どのアメリカが怒っているのか（九つのアメリカ）
ジョエル・ガロー、石川好、季隆、徳間書店、1990、
エコトピア
西海岸北部、アンカレジ、バンクーバー、シアトル、サンフランシスコ、自然
保護のユートピア、かつ軍事産業のメッカ、
シリコンバレー、豊富な水力を利用したアルミ精練、半導体産業。カリフォル
ニアは日本の一部。
メックスアメリカ
中南部、ロスアンゼルス、サンディエゴ、サンタフェ、アルバカーキ、ツーソ
ン、エルパソ、メキシコ国も含む。
ロスはメキシコシティに次いで世界で二番目にメキシコ人の多い都市。そもそ
もメキシコの土地、移転したのは民族ではなく国境の方。
ディクシー
南東部、ダラス、ヒューストン、ニューオリンズ、メンフィス、ナッシュビル、
アトランタ、
安い人件費で工場が移転、
アイランズ
マイアミ、ハバナ、サントドミンゴ、カラカス、麻薬と中南米貿易、
ニユー・イングランド
北東部、セント・ジョーンズ、ボストン、ポーツマス、
木工所や紡績工場跡を住宅やアトリエにする。歩いて移動するのに良いボスト
ンの街。
ファウンドリー
五大湖周辺、シカゴ、ミルウォーキー、デトロイト、トロント、ピッツバーグ、
都市再開発計画、区画ごとの買い取り。バルチモアのニューディール・バー、
麻薬、犯罪、売春が横行、強姦や殺人も頻発。それが改装されて営業。「私達住
民が当時そこで見たものは、ひとつのコミュニティがスラムに転落してゆく過程
でした。戦争が終わると、多くの家族がそこから出てゆき、アパート街になって
しまいました。それから、市と州がメリーランド大学の拡張の為にこうした建物
を接収し始めたんです。あちこちの建物の窓に板が打ち付けられました。これが
始まると、もう、あとは一直線です。犯罪が増え、万事が悪い方に傾き始めまし
た。」
所感、再開発はめったにやるもんじゃない。やるとしたら区画全体。空き家が
増えると商売は成り立たない。生かしながらの再開発は難しい。街の活気は住民
が支えるもの。無理に計画を押し付けては、活力を殺す。集合住宅を好む人間は、
コミュニティの形勢、文化や尊厳の育成に協力的でない。破壊的で、無責任であ
る。
1864、ベッセマー工程による熔鉱炉、
不景気なデトロイトを捨てて南部へ。
エンプティー・クォーター
中部西部、ラスベガス、デンバー、ソルトレーク・シティ、カルガリー、アン
カレッジ、
原油とガス、ジレット症候群、人口の急増に対応できない。
ブレッドバスケット
中部、ウィニペグ、ミネアポリス、スプリングフィールド、アマリロ、
大平原、三百エーカーの土地を耕して、二万五千ドルの年収が良い所。それで
いて土地高。農産物の価格カルテルを提案、アラブ諸国やソビエトの食糧事情を
直撃。また、ボーキサイトや銅の輸出国が報復に出る。ポーランドやエジプトの
食糧を支える。
ケベック
北米のフランス、水力発電、長い不遇時代。ハイドロ・ケベック発電公社がケ
ベック人のプライドを支える。メキシコの国有石油会社ペメックスと事情が似て
いる。アングロサクソンから資源の支配権を取り戻した。
寸評
日本の輸出超過でアメリカが怒っていた頃に出された本です。シカゴの製鉄、デトロイトの自動車、
といった歴史と伝統があり、アメリカの文化とも言うべき基幹産業が、日本の輸出で寂れたのでは、怒って当然です。
でも、それ以前に、ビッグ・スリーの支配、新興の抑圧などが国家ぐるみで行われていた事は、
映画「タッカー」等で見る通りです。