黒いランプ
ピーター・カーター、犬飼和雄、ぬぷん児童図書出版、1979。
ラッドとは誰だ
1803、僕ダニエルはランカシャーのロセンデイル谷、ヘルムショウ村に生まれ
た。州都マンチェスターの北部。父はジョージ、妹はエマ、母は死亡、当時は英
仏戦争の真っ最中。
父は腕の良い織工、戦争景気。
ある日、胸にサンザシの花をさしてロビンフッド亭に集まる村人達。竜騎兵の
警戒、馬車で護送される囚人。
「ラッドがあんたを助けてくれるぞ」との声。
その囚人は、機械を壊したボルトンの織工。
クランリーの工場
機械に職を奪われる織工、戦後、手のあいた兵が村を警戒して回る。
谷間に建てられた、クランリーの紡績工場。教会から厄介払いされた孤児達が
そこで働かされている。
父の批判、奴隷売買のリバプールの商人のようなもんだ。
黒い煙
醜いクランリー、若い頃は職を転々とし、どこで元手を手に入れたかは不明。
道で出喰わしたダニエルとクランリー、その犬にもひるまないダニエル。クラン
リーはジョージ宅を訪れ、息子さんを雇いたいと申し出る。
水門が襲われた
犬猿の仲なのに、どうして自分を機械工にしたのか。まだ判らないダニエルは
十二才。親方ブルームはバーミンガム出身、何かにつけワット工場の事を口に出
す。孤児に同情的。
機械は水力で動いている。水門に傷痕。
フレッチャー大佐とクランリー、蒸気機関の導入を相談する。有頂天になるブ
ルーム。
どうして俺達は議員になれないんだ。この谷を代表しているのは、デボンシャ
ー公爵の息子だ。そいつは、顔も見た事がない。と父の嘆き。
黒いランプ
深夜の訪問者、同志ジョン、合言葉は黒いランプ。
大男と小男、親指と小指を重ねる合図。パンとチーズと薄口ビールの食事。
大男の手首に腕輪のようなものが光る、暖炉の火に映えててらてら光る手首。
それは、手錠の跡だった。
戦後の重税、織工達の為にハムデンクラブを作る。その呼び掛け人が、小柄な
男バンホード。
往年の父、スペン谷にいた時、秘密結社「黒いランプ」に入った。今のは当時
の仲間。政府は結社に犬を送って、組織を潰した。
戦争は終わったが
英ウェリントンとプロシア軍の勝利。ボルトンの金持ち連中は、パイやカスタ
ードを腹一杯に詰め込んだ。
ナポレオンは一般の人々に政治参加の機会を与えた。ネイ、スール、マーモン、
マセナ将軍がそうだと言う父。
ビール、パン、肉に税金。窓にも税金。僕たちは二度と立ち上がれず、永久に
四つん這いになっていなければならないようだった。
かつて織工は呉服屋に布を売ったあと、呉服屋と一緒に酒を飲んだものだ。今
では話をするのに帽子を取るようになってしまった。かつて誇り高かった織工が、
今ではクランリーのような奴にぺこぺこ頭を下げているのだ。
反物を背負ったまま、ボルトンから帰った父。在庫が裁き切れないと言うのは
嘘で、ボルトン商人とマンチェスター商人が手を結んで値切っているのだ。
息子に金を借りる父。父にとっても、息子にとっても、嬉しい事ではない。
村で百を越すケイレブ爺さん、その可愛いがっていたビリーが死亡、その葬式。
村人の葬列と道を争う竜騎兵。何とか道を譲る村人達、その後にやってきた馬車。
その馬車の中は、クジャクの首のように明るく輝いていた。赤いしゅす、礼服を
着た四人の紳士、髪粉で輝いたかつら、つやつやの顔、クリスタルグラス、紫色
の酒。あまりの豪華さに、茫然とするダニエル。
父の秘密
村にハムデンクラブを結成する父。
中国の皇帝のように、傲慢不遜なフレッチャー大佐。
孤児を虐待する監督バーンズ、溜まらず金属片を機械の真ん中に投げ込むダニ
エル。轟音、紡錘や糸巻きは吹っ飛び、糸が散乱し、歯車が止まる。機械を修理
するブルーム、何気ない顔で手伝うダニエル。歯車を外したと言って、褒められ
る。機転の利く少年がいて助かった、さもなきゃもっと損害が出た。
不審な金属片を調べるブルーム、しばり首もの。ダニエルがとぼけるので、そ
れは孤児のせいにされる。しかし、そんな事を報告しても仕方がないと、胸に収
めるブルーム。
機械の下で最終点検をするダニエル、壁ひとつ隔てた所で、クランリーとフレッ
チャーの会話。わずかな布の疵を探して給料を削る。今日の停止でブルームも一
週間分の減給。
さらに二人の会話、あの息子はなかなか口を割らないが、自分はヨークシャー
で黒いランプ党員だった父を見たと語るクランリー。
修理の怪我で早退するダニエル。
父とクランリー
帰宅すると、家は人でいっぱい。マンチェスターの大集会の話。
パンに科せられる税金。クランリーがどんなに大飯喰らいでも、奴の半年分の
食糧よりも多くを、この谷間は一週間で食べる。我々の稼ぎの半分は税で持って
行かれるが、クランリーは百倍稼いで納税は少し。
国を治めるのは貴族や金持ちの仕事、ではアメリカに貴族はいるのか。
ここで愚痴をこぼしているのと、マンチェスターまで行くのと、どららが良い
か。
この集会は法律で許されたもの、我々が礼儀正しく、規律を守る人間だと教え
る為に、整然と行進すべし。
村の代表は父に決定、退散する村人達。工場で聞いた事を話すダニエル、それ
を先に聞いていれば、軽弾みに代表役なんか受けなかったろうにと悔やむ父。
黒い人影
ふえる訪問者、独身者は好きになれないダニエル。村中でデモの準備、プラカ
ード、刺繍、「選挙権と自由」
フレッチャー、クランリー、そして謎の男。その男の容姿を伝えると、それこ
そが、政府の犬カースルと言う父。
クランリーの正体
治安判事、デモ禁止令。新しいデモ計画、1819.8/16。
マンチェスターががらん堂になったという噂。
蒸気によって、俺達の生活は変わる。問題は、良く変わるか、悪く変わるかだ。
黙っていれば、悪く変わる。
ジョンが前科者をつれて来る。スタホード刑務所で一緒になった偽金造りは、
政府の犬となって極刑を免れた。それがクランリー。
どんなに深く埋めようと、過去は墓地からはい上がってくる。お前も疚しい事
のないように生きろ。
ぼくは首になった
ダニエルから情報を聞き出そうと、ねちねち話しかけるクランリー。たまりか
ねて、父はスタホードの近くに住んでいたと言うダニエル。解雇。
いよいよデモだ
ロビンフッド亭に集まるヘルムショウの村人達、骨と皮ばかりに痩せた断食信
徒ブリッグズらも参加。せめて食べてからでないと参加させないと、乏しい中か
らパンやチーズを食べさせる村人。
マンチェスターへ
ベリの広場で小集結、喧嘩する者ははじく、棒を持つのも禁止。
人を圧倒するマンチェスター、大きな工場や倉庫の群れ。聖ピータース教会前
広場に到着。
騎兵の襲撃
広場を埋め尽くす大群衆、小路にひそむ不吉な金属のきらめき。
マンチェスター、ソルフォードの治安判事は近くで待機。
ハントの演説中断。マンチェスター警察からの中止命令。そこへ、騎馬義勇兵
の乱入。これは正規兵ではなく義勇兵であり、志願した商店主、工場主、もしく
は彼らに雇われたならず者。
労働者に切りかかる義勇兵。中にクランリーもいる。過去の秘密を知るダニエ
ル親子を執拗に狙うクランリー。父は背中を切られる。ダニエルは同士ルークに
助けられる。
御者の裏切り
ルークとの逃避行、父の行方は知れない。周囲には官憲がうろついている。足
元を見られて、36ペンスで荷馬車に乗せて貰うふたり。
モズリーで、ふたりを兵隊に明け渡す御者。
敵の手を逃れて
牛小屋に閉じ込められる二人。上着に搾った乳を、ダニエルに飲ませるルーク。
靴の留め金を外し、延ばし、直角に曲げて、錠を外すダニエル。
逃亡
中継地点の小屋、父親はジョンが助けた。父はスペン谷にいる。皆は解散する
が、ダニエルは残される。子供の手に首を預ける訳にはゆかない。
三日後、解放されてヘルムショウへ帰るダニエル。
ぼくがエマを助ける
叔母に預けたエマは、クランリーが連れ去り、工場で働かせている。
ブルームの協力、政治には関わりはないが、子供の為なら手を貸そう。
エマが見つかった
工場の裏門から入る。バーンズ夫妻の部屋の前を通り、子供部屋に到る。ぼろ
をまとい、表情のない子供達。殴られて、正気を失っているエマ。兄を見ても気
付かない。ふたりで塀を越える。
クランリーは死んだ
犬が吠えて、クランリーが飛び出す。逃げる兄妹。追いついたクランリー、棒
で打ちのめそうとする所を、背後から、正気を失ったブリッグスに倒される。ブ
リッグスは水門を壊そうとしていた。水門の破壊、工場を押し流す大洪水。
あすに向かって
念願かなって、ワットの工場で働くブルーム。
1819制定の治安維持法の廃止。
織工の多くは、今では紡績工場に雇われている。しかし、自由だった頃の事は
忘れていない。心が死んでしまうと、家畜と同じになってしまう。
ピータールー広場で切られた人、殺された人、投獄された人もいた。しかし、
その名誉は回復され、敵だった奴らは、悪人と見なされ、表に顔を出せないでい
る。
スペン谷の工場主フィールデンは立派な人で、工員を虐待したり、お辞儀をさ
せたりしない。どっちにしろ、機械は人間をしゃぶり尽くす。
解説
アークライト、クランプトン、ワット、産業革命の裏側の歴史。黒いランプは、
それに対抗する織工の実在の秘密結社の名前。気の遠くなるような長くて苦しい
戦い。
参考
ピータールーと大塩平八郎との比較
黒いランプの感想
ピーター・カーター紹介
イギリスの地方小説の紹介
ピータールー虐殺事件
1819.8/16、選挙権を獲得する為の織工たちのデモ。マンチェスター聖ピータ
ース寺院ピータールー広場に六万の集会。
これに対して政府は、警察、軍隊、そして地主、商人、工場主からなる騎馬義
勇兵を率いて弾圧。
ピーター・カーター略歴
1929、誕生。
13才から大工。
29才からオックスフォード大学。
現在、バーミンガムで移民に英語を教える学校の副校長をしている。（それは
まずいんじゃないの？）
寸評
一応、童話で、たいして面白くないんですけど、歴史背景を知って置くべきじゃ
ないかと思って収録しました。パリ・コミューンみたいなもんかな。
この童話の作者が、移民相手の英語教師という所が、うさん臭いですね。それ
は、イギリス人の労働者を圧迫しているでしょうに。
パリ・コミューンにしても、それを熱烈に伝説化しているのが、マルクスに、
サルトルですからね。理屈ばっかり振り回している、額に汗して働いた事のない
連中。労働者が血を流して、その墓石の上にインテリが地位を築くのです。やは
り最終革命は、打倒インテリ！ これで決まりですよ。そして我々は、マイスタ
ー・ジンガーになるのです。