し、国力の増強を計る。
北ベトナムによる攻撃 北から、カンボジア領内からの攻撃。
停戦後、ハノイの協定違反 国際協定違反は、常識。
関係改善を望んだ中国 中国の接近。対して、アメリカ議会は南ベトナムを見捨てた。
ハノイの解釈 北ベトナムの攻撃再開。
１９７５年４月 ベトナム、カンボジアの惨劇。
寸評
ベトナム戦争は誤って報道された。報道は、北ベトナムの戦略だった。アメリカは、敵に踊らされた報道、風潮によって敗北した。
私は４４才にして、この認識を得ました。訳者の宮崎緑さんは、２８才にして、今から２０年前に、この認識を得ていたのです。今はどんな活躍をなさっているだろうと検索すると、何やら、普通の文化人ネーサンになっているようで、ちょっとがっかりです。
コンドリーザ・ライスみたいになれば良かったのにィ。