グレイ・ラビット

グレイ・ラビットのおはなし

　　アリソン・アトリー著、石井桃子、中川李枝子訳、岩波書店、1995。

第一話　スキレルとヘアとグレイ・ラビット

　森の外れのグレイ・ラビットの家。灰色うさぎのグレイ・ラビットを中心に、友人と紹介されているが、内容的にはほぼ長男役の野うさぎのヘア、おなじく長女役の木鼠のスキレルが暮らしている。
　高慢で怠け者の子供ふたり、謙虚で働き者のグレイとの対比。
　イタチを恐れて配達の遅れた牛乳屋のハリネズミ、それを労わるグレイ、遅れた事を責めるスキレル。
　ベッドの手入れをするグレイ、ラシャガキ草のブラシを要求するスキレル、レタスは飽きた、ニンジンでなきゃ食べないと駄々をこねるヘア。
　危険を犯して人の畑でニンジンを取るグレイ。レイキの攻撃。
　夜の外出。露の降りた草の上、そこら中から立ちのぼる、たくさんの甘い匂いで、グレイ・ラビットの小さな鼻はぴくぴく。
　森の賢者フクロウにニンジンの作り方を教わるグレイ。フクロウはその代わりに、グレイのしっぽを所望する。
　しっぽを無くしたグレイ。恥ずかしい事だと責めるヘアとスキレル。
　教え通りに、村のよろず屋でたくさんの種を盗んで来るグレイ。
　帰宅すると、ヘアとスキレルは居ない。イタチの足跡。
　イタチ宅、外で薪を集めるイタチ。その隙に、袋の中からヘアとスキレルを放すグレイ。二人は二階から外へ逃げる。椅子を持って袋に潜むグレイ。
　オーブンに火を着け、袋を棒で叩くイタチ。袋を開けるなり、椅子でイタチを押し出し、オーブンに閉じ込めるグレイ。
　先に帰宅したグレイ、あとから駆け付けた二人。今までの態度を詫びる。
　ニンジン、アカカブ、タマネギの収穫。

第二話　しっぽを取り戻すグレイ・ラビット

　早朝、陽は昇らず、空には小さな星がひとつ。「小さいラビットの為の、蝋燭のよう」とグレイ。
　ヘアの風邪を治す為、プリムローズの花を摘むグレイ。
　モグラのモルディと話すグレイ、皆がしっぽを無くした事を気の毒がっている。そのしっぽは、フクロウの家の呼び鈴になっている。
　三人でプリムローズ酒を作るグレイ家の様子。樽に花びらを入れて、ついでハチミツ、ついてカタバミの汁。樽は庭に埋めて、24時間たったら出来上がり。
　スキレルのしっぽにブラシをかけてやるグレイ。
　部屋中に漂う甘い香り。酒を飲んで、もう風邪は半分治ったようだとヘア。
　白いハンカチを振ってフクロウ宅に近付くグレイ、酒を振る舞う。しかし、しっぽを返して貰うには、別の鈴がいる。
　銀貨を持って来たモルディ。必要なのは鈴と聞いて、引き返す。
　黄色いよそ行きの服に、青い靴を履くスキレル。
　村のよろず屋の鈴に飛び付き、弾みで鈴ごと落ちるスキレル。自分と同じ程の鈴を抱えて走る。この木鼠一匹に村は大騒動。
　鈴は大き過ぎて、フクロウにはね付けられる。
　しょんぼり帰宅するグレイとスキレル。来合わせたモルディ、手には打ち治した銀の鈴。
　しっぽを返すフクロウ、酒とねぎらいの言葉を受けるモルディ。

第三話　ヘアの大冒険

　美しい夏の朝。草原では、ちぎれ雲の影法師が駆けっこをしている。
　遠出をするヘア。
　うっかり、フクロウにトネリコ森への道を聞いたが為に、上着のボタンをちぎられるヘア。
　小さいウサギに囲まれて得意げなヘア。
　山沿いの道で、赤い上着の紳士に会い、帰りに再会する約束。
　トネリコ森のヒキガエルの家、ここが目的地。グレイ・ラビットの使いで、手動の泡立て器をプレゼントする。沼の中で使うと、水がレモネードになる。クリームはバターに、噴水から虹を作る。
　お礼にワインと食事。さらにグレイには靴、スキレルにはフルート、ヘアにはナイフのプレゼント。おまけに毒薬。
　帰り道で待つ、赤い服の紳士。実はキツネ。ヘアと同じ大きさの鍋を用意して待っている。
　香水と偽って毒薬をかがせて逃げるヘア。
　小さいウサギ達にトネリコの枝、家族へのプレゼントは忘れず。

第四話　ハリネズミのファジー坊やの話

　ハリネズミ一家の朝、針に絡まるシーツ。
　乳搾りに出かけるハリネズミ、ついでその配達。グレイ、モルディ、ラット、アカリス。息子の誕生日と言うと、みな卵をくれる。
　卵で遊ぶハリネズミ親子。
　マムシが入って大騒ぎの鶏小屋、ハリネズミがマムシを退治して英雄になる。ライオンだって押さえられると息子に話すハリネズミ母さん。
　毎朝、卵をくれるようになった鶏。お礼にケーキを持って行くファジー坊や。帰りはテンがいるので、森を避けて村の道を通る坊や。
　飼い犬に襲われるファジー坊、相手をライオンと勘違いする。健闘するが、農家の子供に捕まる。
　ナメクジ退治の為に、野菜畑に置かれ、大きな植木鉢を伏せられて逃げられないファジー坊。
　心配する家族。ペンにする羽根、卵、牛乳と引き換えに、フクロウに捜索を依頼する。
　フクロウの聞き込み捜査、テン、ラットに次いで飼い犬で感触を得る。野菜畑の植木鉢を発見。
　ハリネズミ夫婦、グレイ一家、モルディらによる救出。
　卵、焼きドングリ、バラのジャム、リンゴのサイダー等の振る舞い。

冒頭まるごと引用

　毎朝、小鳥たちがさえずり始めると、グレイ・ラビットは、屋根裏部屋のベッドから跳び起きて、下の台所に駆けおります。それから、薪小屋に薪を取りにいき、火を焚きつけると、つぎに、前庭を流れている小川から、やかんにいっぱい、きれいな水を汲んできます。
　お湯の沸く間に、ラビットは、台所の床を掃き、埃を払い、小さい椅子を三つ、テーブルの回りに並べて、青と白のテーブル掛けをかけます。
　それから、食器戸棚の上に載っている缶の中の、ドライ・ヒナギクの花を土びんに入れて、お茶を作りました。
　さて、そうした事が済んだあとで、グレイ・ラビットは、スキレルとヘアを呼ぶのでした。
「スキレル、起きなさい！　ヘア、ヘア、朝ご飯の支度が、できたわよ」
　ヘアとスキレルは、眼をこすったり、耳をもぞもぞさせたりしながら、のろのろ、下に降りてきました。
　でも、もうその時、グレイ・ラビットは庭に出て、レタスを摘んでいました。そして、家に戻ってくると、ヘアのお皿にひと盛り、スキレルのお皿にひと盛り、自分のお皿には、ほんの少しのせました。それから、テーブルの真ん中には、木の実の入った鉢と、スイカズラのジャムの、たっぷり入った壷を置きました。
「おはよう、グレイ・ラビット」と、ヘアは、あくびをしながら言いました。「何だい、またレタスか。いや、まったく、朝ご飯には、何かほかの物を考えてくれなくちゃ、困るなあ」
「おはよう、グレイ・ラビット」と、スキレルも言いました。「牛乳は、どこ？　牛乳を飲まなくちゃ、あたしの一日は、始まらないってこと、知ってるでしょ」　グレイ・ラビットはうなだれて、こたえました。
「まだ来ないのよ」
「チッ、チッ！」と、スキレルは舌打ちをしながら、叫びました。「また、遅れたの？　ほかの牛乳屋に、かえなくちゃ」
　でも、スキレルは、そんな事はできない事を知っていました。雌牛の牛乳を搾れる者は、このあたりには、たった一人しか居ないのです。

寸評
　謙虚で働き者、まわりに優しいグレイ・ラビットが、怠け者で文句ばっかり言っているヘアやスキレルとの対比で浮き彫りにされる。話が進むに従って、ヘア、スキレルも成長し、その分、グレイの健気さの印象が薄れるのは残念。

ピーター・ラビットとグレイ・ラビット

　類似のピーター・ラビットの方が先輩。グレイは後出。兎、木鼠、がま蛙の扱い、絵柄に類似性あり。ただし、自然描写、キャラクターの活力に置いて、グレイにもオリジナリティがある。

ピーター・ラビットとグレイ・ラビット比較年表

1866.7/28 ベアトリクス・ポター、ロンドンに生まれる。
1901　「ピーター・ラビットの絵本」出版。
1902　「グロスターの仕立て屋」
1903　「りすのナトキン」
1904　「ベンジャミン・バニー」

1884.12/ アリス・アトリー、北イングランドに生まれる。
1929　「グレイ・ラビット」出版。
1930　「いかにして、しっぽを取り戻したか」
1931　「ヘアの大冒険」
1932　「ハリネズミのファジー坊や」

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