虹を掴んだ男／サミュエル・ゴールドウィン
Ａ・スコット・バーグ、吉田利子訳、文芸春秋、1990。
1879.7/、ワルシャワ生まれ。13万人、ヨーロッパ最大のユダヤ街。
1881、ロシア、ボグロム＝ユダヤ虐殺政策。徒歩、ドイツ国境を密入国。ハン
ブルグで泣きじゃくり、手袋仕事をして渡英。英語の勉強をしながらスポンジ売
り。渡米、ラブラドル号でカナダ行き。
18991/1、ハリファックスから寒波の中、メイン州ミルタウンに着く。文字通
り四つんばいになって大地に口付けした。
グローバーズ・ビルで手袋加工業。毎日のように新しい会社が誕生。エリート・
グラブに転職。「質の良い物を少量作る」という姿勢を学ぶ。
駆け出しの工員でもかなりの暮らしが出来たグローバーズ・ビル。階級差は存
在せず、犯罪はないに等しい。
1904、セールスに転向。「一番難しい、売れた事のない地域で売って見せます」
1913.4/7、ウィルソン大統領、産業コスト上昇の解決策としての関税引き下げ。
手袋業界に打撃。
輸入手袋、左右別々に輸入し、関税を払わず、競売に掛けられるのを待って購
入する。経営陣は身内で固められ、入れない。辞表。
ユダヤ系米人に支えられる映画創成期。ワーナー兄弟の映画館、ユニバーサル
のレムリ、パラマウントのラスキー、ウィリアム・フォックス等。
「スコオ・マン」製作、ラスキー社を割って出る。
ゴールドウィン社設立。
ハリウッドの熱気、イットの時代。自分達はほかの人間とは違うという思い、
それと矛盾する、夢に描かれた人生ではなく、現実の人生に立ち戻る不安。（キ
ング・ヴィダー談）有名スターは王侯貴族と並ぶ。逆にまた、堕落の都という評
判。
シュトロハイム、ルビッチの渡米。メトロとゴールドウィンの合併。劇場主で
あり詐欺師でもあるゴッドソルによる追放。
貧乏娘フランシス・ハワードとの再婚。ハリウッド・ブールバードの成り金。
ユナイト、ピックフェアへの接近。
「ステラダラス」成功。クーパー登場、トーキーの時代。ワーナー兄弟の「ジャ
ズ・シンガー」
自社投資で株の暴落を乗り切る。デビッド・セルズニックの登場。
不況下に、ジーグフェルドの「フーピー」を映画化。エディ・カンターの主演、
バズビー・バークレイの振り付け。
カンター、まわりまで明るくするような彼のオプティミズムと魅力的な腰の低
さでスターの座を獲得。
カード三味の日々。
ロウズ株、1/4。ＲＫＯ、50→1.8＄、パラマウント、150→3＄。二年間は下が
り続け。ピック、フェア、グリフィスは事実上の引退。
ニューヨーク下町のアパート周辺で事件が終始する「街の風景」を映画化。シ
ルヴィア・シドニーの起用。
映画化に当たっての、監督キング・ヴィダーの考察。
舞台の簡潔な雰囲気をいじって、動きや場面を家の中に持ち込んだり、屋内の
場面を作ったりするのは間違いだろう。だが同時に、階段と歩道の片側だけで演
じられる静的で動きの少ない場面では、動きに変化を付けるのはまず無理だ。そ
の為に単調な結果に終わるのではないか。
その打開策。
二度と同じカメラ・アングルを使わない。セッティングに変化が無くても、カ
メラには変化が付けられる。見下ろし、見上げ、正面から覗き込む。あるいは高
い所から、低い所から、ブームから、移動車から撮る。さらに、ぐっとカメラを
引いて歩道の片側だけでなく、通り全体を撮る。この柔軟なカメラの動きによっ
て、映画は芝居よりもいっそうエルマー・ライスの題名にふさわしい作品になる
だろう。通り、歩道、建物の正面、この縄張りの中で、すべてのドラマが展開す
るのだ。
アルフレッド・ニューマンの音楽。
グロリア・スワンスン主演「今宵ひととき」
女性が映画を観に行くのは、美しく着飾った女性が見たいからだという信念。
ココ・シャネルの招聘。
ゾエ・エイキンズの喜劇「ザ・グリークス・ハド・ア・ワード・フォア・イッ
ト」 玉の輿を狙う三人娘の物語りを映画化。「仰言ひましたわネ」は失敗。し
かしその後、「マイアミの月」「百万長者と結婚する法」として再映画化。
有名作家ベン・ヘクトが一晩で口述した「国際盗賊ホテル」は失敗。
ベティ・デイビス、シャーリー・テンプル、メイ・ウェスト、キャサリン・ヘッ
プバーン、ジョーン・クロフォード、グレダ・ガルボ、マレーネ・ディートリッ
ヒの時代、スターのいないゴールドウィン。最高の掘り出し物アンナ・ステンの
売り出し失敗。
フランシスとジョージ・キューカーの友情。ビバリー・ヒルズ、ローレル・レ
ーン1200番地の邸宅。
ゴールドウィン・ガールズの一員ルシル・ボール、醜いアヒルの子。笑いを取
るスタント、ステップを踏み間違える。アップで眼をパチパチさせる。胸にティッ
シュを詰める。泥に飛び込む。口を大きく、眉を高く描く。
ＭＧＭによるバークレイの引き抜き。
カール・レムリの甥ウィリアム・ワイラーの渡米。
1930、犯罪実話集「バッド・コンパニオンズ」ウィリアム・ラフレッド記述、
「閉ざされた扉、あるいはドラムズヒュー事件」 エジンバラの女学校がレズビ
アンの噂で閉鎖。
数ケ月後、リリアン・ヘルマン三幕物「子供の時間」 ブロードウェイで七百
回。
ヘルマン、ワイラーで「この三人」映画化。
ゴールドウィンの流行追い、「男の敵」から政治物を。「ある夜の出来事」か
らスクリューボール・コメディーを。「大地」から「ハリケーン」を。
1929、シンクレア・ルイス作「ダッジワース」 早ければ二万のところ、遅れ
て十六万で買う。「これならヒット作の芝居が買える、あの時はただの小説だっ
たじゃないか」 多くのプロデューサーが不倫物語と捕えていたのを、誇りを持っ
た男の物語と捕える。
ワイラーの戦略、フランをあまり嫌な女に描かない。さもないと、そもそも彼
女と結婚した夫が情けのない愚か者に見えてしまう。
ゴールドウィン腸摘出、フランシスの活躍。カンター、オベロンの再契約、ハ
リケーンのタヒチ撮影隊、ピックとのユナイト契約。気力と体力の衰え。
「ゴールドウィン・フォリーズ」天才の集結。ガーシュイン、アルフレッド・
ニューマン、ヘルマン、ジョージ・バランシン、ヴェラ・ゾリーナ。ゾリーナへ
の執着。それを知らぬゾリーナとバランシンの恋。
家庭の危機、フランシスのまとめた荷物を解くのを手伝うキューカー。
1938、米国にもファシズムの台頭。ラング、ワイルダー、ブレミンジャー、ディ
ターリの渡米。ハリウッド、生命、自由、幸福の賛歌。
ヘクト、マッカーサー、ワイラーの「嵐が丘」 オリヴィエの連れて来たヴィ
ヴィアン・リーを見初めるデビッド・セルズニック。
ルーズベルトの長男ジェームズを副社長に、エレノアとの交流。
9/1,3、独英戦争、ニーヴンの出陣。ユナイト経営陣との戦い。
診療士ヒルデ・バールの世話になる。母親が息子をどう扱って良いのか判らな
い事、その力もない事を見抜き、寄宿舎付きの大学へやる事を進める。また、フ
ランシスの仲介による父子の仲直り。
ポーランドの妹夫婦、温泉旅行に寄ったので逃げ遅れてトレブリンカ送り。
孤立主義、ジョゼフ・ケネディの演説。「ナチスと戦ったり、民主主義を称え
る映画作りを止めるべきだ」 ユダヤ人が戦争の原因だという見方。ユダヤは黙っ
てろという恫喝。
1940.2/29、風とともに去りぬ、オスカー大量受賞。翌年、セルズニックの「レ
ベッカ」作品賞。
ゴールドウィン、ユナイト法廷闘争激化。フィルムも回せない状態。
1941、ピックフェアへ乗り込むフランシス、膠着状態で得をする者は誰もいな
いと主張、わっと泣き出して床にひれ伏し、夫の契約からの解放を願う。ピック
「そんな事をなさらないで、わたしが何とかしますわ、お願いですから立ち上がっ
て下さいな、フランシス」 問題解決。
第一次大戦、スタジオシステム、トーキー、大恐慌、すべて切り抜けて、一か
ら出直し。「偽りの花園」
ビリー・ワイルダー（シュムエル・ヴィルダー）ウィーンからベルリン、「ニ
ノチカ」「ＡからＺまで（教授と美女）」の原稿とともにハリウッドへ。原題「ボ
ール・オブ・ファイヤ」として成功。
1941.12/8、対日宣戦。始めて、アメリカ人とユダヤ人が共通の敵にぶつかっ
た。戦意昂揚とともに、慈善、信仰の顕在化。
トラックは軍用に、セット、ヘアピンの使い回し、カー・チェイス禁止。
ルー・ゲーリッグの映画化、ゴ「客は野球を見たければ球場に行くよ」 脚本
ニーヴン・ブッシュの押し。「打撃王」
「ダニー・ケイの新兵さん」 髪を脱色して売り出す。単なるまぬけ役でなく、
熱心な頑張り屋を演ずる。
劇場チェーンを持つ映画会社に対する訴訟、1938.7/20以来遅々として進まず。
キャグニー、チャップリン、ディズニー、ピックフォード、セルズニック、ウェ
ルズ、ゴールドゥイン。ワーナー、パラマウト系が利益を外に出さない事を問う。
1944.8/22、ネバダ州リノ、映画館ではなくダンス・ホールで「新兵さん」を
上映。ゴールドウィンとピックフォード、床に椅子を釘付けするパフォーマンス。
最終的に、製作と興行を切り離す判決。
息子の従軍。
1944.8/7、タイム誌、帰還兵士の特集。胸を打たれたフランシス、帰還兵士を
扱った映画を勧める。帰還兵士、天使は、すでにブーム。
マッキンレー・カンター脚本、「グローリー・フォア・ミー」 戦中はまだ早
いと判断。
言葉の言い間違いの多いのをや喩して、ゴールドウィニズムなる言葉が生まれ
る。ＰＲ業界のソネンバーグを雇ってイメージの刷新。特ダネと引き換えに中傷
記事を控える、映画製作にかける情熱、フランシスの内助の功。二年で契約切れ。
ゴールドウィニズム、たちまち復活。例、くさす者もいればけなす者もいる。現
実ではない、事実だ。人前では陽気に笑うが、カウンセリングには「自分の口が
憎い」とこぼすゴールドウィン。気の利いた愛すべきものと助言。
1945.2/、ルーズベルトの特別顧問としてイギリスに赴任。チャーチルとも対
談。最高の個性を、最高の毒性と言い間違える。
戦後、ニーヴンの凱旋、ワイラー中佐、耳を壊して帰還。
グローヴァーズヴィル訪問、ハンブルグから渡英させてくれたぴか一職人リェ
ブグリドへの時計と送金。
原案カンターから脚本ロバート・シャーウッドへ。現実の義手ハロルド・ラッ
セルの出演。ワイラー、カリフォルニア州オンタリオにある飛行機墓場の場面を
挿入。グレッグ・トーランドの撮影。「我等の生涯の最良の年」
ジョセフ・Ｉ・ブリーンの支配する製作規定管理局「ブリーン・オフィス」の
改正命令、結婚の破局、情熱的なキス、ビールを飲んだ後の下品なげっぷにクレ
ーム。無視して罰金支払いを選ぶ。
客はガムを噛むのさえ忘れた。
寸評
涙なくしては読めない一代記。こういう人たちの戦いが、アメリカの自由を育
んだのでしょう。
雪の大地に口付けする場面、心に沁みます。今じゃインターネットで、自由の
方からこっちに来てくれてんです。無駄にしては罰が当たりますね。
注釈 を付けておきましょう。
メアリー・ピックフォード、ダグラス・フェアバンクス、チャールズ・チャッ
プリンは、サイレント時代の三大スター。これに監督のデビッド・ウォーク・グ
リフィスを加えた四人が、映画会社ユナイトの創設者です。
二十世紀初頭のニジンスキー、中葉のバランシン、末期のベジャール、ヌレエフ
と、四大カリスマ・ダンサーです。彼らは哲学者、思想家でもあり、手記も残して
います。ヴェラ・ゾリーナというのは、当時のプリマドンナでしょう。
ダッヂワースは邦題を「孔雀夫人」といい、ビデオも出ています。ダッヂという
のはアメリカの自動車メーカーで、それと英国の出版社ダックワースとから作られ
た、父性的な印象のある上品な名前ですね。
別の本によると、ケネディ−オナシス−シェル石油という付き合いがあるそうで
す。1929暴落前に売り抜けるというのも、ユダヤ財閥とのつながりがなければ無理
なようだし。ジョゼフ・ケネディの反戦＝反ユダヤ発言は上辺だけと見た方が良い
かも知れませんね。